肥満: 定義と臨床的側面について

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このページの最終更新日: 2024/12/15

  1. 概要: 肥満の定義と現状
  2. 肥満の原因
    • 食習慣
    • 遺伝
  3. 肥満と病気などとの関係
    • 肥満と出産
    • 肥満と頭の良さ
    • 肥満と肺機能
  4. その他メモ


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概要: 肥満の定義と現状

このページでは、臨床的な視点から肥満に関する定義・情報をまとめる。脂肪を減らす手術は、Bariatric surgery のページに移動した。

日本での肥満の定義と現状

日本肥満学会の基準では、肥満は body mass index (BMI) によって定義されている (1, 11)。統計的にもっとも病気にかかりにくい BMI = 22 を標準とし、25 以上が肥満である。

BMI の算出方法は次の通り。

BMI = 体重 (kg)/[身長 (m) ]2


肥満には 1 度から 4 度までの段階があり、BMI に応じて次のように定められている。

  • 低体重: 18.5未満
  • 普通体重: 18.5 以上 25未満
  • 肥満 (1 度): 25 以上 30未満
  • 肥満 (2 度): 30 以上 35未満
  • 肥満 (3 度): 35 以上 40未満
  • 肥満 (4 度): 40 以上

これは、軽度の肥満によって健康障害が起こりやすい日本人での定義であり、WHO では BMI = 25 以上を過体重、30 以上を肥満と定義している。

BMI は 19 世紀にベルギーの数学者アドルフ・ケトレーによって考案された指標で、体脂肪率とよく相関することがわかっている (11)。

BMI の日本語訳はちょっとややこしい。体格指数 と呼ばれることがあるが、これは本来ローレル指数、ベルベック指数など数多くの「体格」を示す指数の総称である。BMI が最も有名なので、同じもののように扱われることがあるというだけのようだ。カタカナで「ボディマス指数」と書くのが正確なようだが、これもかっこ悪い。何かよい日本語訳が欲しいところである。

日本では、男性および女性の肥満者の割合はそれぞれ 30% および 20% で、男性の肥満が増加傾向にある (11)。


アメリカでの定義と現状

アメリカは、WHO の基準に従って BMI = 30 を肥満と定義している。成人の約 30% が BMI > 30 kg/m2 の肥満である (2)。


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肥満の原因

食習慣

食生活が肥満の一因であることは、さまざまな association study によって示されている。

> 子供の食習慣と肥満の関係を調べた報告。1562 人、10 歳の子供が対象 (3)。

  • 21 年間の追跡調査。65 % Euro American, 35% African American。
  • 甘い飲料、菓子、肉類の摂取量が肥満と有意に関連していた。

> 肥満を抑制する食習慣、物質などについては、以下のページで解説している。


遺伝

肥満と病気などとの関係

肥満は メタボリックシンドローム の原因となる。

肥満と出産

妊娠、出産に関係したリスクとして、排卵障害 ovulatory disorder、受胎率の低下、早期流産、奇形率の増大が挙げられている (4)。ただし、多くは肥満の人の卵子を使った場合であり、肥満でないドナーの卵子を使った人工授精では、これらのリスクは低下する。したがって 肥満は卵子の質を低下させる ことが示唆される。


肥満と「頭の良さ」

とりあえず手持ちの論文を一例紹介する。この論文から「肥満の人は頭が悪い」という結論するのは軽率。相関しないことを示した報告も多く、また「頭の良さ」も複雑な概念であり、脳の容積と単純に比例しない。


> 52 - 92歳の女性 95 名を対象とした調査 (5)。

  • MRI で白質や灰白質などの容積を調べ、BMI との相関をみている
  • BMI が高いほど灰白質 gray matter の容積が少なく、白質 white matter の容積が多い。
  • 一般に肥満の人は高血圧であり、高血圧も灰白質の容積を減らす。これを補正しても、肥満の人でやはり灰白質の容量が低かった。
  • Cognitive function も BMI と逆相関した。
  • 灰白質量の低下がみられた領域は、高血圧を考慮すると orbital/inferior frontal cortex, inferior frontal cortex, precentral cortex, parahippocampal area, posterior/lateral cerebellum などである。

肥満と肺機能

息を最大限吸い込んだあとに、肺から吐き出すことのできる空気量を肺活量 vital capacity (VC) という。これは、肺の全肺気量 total lung capacity (TLC) から残気量 residual volume (RV) を引いた値と一致する。

できるだけ息を早く吐き出して測定する肺活量を、努力性肺活量 forced vital capacity (FVC) という。また、このとき最初の 1 秒に吐き出された量を forced expiratory volume in 1 sec (FEV1) といい、これらの比 FEV1/FVC を FEV1% という。

健康な成人では、FEV1% は 70-80% であり、加齢と共に低下する。FEV1% は肥満でも低下するが、Ref. 10 では非肥満者の女性で 84.5%、肥満者女性で 81.5% であり、低下の程度はそれほど大きくない。

> 長期の体重・肺機能測定で、肥満が肺機能を低下させることを示した論文 (9)。

  • 22 - 44 歳の被験者 3,673 人について、39 - 67 歳になるまで体重、肺機能を繰り返し測定。肺機能は FVC、FEV1 を測定している。
  • BMI の増加が大きい肥満者では、25 歳時の推定 FVC が同等である場合でも、65 歳時の推定 FVC が -1011 mL と低下。
  • 20 年以上、中から高程度の体重増加は、肺機能の低下をもたらすという結論。

その他メモ

新谷隆史 一度太るとなぜ痩せにくい? 食欲と肥満の科学 (Amazon link) のメモ。

  • 19 世紀までは、太っていることは富と健康の証とされてきた。
  • 冬眠をする動物では、冬眠前には体重の 30 - 40% が脂肪となる。クマのメスは冬ごもり中に出産するが、夏の交尾で生じた受精卵は、体脂肪率が高くなる 11 月ごろまで着床しない。
  • BMI が 1 高くなると、糖尿病の発生リスクはおよそ 20% 増加する。他にも、がんを含む様々な病気のリスクが上昇することが、統計的に計算されている。
  • 皮下脂肪よりも内臓脂肪の方が病気のリスクと相関する。そのため、ウエスト周囲長が測定されるようになった。男性 85 cm 以上、女性 90 cm 以上が要注意。
  • 内臓脂肪は炎症を伴う。脂肪細胞からリークした脂肪酸を免疫系が認識しているものと考えられる。
  • いったん炎症反応が起こると、炎症を促進するアディポカインが分泌されるようになる悪循環。
  • 高血糖は生体成分を糖化する。終末糖化産物 (AGEs) の蓄積は炎症を引き起こす。糖尿病ではこれが血管で起こり、動脈硬化などの原因となる。腎臓、網膜などもダメージを受けやすい器官である。

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References

  1. 厚生労働省 HP 2013 Link.
  2. Volkow et al. 2011a (Review). Reward, dopamine and the control of food intake: implications for obesity. Trends Cogn Sci 15, 37-46.
  3. Nicklas et al. 2003a.Eating patterns and obesity in children. The Bogalusa heart study. Am J Prev Med 25, 9-16.
  4. Grindler and Moley 2013a. Maternal obesity, infertility and mitochondrial dysfunction: potential mechanisms emerging from mouse model systems. Mol Hum Reprod, 19, 486-494.
  5. Walther et al. 2010a. Structural brain differences and cognitive functioning related to body mass index in older females. Hum Brain Mapp 31, 1052-1064.
  6. ページ分割に伴い削除
  7. ページ分割に伴い削除
  8. ページ分割に伴い削除
  9. Peralta et al. 2020a. Body mass index and weight change are associated with adult lung function trajectories: the prospective ECRHS study. Thorax 75, 313-320. このブログ で紹介されていました。
  10. 稲垣ら、2015. 呼吸機能検査における肥満の影響. Dokkyo J Med Sci, 42, 137-142.
  11. Amazon link: 新谷隆史 一度太るとなぜ痩せにくい? 食欲と肥満の科学 (光文社新書).

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