大腸菌 Escherichia coli

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このページの最終更新日: 2024/07/26

  1. 概要: 大腸菌 E. coli とは
  2. 大腸菌の分類
  3. 大腸菌と分子生物学
  4. 大腸菌の外膜

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概要: 大腸菌 E. coli とは

大腸菌 Escherichia coli (E. coli という略称がよく使われる) は、温血動物の腸内を含む環境中に存在する主要な バクテリア の一種である (2)。

写真は、USDA が提供している大腸菌の Public domain イメージ。 10,000 倍に拡大したもの。細長い棒状または円筒状の桿菌 (かんきん) である。

10000倍拡大 大腸菌 E. coli

大腸菌は、1885 年に Theodore Escherich によって最初に記載された (2)。1946 年、Joshua Lederberg および Edward Tatum によって有性生殖することが報告され、遺伝学 のモデル生物として使われるようになっていった。詳細はページ下の 大腸菌と分子生物学 を参照のこと。

大腸菌の分類

E. coli の分類は、サブクラスなどがなくシンプルである。

cellular organisms; Bacteria; Pseudomonadota; Gammaproteobacteria; Enterobacterales; Enterobacteriaceae; Escherichia


Pseudomonadota は、かつてプロテオバクテリアと呼ばれていた門であり、基本的には rRNA 配列で定義されている。主に LPS から成る外膜を持ち、グラム陰性である。大腸菌のほか、サルモネラ、ビブリオなどがこの門に含まれる。

ガンマプロテオバクテリア Gammaproteobacteria は綱である。Enterobacteriaceae は腸内細菌科で、紛らわしいがこれは科の名前であり、ヒト などの腸内に存在する菌を意味する「腸内細菌」とは異なる。実際に、腸内細菌科の細菌は、腸内細菌のごく一部である。

これには歴史的な理由がある。

Enterobacteriaceae 腸内細菌科に属する細菌は通性嫌気性 (後期呼吸と嫌気呼吸を切り替えられる) で、通常培地でよく発育するという特徴がある。現在は、腸内細菌の同定は主に培養を介さないメタゲノムシークエンシングで行われるが、腸内細菌を培養してから研究していた時代には、腸内細菌科に属さない菌が培地で生育せず、よって本科の菌が主な腸内細菌であると考えられた。

PubMed Taxonomy についての解説ページは こちら生物の分類のページ も参照のこと。

大腸菌と分子生物学

大腸菌には、分子生物学のモデルとして以下のような利点がある (2)。

  • 増殖が早い。細胞分裂は最短で約 20 分に一回。これは変異が蓄積するのが早いということでもある。増殖速度は培地の栄養により、ほとんどの培地では 1 時間に 1 回のようだ (2)。
  • 培養が容易。液体培地でも固体培地でもよく殖える。
  • ゲノムはハプロイド。

大腸菌のゲノムサイズは 4,638,858 bp = 約 4.6 Mb 、DNA を長く伸ばすと約 1.6 mm となる (2)。

遺伝子数は約 4,300 個で、ヒトと共通の遺伝子は 8 %。大腸菌は非常によく研究されている生物ではあるが、1997 年のゲノム決定論文 では、38% もの遺伝子が機能未知とされている。2016 年の文献 2 でも「多くの遺伝子が機能未知」とされており、特殊な状況での生育に関わっているのかもしれないと書かれている。

野生株は、グルコースとミネラルのみの培地で生育可能。通常は binary fission で増殖し、遺伝的に同一の娘細胞を作る。有性生殖は conjugation と呼ばれ、通常は F plasmid 上の遺伝子で制御される (2)。

このサイトには、大腸菌を用いた実験に関する以下のようなページがある。

培地

タンパク質発現


大腸菌の外膜

大腸菌には外膜、ペプチドグリカンから成る細胞壁、内膜の 3 つの膜が存在する (1)。

外膜

リン脂質、タンパク質、リポ多糖を含む。タンパク質組成は内膜よりも単純である。抗生物質など、比較的大きな物質の透過は阻害するが、水溶性の低分子は受動的に透過できる。

細胞壁

数種の糖およびアミノ酸から成る規則的な繰り返し構造をもち、細胞の形態を維持する。

内膜と外膜の間にある空隙を ペリプラズム という。

内膜

リン脂質を主体とする二重膜で、動植物細胞の細胞膜に相当する。多くの受容体はここに存在する。


> アミノ酸要求株とオリゴペプチドを使った実験 (1, 総説)。

  • Lys, Arg のテトラペプチドは要求株の生育を支持できるが、ペンタペプチドはできない。
  • 菌体外にペプチダーゼ活性は検出されず、これは透過の問題と考えられる。
  • 大腸菌が使える栄養素と使えない栄養素は、ゲルろ過クロマトグラフィー のストークス半径で説明される。
  • さまざまな標識物質がペリプラズム領域へ取り込まれるかどうかを見た実験から、外膜には分子量 800 - 900 ぐらいに大きさ制限のある「孔」が存在することが示唆された。
  • サルモネラなどから抽出されたリポ多頭では、この透過性を再現することはできなかった。
  • あるリポタンパク質が、外膜を貫く孔を形成しているという結果が得られている。1975 年の総説なので、その後もっといろいろ明らかになっているはず。

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References

  1. 関沢、井上 1975a. 大腸菌外膜における物質の受動的透過について. 生物物理 15, 229-237.
  2. Amazon link: Pierce 2016. Genetics: A Conceptual Approach: 5, 6 版を使っています。

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