薄層クロマトグラフィー:
原理、溶媒、Rf値、発色試薬など
- 概要: TLC とは
- 方法の概要と Rf 値
- Rf 値の一覧
- TLC 担体の種類と選択
- TLC 展開溶媒の種類と選択
- TLC 発色試薬の種類と選択
- UV 吸収を利用した検出
- 発色試薬による検出
- TLC を用いた分離の実例
- 糖の検出: TLC によるラクトースの検出
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概要: TLC とは
薄層クロマトグラフィー (TLC; thin layer chromatography) とは、ガラス板やアルミニウムの上にシリカゲルなどの担体を薄く張ったプレートを用いて行うクロマトグラフィーである。
担体および移動相の選択によって、さまざまな物質を手軽に分離することが可能である。一方、定量性などは HPLC など他のクロマトグラフィーよりも低い。そのため、分離の予備的検討などに多く使われる手法である。
- 極性の高い担体が電気的相互作用によって試料を吸着し、それを極性の低い移動相で分離するモードを
順相 という。 - 逆に、極性の低い担体が疎水性相互作用によって試料を吸着し、それを極性の高い移動相で分離するモード
逆相 という。
順相・逆相は他のクロマトグラフィーでも使われる用語である。
方法の概要と Rf 値
適切な大きさの TLC プレートにサンプルをスポットし、図 (Public domain) のように展開槽の中で展開液に浸す。
すると、展開液が次第に浸みて登ってくる。このとき、スポットしたサンプルも一緒に上に移動する。
サンプルと TLC プレートの相互作用、サンプルの展開液への溶解度によって移動距離が変わるため、物質を分離することができる。
溶媒が上がった距離、物質が移動した距離をそれぞれ L および A とすると、A を L で割った値 A/L を
Rf 値の一覧
Rf 値は TLC の条件によって異なるので、Rf 値を正確な値として一覧にすることはできない。以下のようにある程度の範囲をもって一覧にすることになる。
物質 | Rf 値 | 特徴 |
---|---|---|
β-カロテン | 0.9 - 1.0 | トマト、ニンジン、パプリカのなどに含まれる赤橙色の色素。詳細は カロテノイド のページを参照のこと。 疎水性が高いので、シリカゲルと有機溶媒を用いる一般的な TLC では Rf 値が高くなる。図は文献 5 より。 |
キサントフィル | 0.6 - 0.9 | |
クロロフィル a | 0.4 - 0.6 | |
クロロフィル b | 0.2 - 0.5 |
TLC に使われる支持体および担体の種類
支持体
支持体には、以下の物質が使われている (1)。
ガラス | 耐薬品性に優れており、もっとも一般的に使われる支持体である。 |
アルミ | ガラスよりも薄いのが利点。ただし 強酸、強アルカリ、Formaldehyde/硫酸、Isatin/硫酸、濃硫酸、Vanillin/硫酸、リン酸、リン酸/Bromine は使うことができない (1)。 とはいえ、終濃度 10% 程度の硫酸で有機化合物を発色させるのは問題ない。さっと dip してホットプレートで焼けばよい。 |
プラスチック | かさばらずに保存でき、透過光を用いたデンシトメーターによる定量が可能である (1)。ただし熱に弱く、硫酸系の発色試薬を使うことができない。 |
担体
一般に TLC に使われる担体は以下の表の通り。
シリカゲル |
シリカとは、二酸化ケイ素 SiO2 のことである。担体として用いる場合はこれが修飾されており、 つまり |
アルミナ (酸化アルミニウム) |
シリカゲルとは異なる |
セルロース | セルロース表面の OH 基と水素結合を形成した水が固定相になる (1)。カルボン酸、炭化水素、核酸 などの分離に使われる。 |
逆相プレート | C18-, C8-, C2- の修飾をしたシリカゲルである (1)。これによってシリカゲル表面の極性が下がり、低極性の物質を分離できるようになる。 |
シアノ | シリカゲル表面をアルキルシアノ基で修飾した担体。展開溶媒の極性によって、順相と逆相のどちらの分離モードでも使用できる。 |
アミノ | シリカゲル表面をアルキルアミノ基で修飾した担体。糖、カテコールアミン、ステロイド、カルボン酸などの分離に適している (1)、 |
TLC 展開溶媒の種類と選択
TLC の展開溶媒の組成は複雑であるが、基本的には
バイオタージ・ジャパンのサイトに、溶媒強度の一覧が載っている (9)。以下の表は、それを参考に各種溶媒の特徴などを追加して作ったものである。
溶媒 | 強度 (極性) | 特徴 |
---|---|---|
メタノール | 0.95 | |
エタノール | 0.85 | |
イソプロパノール | 0.82 | |
アセトニトリル | 0.65 | |
エチル酢酸 | 0.58 | |
テトラヒドロフラン | 0.57 | |
アセトン | 0.56 | |
ジクロロメタン | 0.42 | |
クロロホルム | 0.40 | |
ジエチルエーテル | 0.38 | |
トルエン | 0.29 | |
ヘキサン | 0.01 | |
ヘプタン | 0.01 | |
イソオクタン | 0.01 |
例えばシリカゲル TLC プレートを使っている場合、サンプルとプレートは電気的に相互作用している。したがって、
- 極性の高いサンプルほど、TLC プレートとの電気的な相互作用が強い。
- 極性の低い溶媒では、その相互作用を切ることができない。溶媒の強度を上げると、徐々に溶媒とも相互作用を始める。
- シリカゲル TLC で Rf 値が低いときには、溶媒強度を上げればよいことになる。
混合溶媒の強度
混合溶媒の強度は、各溶媒の濃度と割合から算出される。たとえば、ヘキサン : 酢酸エチル = 70 : 30 の場合は
である。
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TLC 発色試薬の種類と選択
UV 吸収を利用した検出
多くの TLC プレートは、UV を当てると緑色に光るような物質が塗られている。UV 吸収をもつ物質があると、その部分のみ UV が届かず、黒っぽく見える。これが最もシンプルな検出方法である。
ベンゼン環は一般に UV を吸収するので、ベンゼン環を含む化合物はこの方法で検出することができる。
発色試薬による検出
一般に TLC に使われる発色 (呈色) 試薬は以下の通り。とりあえずいくつか。文献 9 のリンク先にはもっとたくさんの発色試薬が載っている。
硫酸 |
|
p-アニスアルデヒド | 万能呈色試薬、ほとんどの官能基に有効である (9)。とくに求核性のあるフェノールや糖。 |
リンモリブデン酸 | 万能呈色試薬、ほとんどの官能基に有効である (9)。 |
ニンヒドリン |
TLC を用いた分離の実例
炭水化物 (糖) の分離
Practical Biochemistry for Colleges (Amazon) という学部レベルの面白い実験を集めた便利な本に、牛乳をサンプルにしたラクトースの簡単な TLC 実験が載っている。このページ に詳細をまとめた。
検出限界に関する文献はまだみつけていないが、50 - 100 µg の糖をシリカゲル TLC で十分検出できているようである (4)。
> 金属イオンを利用して lactose などの 炭水化物 をシリカゲルで分離した論文 (3)。
- KMnO4 in 0.1 M NaOH で検出。展開溶媒は PrOH-H2O というよくわからない試薬。
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References
- Sigma-Aldrich TLC プレート 選択ガイド. Pdf file.
- 吸着クロマトグラフィー. Link.
Bhushan & Kaur 1997a. TLC separation of some common sugars on silica gel plates impregnated with transition metal ions. Biomed Chromatgr 11, 59-60.- Amazon link:
Wood 2012a (Book). Practical Biochemistry for Colleges. Mikami & Hosokawa, 2013a. Biosynthetic pathway and health benefits of fucoxanthin, an algae-specific xanthophyll in brown seaweeds. Int J Mol Sci 14, 13763-13781.- TLC 発色剤の調製法・使用法. 2021/07 リンク切れ: http://www.scc.kyushu-u.ac.jp/Yuki/link/tlc.html
- TLC用発色液の調製法と用途. 2021/07 リンク切れ: http://md.fms.saitama-u.ac.jp/study/tlc.html
- シリカゲルの小ネタを集めてみた Chem Station. Link.
- TLC 呈色試薬. 東京化成工業. Link.
- 化学にまつわるアレコレ. Link.
- 光合成 FAQ. いろいろな色素のRf値を教えてください Link: Last access 11/11/2017.
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