SDS-PAGE: 原理、プロトコールなど

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このページの最終更新日: 2024/12/15

  1. 概要と原理
  2. プロトコール
  3. トラブルシューティング

関連ページ

  • 関連ページ (ゲルの染色): CBB 染色、銀染色、蛍光染色

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概要と原理

SDS-PAGE とは、ドデシル硫酸ナトリウム (SDS; sodium dodecyl sulfate) および ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (PAGE; polyacrylamide gel electrophoresis) を用いて、タンパク質 protein を分子量によって分画する手法である。




CH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-O-SO2-ONa

SDS の構造 (Public domain)

以下の 2 点が SDS-PAGE の原理のポイントである。

  1. 常に負の電荷をもつ DNA と異なり、タンパク質の電荷はその種類や溶媒の pH などによって変化する。電気泳動を行うには、何らかの方法でタンパク質全体の電荷を揃える必要がある。SDS-PAGE では、SDS がタンパク質に結合して負電荷を与える。
  2. また、タンパク質はさまざまな高次構造をとる。電気泳動では、ゲルの網目を流れる際の抵抗によってタンパク質をわけるので、分子量が同じでも、球状のタンパク質は早く泳動され、長い紐状のタンパク質はゆっくりと泳動される。そのため、電荷だけでなく高次構造を揃える必要がある。SDS-PAGE では、SDS でタンパク質を変性させ、さらに β-メルカプトエタノールでシステイン cysteine 同士のジスルフィド結合を還元することで、タンパク質を直鎖状にしている。

タンパク質に結合する SDS の量は、ほぼ全てのケースで分子量に比例する (2)。これによって、タンパク質を分子量に応じて分画することが可能になっている。ただし、荷電アミノ酸が多量に含まれていたり、タンパク質がリン酸化などの修飾を受けている場合には、移動度は必ずしも分子量通りにはならない (2)。


> およそ 2 アミノ酸ごとに 1 分子の SDS が結合する (2)。

  • 1 g のポリペプチドに対して、1.4 g の SDS が結合しているという計算になる。

プロトコール

概要

以下、SDS-PAGE の手順を順番に解説する。

  1. ゲルの作成
  2. 電気泳動
  3. ゲルの染色


ゲルの作成

最近では既製品のプレキャストゲルを買うのも一般的だが、自分でゲルを作るときには以下の試薬を用いる。


30% アクリルアミド溶液

アクリルアミドは、ゲルの網目構造を作り出す物質である。

30% アクリルアミド溶液と書かれることがあるが、実際は w/v で 29% のアクリルアミドと 1% の N,N'-bis-アクリルアミドを含む混合液が使われる。これらの濃度は、製品によって異なることがある (2)。 アクリルアミドだけだと直鎖状のポリマーになる が、N,N'-bis-アクリルアミドを加えることで 3 次元の網目構造が作られる。

N,N'-bis-アクリルアミドの割合が高いと、ゲルの pore size が小さくなる。下にあるゲルの濃度とタンパク質量の関係を示した表は 29 : 1 の場合であり (2)、製品によっては再検討が必要である。

  • 15% アクリルアミドゲル: 10 - 43 kDa
  • 12% アクリルアミドゲル: 12 - 60 kDa
  • 10% アクリルアミドゲル: 20 - 80 kDa
  • 7.5% アクリルアミドゲル: 36 - 94 kDa
  • 5.0% アクリルアミドゲル: 57 - 212 kDa

Tris buffer (1.5 M, pH 8.8)

Resolving gel (separating gel) に使う緩衝液。

Tris buffer (1 M, pH 6.8)

Stacking gel に使うバッファー。

SDS-PAGE ゲルには stacking gelresolving gel がある。Stacking gel の役割は以下の通り (2)。

  • pH 6.8 では、泳動バッファー (Tris-HCl, pH 8.3, glycine) に含まれる グリシン の解離度が低く、Cl- よりも遅く泳動される。
  • したがって、電圧をかけると Cl- は泳動の先端に、グリシンは泳動の後端に位置する。
  • イオンが先端および後端に集中するので、その間の領域は電流が流れにくい low conductivity の領域になる。つまり抵抗の大きい領域である。
  • この領域には、たくさんの電圧がかかることになる。オームの法則 E = IR で、I はひと続きのゲルなので一定、R が大きいので必然的に E が大きくなる。
  • SDS と結合したタンパク質の泳動速度は両者の中間であり、この電圧が高い領域に存在する。高電圧なので早く泳動されるが、先行する Cl- に近づくと電圧が下がるので遅くなる。後方からグリシンが近づいてくると、電圧も上がって泳動が早くなる。結果として狭い領域に stack される。
  • これによって、タンパク質は濃縮されて同時に resolving gel に入る。つまり stacking gel を使うことで解像度が大きく上がる。
  • グリシンが pH 8.8 の resolving gel に到達すると、泳動速度は早くなり、ポリペプチドを追い越す。この過程で、ポリペプチドはさらに stack される。

過硫酸アンモニウム: APS

フリーラジカルを発生し、アクリルアミドの重合を促進する。

蒸留水で 10% 溶液を作りストックしておく。1 - 2 週ごとに新しいものを使用する (2)。

TEMED

N,N,N',N'-tetramethylethylenediamine。APS によって作られたフリーラジカルを安定化する試薬。重合を促進する。APS, TEMED ともに重合促進剤と考えるのが妥当である (3)。


具体的なプロトコールは、とりあえず以下のサイトを参照。


電気泳動

必要な試薬は、基本的に泳動バッファーと 2x Laemmli buffer のみ。

泳動バッファー

以下の組成の Tris-Glycine buffer が一般に使われる。10x バッファーが市販されているが、簡単なので作った方が安いだろう。作る際には、とくに pH を合わせる必要はない。

25 mM Tris, 192 mM Glycine, 0.1% (w/v) SDS.

Cold Spring Harber プロトコール では、10 x 溶液を 1 L 作る場合、30.0 g of Tris base, 144.0 g of glycine, and 10.0 g of SDS in 1000 ml of H2O と書かれている。pH は自動的に 8.3 ぐらいになり、調整不要。室温で保存し、1 x を実験に使う。

2x Laemmli バッファー

4% SDS, 20% グリセロール, 10% 2-メルカプトエタノール, 0.004% bromphenol blue and 0.125 M Tris HCl, pH 6.8 (Sigma の製品ページ).

サンプルと 1 : 1 の割合で混ぜ、沸騰水中で 3 - 5 分ほど変性させてからゲルにアプライする。


一般に stacking gel 中は低電流で泳動し、separating gel に入ったら電流を上げる。私が習ったのは、15 mA - 30 mA ぐらいが普通で、25 mA - 50 mA ぐらいまでなら問題ないという方法だった。

SDS-PAGE の泳動段階でよく議論されるのは、定電流にすべきか、定電圧にすべきか という点である (4)。

ここで考えるべきポイントは、以下の 3 点である。

  1. オームの法則 V = IR (電圧 = 電流 x 抵抗)
  2. 電気泳動が進むと、ゲル中の塩化物イオン Cl- が緩衝液中の グリシン やトリシンに置換される。塩化物イオンは導電率が高く、ゲル中を高速で移動するためである (4)。
  3. そのため、電気泳動中は 抵抗が徐々に上昇する。
  4. 電気泳動による発熱は、原則としてワット数 (電流 x 電圧) が高いほど大きくなる。

定電圧モードでは、抵抗が上昇すると電流は減少する。したがって、電気泳動が進むにつれてワット数が減少し、発熱も小さくなる。泳動時間は、定電流モードよりも長くなる。

定電流モードでは、抵抗が上昇すると電圧も上昇する。同じ電流を保つためである。したがってワット数も大きくなり、ゲルが発熱する。また、接触不良などによって局所的に抵抗が大きくなっても、発熱が起こる。

ゆえに、定電流モードを使うときは、電圧の最大値を設定しておく のが安全である。

トラブルシューティング

ゲルのスマイリング、酸性サンプルなどにみられる泳動の歪みなど。更新予定。


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References

  1. ページ編集の際に削除
  2. Green and Sambrook, 2012a. Molecular cloning: A laboratory manual, 4th edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press.

分子生物学関係のプロトコール集では、この本よりも有名なものはないだろう。

日本語版がない、電子書籍版もない、値段が高い、重い (3 冊組でとどく) など問題点は多々あるが、それでも実験室に必ずあるべき書。ラボプロトコールをまとめたりする時間を大いに節約することができる。

このサイトにあるプロトコールも、多くはこの本の記述を参考にしたものである。


  1. 効率の上がる核酸実験法 第3回 変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (III). 実験医学.
  2. Thermofisher タンパク質電気泳動における電力の設定. Link: Last access 2019/05/29.

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このページの目次

1. 概要と原理
2. プロトコール
  ・概要
  ・ゲルの作成
  ・電気泳動
3. トラブル