肥満: 定義と臨床的側面について

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このページの最終更新日: 2023/03/18

  1. 概要: 肥満の定義と現状
    • 日本での肥満の定義と現状
    • アメリカでの肥満の定義と現状
  2. 肥満の原因
    • 食習慣
    • 遺伝
  3. 肥満と病気などとの関係
    • 肥満と出産
    • 肥満と頭の良さ
    • 肥満と肺機能
  4. 肥満対策
    • 手術: Bariatric surgery


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概要: 肥満の定義と現状

このページでは、臨床的な視点から肥満に関する定義・情報をまとめる。


日本での肥満の定義と現状

日本肥満学会の基準では、肥満は body mass index (BMI) によって定義されている (1)。統計的にもっとも病気にかかりにくい BMI = 22 を標準とし、25 以上が肥満である。

BMI の日本語訳はちょっとややこしい。体格指数 と呼ばれることがあるが、これは本来ローレル指数、ベルベック指数など数多くの「体格」を示す指数の総称である。BMI が最も有名なので、同じもののように扱われることがあるというだけのようだ。カタカナで「ボディマス指数」と書くのが正確なようだが、これもかっこ悪い。何かよい日本語訳が欲しいところである。

BMI の算出方法は次の通り。

BMI = 体重 (kg)/[身長 (m) ]2


肥満には 1 度から 4 度までの段階があり、BMI に応じて次のように定められている。

  • 低体重: 18.5未満
  • 普通体重: 18.5 以上 25未満
  • 肥満 (1 度): 25 以上 30未満
  • 肥満 (2 度): 30 以上 35未満
  • 肥満 (3 度): 35 以上 40未満
  • 肥満 (4 度): 40 以上

アメリカでの定義と現状

アメリカでは、成人の約 30% が BMI > 30 kg/m2 の肥満である (2)。


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肥満の原因

食習慣

食生活が肥満の一因であることは、さまざまな association study によって示されている。

> 子供の食習慣と肥満の関係を調べた報告。1562 人、10 歳の子供が対象 (3)。

  • 21 年間の追跡調査。65 % Euro American, 35% African American。
  • 甘い飲料、菓子、肉類の摂取量が肥満と有意に関連していた。

> 肥満を抑制する食習慣、物質などについては、以下のページで解説している。


遺伝

肥満と病気などとの関係

肥満と出産

妊娠、出産に関係したリスクとして、排卵障害 ovulatory disorder、受胎率の低下、早期流産、奇形率の増大が挙げられている (4)。ただし、多くは肥満の人の卵子を使った場合であり、肥満でないドナーの卵子を使った人工授精では、これらのリスクは低下する。したがって 肥満は卵子の質を低下させる ことが示唆される。


肥満と「頭の良さ」

とりあえず手持ちの論文を一例紹介する。この論文から「肥満の人は頭が悪い」という結論するのは軽率。相関しないことを示した報告も多く、また「頭の良さ」も複雑な概念であり、脳の容積と単純に比例しない。


> 52 - 92歳の女性 95 名を対象とした調査 (5)。

  • MRI で白質や灰白質などの容積を調べ、BMI との相関をみている
  • BMI が高いほど灰白質 gray matter の容積が少なく、白質 white matter の容積が多い。
  • 一般に肥満の人は高血圧であり、高血圧も灰白質の容積を減らす。これを補正しても、肥満の人でやはり灰白質の容量が低かった。
  • Cognitive function も BMI と逆相関した。
  • 灰白質量の低下がみられた領域は、高血圧を考慮すると orbital/inferior frontal cortex, inferior frontal cortex, precentral cortex, parahippocampal area, posterior/lateral cerebellum などである。

肥満と肺機能

息を最大限吸い込んだあとに、肺から吐き出すことのできる空気量を肺活量 vital capacity (VC) という。これは、肺の全肺気量 total lung capacity (TLC) から残気量 residual volume (RV) を引いた値と一致する。

できるだけ息を早く吐き出して測定する肺活量を、努力性肺活量 forced vital capacity (FVC) という。また、このとき最初の 1 秒に吐き出された量を forced expiratory volume in 1 sec (FEV1) といい、これらの比 FEV1/FVC を FEV1% という。

健康な成人では、FEV1% は 70-80% であり、加齢と共に低下する。FEV1% は肥満でも低下するが、Ref. 10 では非肥満者の女性で 84.5%、肥満者女性で 81.5% であり、低下の程度はそれほど大きくない。

> 長期の体重・肺機能測定で、肥満が肺機能を低下させることを示した論文 (9)。

  • 22 - 44 歳の被験者 3,673 人について、39 - 67 歳になるまで体重、肺機能を繰り返し測定。肺機能は FVC、FEV1 を測定している。
  • BMI の増加が大きい肥満者では、25 歳時の推定 FVC が同等である場合でも、65 歳時の推定 FVC が -1011 mL と低下。
  • 20 年以上、中から高程度の体重増加は、肺機能の低下をもたらすという結論。

肥満対策

手術: Bariatric surgery

体重を現象させることを目的とした手術を bariatric surgery という。いくつか具体例を挙げておく。内容が増えてきたら、別のページに移す。

Sleeve gastrectomy

Sleeve gastrectomy は、外科的に胃を小さくする手術である (図; ref 6, 7)。胃の大部分を切り取り、ピンクの部分を残す。容量は、手術前の 15% 程度になる。

Sleeve gastrectomy Sleeve gastrectomy

Roux-En-Y

Roux-En-Y も bariatric surgery の一つで、食道と、小腸 intestine の一部である空腸 jejunum を繋いでしまうという乱暴な手術である (図; ref 8)。


Roux-En-Y手術
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References

  1. 厚生労働省 HP 2013 Link.
  2. Volkow et al. 2011a (Review). Reward, dopamine and the control of food intake: implications for obesity. Trends Cogn Sci 15, 37-46.
  3. Nicklas et al. 2003a.Eating patterns and obesity in children. The Bogalusa heart study. Am J Prev Med 25, 9-16.
  4. Grindler and Moley 2013a. Maternal obesity, infertility and mitochondrial dysfunction: potential mechanisms emerging from mouse model systems. Mol Hum Reprod, 19, 486-494.
  5. Walther et al. 2010a. Structural brain differences and cognitive functioning related to body mass index in older females. Hum Brain Mapp 31, 1052-1064.
  6. By Lina Wolf, magenverkleinerung.tips - Own work, CC BY-SA 3.0, Link
  7. By Manu5 - http://www.scientificanimations.com/wiki-images/, CC BY-SA 4.0, Link
  8. By BruceBlaus. When using this image in external sources it can be cited as:Blausen.com staff (2014). "Medical gallery of Blausen Medical 2014". WikiJournal of Medicine 1 (2). DOI:10.15347/wjm/2014.010. ISSN 2002-4436. - Own work, CC BY 3.0, Link
  9. Peralta et al. 2020a. Body mass index and weight change are associated with adult lung function trajectories: the prospective ECRHS study. Thorax 75, 313-320. このブログ で紹介されていました。
  10. 稲垣ら、2015. 呼吸機能検査における肥満の影響. Dokkyo J Med Sci, 42, 137-142.

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