炭水化物の概要
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このページの最終更新日: 2024/07/13広告
言葉の定義
炭水化物と糖の違い
まずは言葉の定義から。基本的に定義は混乱していて、決定版と呼べるようなものはない。辞書の中では、A Dictionary of Biology (Amazon link) の定義が良いように思う (3、以下のボックスの英語部分)。
日本語部分は 理化学辞典 (2, Amazon link) からであるが、この定義では炭水化物 = 糖質 = 糖となり、さらに例えば重合体のセルロース cellulose まで糖ということになってしまいナンセンスである。
このサイトでは下記の英語の定義を採用し、
- 炭水化物の方が糖よりも広い概念
- 糖 = サッカライド saccharide は、比較的構造が単純な水溶性の炭水化物 (オリゴ多糖は含むが、いわゆる食物繊維であるセルロースなどを含まない)
としておきたい。
炭水化物 carbohydrate 含水炭素または糖質ともいう。多くは一般式 CnH2mOm をもち、その One of a group of organic compounds based on the general formula Cx(H2O)y. The simplest carbohydrates are the *sugars (saccharides), including glucose and sucrose. *Polysaccharides are carbohydrates of much greater molecular weight and complexity; examples are starch, glycogen, and cellulose. Carbohydrates perform many vital roles in living organisms. Sugars, notably glucose, and their derivatives are essential intermediates in the conversion of food to energy. Starch and other polysaccharides serve as energy stores in plants, particularly in seeds, tubers, etc., which provide a major energy source for animals, including humans. Cellulose, lignin, and others form the supporting cell walls and woody tissue of plants. Chitin is a structural polysaccharide found in the body shells of many invertebrate animals. Carbohydrates also occur in the surface coat of animal cells and in bacterial cell walls. 糖 sugar 元来は Cn(H2O)m で表される炭水化物。現在では多価アルコールのアルデヒド、ケトン、酸や多価アルコール自体、およびそれらの誘導体や置換体、さらにそれらのアセタールまたはケタール型ポリマーもいう (2)。
Any of a group of |
糖類、糖質、糖分
ここでややこしいのは、日本語には糖類、糖質、糖分という言葉があることだ。これらは
いくつか調べてみた最大公約数的な定義では、
- 「糖質」は英語の sugar に相当しそう。「糖質 = 炭水化物 - 食物繊維」で、ヒトが消化できる炭水化物という感じ。
- 「糖類」はグルコースやフルクトースなど。誘導体である人工甘味料を含まない、糖質よりも狭い概念。
- 「糖分」は明確な定義なし。糖質、糖類よりもさらに適当な言葉か? - 文献 4
ちなみに、炭水化物 = 糖質という理化学辞典の記述はかなり分が悪い。農林水産省のページ では「炭水化物には消化吸収されるもの (糖質) とされないもの (食物繊維) があります」となっている。
単糖 Monosaccharide
単糖 monosaccharide は、重合していない糖のことである。一般に Cn(H2O)m という組成であるが、C, H, O をランダムに並べれば良いわけではなく、
アルデヒド基をもつ単糖を
では、上記の制約を満たした上で、もっともシンプルな構造をもつ単糖を考えてみよう。まずはアルドースから。
アルドース
- アルデヒド基 -C(=O)H は手が 1 本しか残っていないので、分子の末端にしか来れない。
- C の数 = 2 でアルデヒド基と水酸基 x 2 を含めると Cn(H2O)m を満たせない。さらに、C に 2 個の水酸基をつけることになるが、これは構造的に不安定。
- よって C は 3個。図の
グリセルアルデヒド glycelaldehyde がもっとも単純なアルドースである。 - 不斉炭素原子を含み、D 型と L 型が存在する。
グリセルアルデヒドの炭素番号は、アルデヒド基から 1, 2, 3 である。C3 がリン酸化された
グリセルアルデヒドの構造に H-C-OH を足してゆくと、他のアルドースの構造式になる (6)。
少し画像が小さくて見にくいので、有名な糖のみ表にした。C の数と立体構造によって異なる名前がついている。炭水化物の目次 に
リボース |
核酸の骨格になる。 |
グルコース |
主要な栄養源となる糖。 |
ガラクトース |
ケトース Ketose
アルデヒド基でなく、ケト基 -(C=O)R をもつ単糖を考えたとき、もっとも単純な構造のものは右図 (7) の
この分子も解糖系の中間体としてリン酸化された形で生じ、グリセルアルデヒドに異性化される。
以下の図表 (8) に示すように、ケトースの異性体はアルドースよりも少ない。
C - 3
図の 1: ジヒドロキシアセトン Dihydroxyacetone
C - 4図の 2: エリトルロース Erythrulose
C - 5図の 3a: リブロース Ribulose
図の 3b: キシルロース Xylulose
図の 4a: プシコース Psicose
図の 4b: フルクトース Fructose
図の 4c: ソルボース Sorbose
図の 4d: タガトース Tagatose
いずれ、アルドースと同じような表を作ってアップデートしたい。
多糖 Polysaccharide
単糖が重合したものを多糖という。通常は、グリコーゲンやセルロースなど、数多くの単糖が連なったものを意味するが、定義によっては 2 分子の単糖から成る二糖 disaccharide も多糖に含まれる。
主な多糖には、以下のようなものがある。
グリコーゲン |
動物の主要な貯蔵多糖。グルコースが α-1,4-glycosidic bond で結合し、α-1,6-glycosidic bond で分岐して網目構造をとる。およそ 10 分子のグルコースに対して 1 回の割合で分岐する (5)。 下記のアミロペクチンと似ているが、分岐が多いため結晶性を示さず、水溶性になる (5)。また、らせん構造を形成しないためにヨウ素で染色されない。 |
でんぷん |
植物の主要な貯蔵多糖。α-1,4-glycosidic bond で結合し分岐しない Amylopectin はグリコーゲンのように α-1,4-glycosidic bond の直線部分と、α-1,6-glycosidic bond の分岐から成るが、分岐はグルコースおよそ 30 に対して 1 の割合で、グリコーゲンよりも少ない。 アミロースとアミロペクチンは、いずれも酵素 α-amylase によって分解される。 |
セルロース |
Glucose が β-1,4-glycosidic bond で結合した多糖。地球上でもっとも量が多い炭水化物であり、β-1,4 結合によってより長く、まっすぐな構造を作ることができる。一方、Glycogen などの α-1,4-glycosidic bond は折れ曲りが多く、酵素などがアクセスしやすい構造になっている。 |
プロテオグリカン |
グリコサミノグリカン glycosaminoglycan という多糖にタンパク質が結合したものをいう。重量比で 95% は糖である。結合組織に多く含まれ、潤滑の役割を果たす。また、細胞接着にも関連する。 プロテオグリカンの性質は、主に glycosaminoglycan によって決まる。多くはアミノ糖 amino sugar の二糖の繰り返しである。グルコサミン glucosamine またはガラクトサミン galactosamine が主体。
|
配糖体 glycoside
配糖体 glycoside とは、狭義には
なお、アセタール acetal とは R-C(OR)(OR)-R という構造をもつエーテルの一種で、アルデヒドまたはケトンにアルコールを作用させると得られる。
つまり、糖の OH 基の H がアルキル基、アラルキル基、またはアリール基によって置換されたアセタールを配糖体 glycoside という。英語での発音は [glʌkəsʌid] である。
図 (9) は decyl glucoside で、グリコシド glycoside のうち、糖の部分がグルコースであるグルコシド glucoside の一種である。右に長く伸びている炭素鎖が非糖成分であり、この部分のことを
詳細は 配糖体のページ へ。また、glycoside を分解する酵素をグリコシダーゼ という。
References
- Amazon link: Berg et al. Biochemistry: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。
- Amazon link: 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。
Hine (2015). A Dictionary of Biology.
信頼できる定義 (情報源) を手元に持っておくことは重要である。自分の勉強にも役に立つが、外部に向けた書類を (レポート、論文、申請書など) 書く場合の効率が一段とアップする。そして、辞書は 日本語では 岩波 生物学辞典 第5版 をお勧めしているが、英語では Oxford の辞書がよい。大学の初級あたりをターゲットにしていて、あまり難しい単語は載っていないが、英語での定義をしっかりと押さえるにはとても便利。価格帯も非常に手頃。 |
- 糖分とはなんのことでしょうか. Link.
鈴木ら、2021a. 多糖の分岐を考える -澱粉構造と枝作り酵素の研究から- Glycoforum 24, A7.- ページ編集に伴い削除
- By Christopher King (Own work) [CC BY-SA 3.0 or GFDL], via Wikimedia Commons
- ページ編集に伴い削除
- "Decyl-glucoside-2D-skeletal". Licensed under Public Domain via Commons.
アップデート前、このページには以下のようなコメントを頂いていました。ありがとうございました。
2017/11/27 17:59 糖質の英訳が難しいですね。ドライドッグフードのスタディをしているのですが、米国ではカーボとかシュガーを使いますので専門家と思われる方々でも混乱してます。誰にとってのNFE(Nitrogen Free Extracts可溶無窒素物)かSaccharidesなのかを悩んでます。胃が4つあれば食物繊維もかなり消化できますし。 |
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