アルカリ法によるプラスミドの精製 mini prep:
原理、プロトコールなど
UBC/experiments/dna/plasmid_purification
このページの最終更新日: 2024/12/16関連ページ
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アルカリ法の原理
プラスミド plasmid は、原核生物 prokaryotes の 染色体 以外に存在する DNA である (3)。次のような特徴をもっている。
- 大きさは 1 kb から 200 kb と様々。ほとんどは二本鎖の環状 DNA である。
- 自然界に存在するプラスミドは、多くの場合近縁種でしか維持されない。
- プラスミドの分裂および遺伝様式は、染色体のそれとは独立している。
- 一般に、宿主に有利な形質を提供するような遺伝子を含んでいる。抗生物質への耐性、複雑な化合物を分解する能力など。
このページでは、ライゲーション、トランスフォーメーション などの実験に続いて、大腸菌培養液からプラスミドを精製する方法、とくにアルカリ SDS 法について解説する。
アルカリおよび SDS を用いたプラスミドの抽出法のオリジナルは、Birnboim and Doly 1979 であるらしい (3)。原理の概要は以下の通り。
- プラスミドを含むバクテリアを高 pH 条件で aniotic detergent に晒すことで細胞壁を破壊し、かつ染色体の DNA を結合タンパク質とともに変性させる。pH が高いので DNA は 1 本鎖に分かれるが、プラスミド DNA は複雑に絡まった構造をしているために分離しない。
- バクテリアのタンパク質、細胞壁および染色体 DNA は、溶解の過程で SDS にコートされた複合体を形成する。Na+ を K+ で置換すると、この複合体が沈殿する。
- 沈殿物を遠心分離で除き、上清に含まれるプラスミドを回収する。
SDS の水への溶解度は、20°C でおよそ 150 g/L である (4)。一方、カリウム塩 potassium lauryl sulfate は 25°C でわずか 450 mg/L で (5)、この溶解度の違いが本法のキモである。
キットを用いた抽出が主流である。各社のプラスミド抽出キットの比較 ページも参照のこと。
プロトコール
必要な試薬
Solution I, II, III の組成は以下の通り。Sigma Aldrich のオンライン資料 (2) と Molecular Cloning (Amazon) に同じ組成が載っており、非常に一般的な組成と思われる。
Solution I
50 mM Glucose
25 mM Tris-HCl (pH 8.0)
10 mM EDTA
- 調製後に 15 min, 15 psi でオートクレーブ。4 °C で保存。
Solution II
0.2 N NaOH
1% SDS (w/v)
- 滅菌はしない。常温保存。
- 数週間は保つが、空気中の二酸化炭素と反応して次第に劣化するので注意。
Solution III
5 M 酢酸カリウム溶液 60 mL、酢酸 11.5 mL、純水 28.5 mL を混合する。
- 粉の酢酸カリウムを用いる場合は、29.5 g の酢酸カリウムを純水で 100 mL にメスアップする。終濃度はカリウム 3 M、酢酸 5 M である。4°C 保存。
- SDS を沈殿させるために高濃度のカリウムが、plasmid を 2 本鎖に戻すために酢酸が含まれている。
プロトコール
- Solution III を氷上で冷やす。
- 大腸菌培養液を 1.5 mL チューブに入れ、12,000 rpm, 3 min 程度の遠心で集菌する。
- 上清の LB 培地 を除去する。
- これを繰り返し、4.5 mL の培養液から集菌する。3 回目はピペットで上清を完全に取り除く。
- Solution I を 200 µl 加え、ピペッティングで懸濁する。
- Solution II を 400 µl 加え、チューブを数回上下に反転させて混ぜる。
- アルカリ溶液で細胞を溶解するステップ。ここで激しく混ぜると、ゲノム DNA が断片化してプラスミド溶液に混入するので、穏やかに混合すること。
- 断片化していないゲノム DNA は、タンパク質と絡みついて次のステップで沈殿するため、プラスミド DNA と分離することができる。
- Solution III を 400 µl 加え、チューブを数回上下に反転させて混ぜる。白い沈殿が生じる。
- ~10,000g, 15 min, 4℃ で遠心。
- 上清 750 µl を新しいチューブに移し、等量のイソプロパノールを加える (イソプロ沈殿)。
- ~10,000g, 15 min, 4℃ で遠心。
- ピペットで上清を除き、1 mL の 70% エタノールを加える。
- ピペットで上清を除き、減圧下で 5 分間乾燥させる。
- 沈殿を 50 µl の滅菌水または TE buffer に溶解する。
この方法で得られたプラスミドには、RNA が混入している。したがって、通常は RNAse 処理を行い、フェノール/クロロホルム沈殿によって RNAse を除去する作業が続く。
References
- 高知大学 生体機能物質工学実験 II マニュアルより. Link.
- Sigma Aldrich. じっけんレシピ. Pdf file.
Green and Sambrook, 2012a. Molecular cloning: A laboratory manual, 4th edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press.
分子生物学関係のプロトコール集では、この本よりも有名なものはないだろう。
日本語版がない、電子書籍版もない、値段が高い、重い (3 冊組でとどく) など問題点は多々あるが、それでも実験室に必ずあるべき書。ラボプロトコールをまとめたりする時間を大いに節約することができる。
ラボの教科書としてではなく、自分用の実験マニュアルで確かなものが欲しい場合には、主要部分をまとめた The Condensed Protocols from Molecular Cloning という本もある。
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