DNA の抽出: 原理、プロトコール、注意点など
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このページの最終更新日: 2024/02/15- 概要: DNA 抽出の原理
- ProK を用いた DNA 抽出
- 非侵襲的手法 (糞や毛からの抽出)
- 糞からの DNA 抽出
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概要: DNA 抽出の原理
DNA は水溶性であるため、基本的には水の中で組織を破砕すれば溶け出てくる。ただし、それなりの量の DNA を高純度で得たい場合には、組織を効率的に破砕し、かつ DNA 以外の水溶性物質を取り除く必要がある。
したがって、DNA 抽出は大まかに以下の 3 つのステップから成る (1)。
- 細胞を破壊 (溶解) する。さらに 3 パターンがある。
- SDS などの ionic detergents を使う方法。
- グアニジン塩など、分子の疎水結合を弱めて水溶性を高める ionic detergents を使う方法。
- アルカリと ionic detergent を組み合わせる方法 (→ アルカリ法によるプラスミド抽出)
- DNA とタンパク質の結合を切り離す。
- プロテアーゼ を使用する方法。
- DNA を吸着するマトリックスを使う方法。
- フェノール/フェノクロ処理などでタンパク質を変性させて取り除く方法。
- 最後に エタノール 沈殿で塩を除く必要がある。
Proteinase K を使った代表的なプロトコールを示しておく。
ProK を用いた DNA 抽出
タカラの Proteinase K の製品ページにあるプロトコール (Link)。ProK は「広い基質特異性を有するが、特に疎水性、含硫、芳香族アミノ酸の C 末側に隣接するエステルおよびペプチド結合を優先的に分解する」と書かれている。
- 組織と以下の試薬を混合する [0.01 M Tris-HCl, pH 7.8, 0.01 M EDTA, 0.5% SDS, 1/400 - 1/40 (v/v) Proteinase K]。
- 37 - 56 °C、1 h - O/N で反応。
- フェノール・クロロホルム処理、エタノール沈殿して DNA を回収する。
組織はもちろん小さい方がよいが、破砕が激しいと DNA が断片化してしまう恐れがある。
最初の試薬に NaCl を加える場合もあり、この場合 TNES 緩衝液 と呼ばれる。さまざまな組成が報告されているので、リンク先の TNES 緩衝液のページも参照のこと。
ProK のページには、「カルシウム塩存在下の溶液中で酵素活性が安定に保持され、SDSや尿素といったタンパク質変性用試薬の存在下では酵素活性が上昇する」という但し書きがある。タンパク質変性剤は ProK を変性させてしまうのではないかと心配したが、むしろ基質を変性させ、酵素活性を上昇させる効果があるようである。つまり尿素を加えても良さそう。
非侵襲的手法
絶滅危惧種の DNA 分析、野生の個体群からの試料採集など、DNA を非侵襲的に得る必要がある研究分野も多い。哺乳類では、毛や糞を用いるのが普通であるが、これらは細胞数が少なくかつ不純物が多いために、保存方法や DNA 抽出方法を工夫する必要がある (2)。
非侵襲的」という言葉は捕獲せずに採取できる場合に使い、バイオプシーなど非致死的と区別される (2)。英語では、非侵襲的は non-invasive、非致死的は non-destructive である。
以下のような試料が使われる。
試料 | 特徴 |
---|---|
糞 | 腸管細胞が含まれる (2)。多くの動物で主流となっている非侵襲的分析の試料である。 |
毛 | 類人猿の場合は、ベッドで寝るので採集が容易 (2)。 |
尿 | |
精液 | 糞や毛に比べると DNA 抽出は容易であるが、採取の機会は少ない。 |
血液 |
糞からの DNA 抽出
成功のポイントは
- 新鮮な試料の
表面 からサンプリングすること (2) - Quiagen Stool kit など PCR 阻害物質を取り除ける方法で抽出すること (2)
このほか、条件に応じて試料の量、サンプルの保存方法などを検討する必要がある。ミトコンドリア DNA を標的とする場合は、当然だが解析は容易になる。
> いくつかの種については、経過日数と解析成功率の関係が報告されている (2)。
- 当然のことながら時間の経過とともに DNA の分解は進むので、新鮮な試料を用いる方がよい。
- 条件次第であるが、
数日から 1 週間程度 経過すると、PCR の成功率は低下するようである。 - 湿度が高かったり、雨が降ったりすると成功率は低下する。
> 糞の表面からサンプリングすると成功率が高い (2)。
- 表面を生理食塩水で洗い、それを試料とする方法。表面を削り取る方法も有効。
- おそらく、糞の絶対量を減らして不純物を少なくすることにも意味がある。
- 表面を綿棒で拭い取る方法もある。
> 抽出は Qiagen の
- ただしこのキットは高価なので、その他の方法もよく用いられている。
- フェノールクロロホルム法、Chelex-100 を使う方法。
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References
Green and Sambrook, 2012a. Molecular cloning: A laboratory manual, 4th edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press.
分子生物学関係のプロトコール集では、この本よりも有名なものはないだろう。
日本語版がない、電子書籍版もない、値段が高い、重いなど問題点は多々あるが、それでも実験室に必ずあるべき書。ラボプロトコールをまとめたりする時間を大いに節約することができる。
このサイトにあるプロトコールも、多くはこの本の記述を参考にしたものである。
井上 2015a (Review). 非侵襲的試料を用いた DNA 分析 - 試料の保存, DNA 抽出, PCR 増幅及び血縁解析の方法について - 霊長類研究 31, 3-18.
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