プラスミド: 染色体外に存在する環状DNA

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このページの最終更新日: 2024/12/26

  1. 概要: プラスミドとは
  2. 各種プラスミドベクターの特徴
  3. プラスミドの複製

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概要: プラスミドとは

プラスミド plasmid とはバクテリアに含まれる DNA から成る構造で、染色体とは独立して分裂することができる。英語での定義は以下の通り (1)。

A structure in bacterial cells consisting of DNA that can exist and replicate independently of the chromosome.


日本語の定義は、例えば「細胞内で宿主染色体とは別に自律複製・ 増殖し、かつ細胞分裂に際し子孫の細胞に受け渡され安定に維持される遺伝因子」 (4)。

抗生物質への耐性などを宿主に付与する機能がある。分子生物学実験では、遺伝子を運ぶためのベクター vector としてよく使われる。

各種プラスミドベクターの特徴

分子生物学実験でよく使われるプラスミドベクターを表にした。

ミニプレップの収量から、プラスミドが高コピーか低コピーかを大まかに見積もることができる (3)。1 mL の LB 培養液から 3 - 5 µg のプラスミドがとれれば高コピー、0.2 - 1 µg ぐらいなら低コピー。細胞あたりのプラスミド数も表にあるので参照のこと。

クローニングベクター

pUC

500 - 700/cell の高コピープラスミド (2-4)。DNA 断片が挿入されていれば白、されていなければ青のコロニーとなるカラーセレクションができる。

pGEM

300 - 400/cell (3)。TA クローニングと blue-white selection が可能な pGEM-T および pGEM-T Easy システムにはお世話になった。

pBruescript

300 - 500/cell (3)

大腸菌発現ベクター

タンパク質の大腸菌発現系で使われるベクター。参考: IPTG によるタンパク質の発現誘導

pET

500 - 700 コピーの pETUA から、10 - 20 コピーの pETBA, pETIA など、用途に応じていろいろな種類を使用可能。

  • pET NusA ベクター: 大腸菌のタンパク質で最も優れた可溶性ポテンシャルをもつ NusA との融合タンパク質として発現させる。NusA が 495 アミノ酸と大きいのが気にかかる。
  • pET Trx ベクター: 109 アミノ酸から成るチオレドキシン Trx との融合タンパク質として発現させる。可溶性が上がり、かつホストを選ぶことでジスルフィド結合形成を促進できる。
  • pET GST ベクター: グルタチオン-S-トランスフェラーゼとの融合タンパク質として発現。正しい折りたたみを促進、グルタチオンを用いた精製が可能。GST タグはエンテロキナーゼで除去が可能。
  • pET Dsb ベクター: ジスルフィド結合の形成と異性化をそれぞれ触媒するペリプラズム酵素、DsbA と DsbC の融合タンパク質として発現させる。ペリプラズム局在化を促進。
  • pET Signal Sequence ベクター: ペリプラズム移行シグナル配列と融合させて発現するベクター。

pGEX

GST と融合して発現させるベクター。

pCDF

複製起点として CloDF13 (CDF) origin を持つベクターで、いくつか種類がある。コピー数は、10-50 程度 もしくは 20 - 40 程度 という情報がある。

pCDF-1b は N 末端に 6 x His tag をつけて発現 (Map)。

pCDFDuet-1 は、2 つのタンパク質を同時に発現させられるベクターである (Map)。

pCOLADuet

20 - 40/cell ()

pCold

培養液を 15 °C にすると発現誘導がかかる。コールドショック遺伝子 cspA のプロモーターおよび 5' 非翻訳領域の配列を利用している。

pMW118 DNA

5 コピー/細胞程度の非常に低コピーなプラスミド。複製起点は pSC101 (3)。発現タンパク質の毒性が高い場合などに有効。

未整理

pTZ

More than 1000/cell (3)

pBR322 and derivatives

10 - 25/cell (3)

pACYC and derivatives

10 - 12/cell (3)

pLysS, pLysE, pLacI, pRARE, pRARE-2

20 - 40/cell ()

プラスミドの複製

ColE1 型プラスミドの複製は、以下のように行われる (4)。

  1. ori の 550 塩基上流のプロモーターから複製起点の約 150 塩基下流まで RNA II 前駆体が転写される。5' 側は複雑な二次構造を形成し、3' 側は複製開始部位と DNA-RNAのハイブリット鎖を形成することができる。
  2. RNA II 前駆体は切断を受けて成熟 RNA II となり、その 3' 側をプライマーとして ori から DNA 合成が開始される (リーディング鎖)。
  3. DNA 合成を開始するのは DNA polymerase I で、これが身長反応の途中で III に交代する。
  4. 伸長に伴いラギング鎖が出現するが、成熟型 RNA II に邪魔されラギング鎖合成は途中で遮断される。したがって DNA 複製は一方向にしか進行せず、これは θ 型のプラスミド複製と呼ばれる。
  5. ori の上流 455 塩基から逆向きに、108 塩基からなる RNA I が転写される。これは RNA II のアンチセンス RNA であり、RNA II の 5'末端側と完全に相補的な配列である。RNA I と II が二本鎖を形成すると、RNA II は成熟型になることができない。つまり、RNA I は細胞内のプラスミド数を制御する。
  6. さらに、ori から 400 塩基下流に、RNA one modulator (Rom)または repressor of primer (Rop) と呼ばれるタンパク質がコードされている。Rom/Rop は RNA I および II に結合し、kissing complex と呼ばれる安定な複合体を形成する。つまり、RNA I によるプラスミドの複製抑制効果を増強する。

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References

  1. Amazon link: Hine (2015). Oxford Dictionary of Biology.
  2. Green and Sambrook, 2012a. Molecular cloning: A laboratory manual, 4th edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press.

分子生物学関係のプロトコール集では、この本よりも有名なものはないだろう。

日本語版がない、電子書籍版もない、値段が高い、重いなど問題点は多々あるが、それでも実験室に必ずあるべき書。ラボプロトコールをまとめたりする時間を大いに節約することができる。

このサイトにあるプロトコールも、多くはこの本の記述を参考にしたものである。

  1. How do I know if my plasmid is a high- or low copy number type? Link: Last access 2024/01/02.
  2. 橋本, 2011a. pUC プラスミドにまつわるエトセトラ. 生物工学 89, 609-613.

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