パラホルムアルデヒド – 染色実験前の組織固定:
構造、原理など
- 概要: パラホルムアルデヒドとは
- 固定の原理
- PFA による組織固定のプロトコール
- 濃度・調製方法
- 作り置きの問題
- 固定時間
- PFA の捨て方
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概要: パラホルムアルデヒドとは
ホルムアルデヒド は図のような構造 (4) をもつ物質で、これが長く繋がったものがパラホルムアルデヒド PFA である。C=O の2重結合のひとつが外れ、酸素原子同士で -O(CH2)-O(CH2)-O(CH2)-O- のように繋がっている。
水 に溶かすと重合が外れ、ホルムアルデヒドの水溶液となる (8)。
いわゆる ortho-, meta-, para-, ipso- のパラとは違うので注意すること。ホルムアルデヒドは刺激臭をもつ無色の有毒気体であるが、PFA は固体である。
4% パラホルムアルデヒド溶液が染色実験で組織を固定するためによく使われる。
以下のような実験で、通常 PFA による組織固定を用いる。
固定の原理
PFA は
タンパク質では、
文献 8 (もとの情報は佐野豊「組織学研究法」) にはさらに詳細な情報が書かれている。すなわち、ホルムアルデヒドが 1 分子の水分子を結合して CH2(OH)2 となり、これがタンパク質と結合するらしい。しかしながら、ホルムアルデヒドと水の結合の反応は、平衡が大きく分離側に傾いており、よって CH2(OH)2 分子は少ししか存在しない。
そのため、実際にタンパク質が架橋されるまでに
> ホルムアルデヒド窒素 formaldehyde nitrogen について (7)。
- ホルムアルデヒドとアミノ酸を混合すると、1 アミノ酸につき 1 個の H+ を放出しつつ結合する。これを NaOH で滴定することで、溶液中の全遊離アミノ酸量を測定することが可能。
- タンパク質加水分解の簡易定量法として使われている。
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パラホルムアルデヒドによる固定のプロトコール
考慮すべき点は、濃度と固定時間である。
濃度・調製方法
基本は 4% PFA で、溶媒には PBS などの 緩衝液 が使われる。組織が柔らかい場合は、0.5% ぐらいから始めて、次第に濃度を上げていく方が形が綺麗に保たれる場合がある。
調製の際の注意点は以下の通り。
- PFA を溶かすと pH は酸性に傾く。NaOH を加えて中性付近に戻し、かつ 60°C 程度に温めないと溶けない。
- 沸騰させると、formaldehyde が気化して有害であるとともに、溶液中の濃度も変わってしまう。以前、早く作ろうとして電子レンジで加熱し、喉を痛めたことがある。
- NaOH は少量でよく、また濃度を厳密に合わせる必要もない。例えば 8% PFA ストック溶液を作る際には、5 から 10 N の NaOH を 50 µL 入れる (5) ぐらいの適当さでよい。
作り置きの問題
基本的に用事調製とされているが、溶けるまでに時間がかかる試薬なので、作り置きをしたくなる。掲示板からの関連情報 (6)。
- 作り置き、小分けして -20°C 保存などで問題なし、という声が多い。
- 分解産物としてギ酸が生じるので、pH を目安にするというのはいいアイディア。
固定時間
一般的には、PFA での固定は必要最小限にしておくのが望ましいとされる。とくに免疫染色の場合、固定時間が長すぎると、抗体によって認識される部位が架橋されてしまいシグナルが低下する恐れがある。
最適な時間はケースバイケースだが、組織の場合は O/N、細胞では 30 分未満が一般的であろう。
- 骨組織に特徴的な TRAP 活性に関する議論もある (3)。
PFA の捨て方
何を下水に流して良いのか も参照のこと。以下、アメリカでの事例。州や大学によってだいぶ基準が異なる。
- 濃度 0.1% (1,000 ppm) 未満の溶液のみ下水に流して良い (ワシントン大学)。
- 濃度 2.5% 以下なら non-toxic とみなされ、下水に流して良い。ただし 100 g/日で、他の毒性物質が混在していない場合 (UC Berkeley)。
- カリフォルニア州は甘いのかもしれない。UC San Diego も 2.9% 以下は nonhazardous である。しかし希釈するのはダメ。
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References
- 有機化学美術館, ホルムアルデヒドの話: Link.
- 蓮井 2012a. 免疫組織化学の基礎と応用. V. 組織・細胞の固定. 鹿児島大学レポジトリ. Link.
- BioTechnical フォーラム. PFA での長時間の組織の固定、TRAP 失活. Link.
- By Wereon - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link
- 名古屋大学 医学部学生研究会 プロトコール. Link: Last access 2018/03/22.
- BioTechnical フォーラム. Link: Last access 2018/03/22.
Zarei et al. 2012a. Chemical and microbial properties of mahyaveh, a traditional Iranian fish sauce. Food Control 23, 511-514.三輪 2000a. ホルマリンだけでは固定されない. Link: Last access 2020/04/20.
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