タンパク質発現系の概要

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このページの最終更新日: 2024/10/06

  1. 概要: タンパク質発現系とは
  2. 可溶性画分と不溶性画分
  3. 大腸菌発現系のトラブルシューティング

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概要: タンパク質発現系とは

まずは、発現系を選択する必要がある。

大腸菌

大量培養が可能で、増殖も速いことがメリット。ただし、真核生物と系統的に遠いので、タンパク質に糖鎖修飾がつなかいなどの問題点も。

酵母

真核生物なので、真核生物のタンパク質は機能をもって発現させやすい。ただし、量や増殖速度の面では大腸菌に及ばない。

昆虫細胞

哺乳類細胞

in vitro

可溶性画分と不溶性画分

タンパク質を大量に作ることができる大腸菌発現系でよく問題になるポイントなので、大腸菌を場合を例に解説する。

一般に、発現したタンパク質は以下のいずれかの画分に存在する。もちろん、一つとは限らない。

細胞外画分

分泌されるタンパク質、細胞が壊れている場合。

ペリプラズム画分

発現タンパク質がペリプラズム分泌シグナルをもつ場合、または DsbA など特定のタグをつけている場合。不溶性画分に行ってしまうタンパク質を可溶化させるために、ペリプラズムに移行させる手法がある。

可溶性画分

水溶性タンパク質は、一般にこの画分に発現していると以降の実験が容易になる。細胞壁を破壊すれば抽出でき、ライソザイム 処理などがよく使われる。

不溶性画分

一般に「不溶性画分」と言われるが、これには膜構造や封入体など、様々な成分が含まれる。「何に不溶性か」というのが問題であり、抽出バッファーによって変わる概念なのでややこしいが、簡単にまとめてみる。

タンパク抽出によく使われるのは、リン酸バッファーを基本とした抽出液である。これに界面活性剤の Triton-X100 や Tween 20 が入ると、膜構造を壊せるようになる。尿素、グアニジン、SDS を加えると、さらに抽出力が上がる。

Triton-X100 は膜構造を破壊できるが、一般に封入体からタンパク質を抽出できるほどには強くない。むしろ、尿素などのさらに強力な試薬で封入体を破壊する前に、封入体を洗浄するために 1% Triton-X100 が使われる。

超音波破砕 では、封入体に含まれるタンパク質も抽出が可能とされている。

大腸菌発現系のトラブルシューティング

大腸菌発現系でよく用いられる pET システムの文献 (1) より。pET システムの詳細は IPTG による発現誘導 のページにまとめた。大腸菌発現だけでなく、他の発現系に適用できる項目も含んでいる。

誘導前に異種タンパク質が発現してしまう

一般に、異種タンパク質を発現することは大腸菌によってストレスである。異種タンパク質自体が毒性をもっていることもあり、発現誘導前の異種タンパク質発現は、極力低く抑えるべきである。

これには、以下のような方法がある (1)。

pETシステム
  1. 図 (Public domain) のように、pET プラスミドにも lacI 遺伝子と lac operator を追加する。多くの pET ベクターはこの構造になっている。
  2. pET プラスミドと和合性がある (大腸菌内で共存できる) pLysS または pLysE というプラスミドに、T7 RNA ポリメラーゼを阻害するリゾリームの遺伝子を入れ、これで大腸菌を形質転換する。おそらく、IPTG 誘導がかかったときの T7 RNA ポリメラーゼの発現は大量なので、タンパク質収量にはあまり影響せず、誘導前に少量転写されてしまう T7 RNA ポリメラーゼを阻害することのメリットが大きいと考えられる。
  3. lac プロモーターは、培地中の グルコース 不足で活性化する。これを防ぐために L8-UV5 という変異の入った lac プロモーターが使われているが、培地に終濃度 0.5 - 1% のグルコースを添加することで、さらにプロモーター活性を下げることができる。

タンパク質のフォールディング

発現させたタンパク質は、一般に正しい構造にフォールディングされなければ機能しない。しかし、とくに大量に発現させた場合、フォールディングがうまく行われないことがある。適切に折りたたまれていないタンパクは不溶化することが多い。

タンパク質のフォールディングについて、検討できるポイントは以下の通り。

  • 培養温度を下げる。一般に、低温の方が大腸菌へのストレスは下がる。
  • ペリプラズム画分で発現させる。
  • 分子シャペロン と共発現させる。


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References

  1. 東端 2013a (Review). 大腸菌を宿主とした異種タンパク質高発現のイロハ. 生物工学 91, 96-100.

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