ライゲーション: 原理、プロトコール、トラブル

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このページの最終更新日: 2025/03/12

  1. ライゲーションの原理と概要
  2. プロトコール
  3. トラブルシューティング
  4. その他のクローニング方法: TOPO, In-Fusion など

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ライゲーションの原理と概要

ライゲーション ligation は、DNA リガーゼ ligase という 酵素 を使って DNA 鎖を結合させる反応のことで、主に ベクター構築 の過程で使われる用語である。概念図を 2 つ載せておく (Public domain)。


Ligationの概念図 Ligationの概念図

DNA のリン酸化

DNA は、図のようにデオキシリボースと塩基がリン酸基を介して繋がった構造をもっている。

したがって、5' 側にリン酸基がないと、次の塩基と結合できないことがわかるだろう。ライゲーションというのは、5' 側にリン酸基がついた DNA 断片の 5' と、3' 側に -OH 基をもつ DNA 断片の 3' 側を繋げる反応である。

DNAの構造

PCR 産物をベクターにライゲーションする場合、PCR 産物は通常はリン酸化されておらず、ベクターにリン酸基がついている。T クローニングの場合にも、既存のベクターを制限酵素で切ったときにもそうである。したがって、意識してリン酸基を導入したりすることはあまりない。

Inverse PCR で PCR 産物を用いたセルフライゲーションを行う際には、それをリン酸化する必要がある。詳細はリンク先を参照のこと。

プロトコール

ライゲーションのプロトコールは使う試薬によって異なるが、ほとんどの場合極めて単純で、試薬を混ぜてインキュベートするだけである。


ベクターとインサートのモル比

経験上、ライゲーション効率を上げるために大切なのは ベクターとインサートのモル比 である。面倒でもきちんと DNA 量を測って、正しいモル比で混合するようにする。NEB の標準プロトコール (5) では、モル比で Vector : Insert = 1 : 3 となっている。

NEBioCalculator で、ベクターとインサートのサイズから最適な混合量を計算することができる。


ライゲーション反応液の調製

NEB の標準プロトコール。

試薬 使用量 (20 µL の反応系)
10 x T4 DNA ligase buffer 2 µL
Vector DNA (4 kb) 50 ng (0.020 pmol)
Insert DNA (1 kb) 37.5 ng (0.060 pmol)
Nuclease free water to 20 µL
T4 DNA ligase 1 µL

  1. 上記試薬を混合する。T4 DNA ligase は最後に加える。
  2. 付着末端 cohesive (sticky) end ライゲーションでは、16℃ O/N または室温で 10 分。
  3. 平滑末端 blunt end ライゲーションでは、16℃ O/N または室温で 2 時間。
  4. 65℃、10 分間で ligase を失活させる。
  5. 1-5 µl を形質転換 transformation に用いる。

古典的な ligation kit では、上記のように 10 - 20 µL の反応系を用いていたが、これについても効率化が進んでいる。たとえば Takara Ligation Kit Mighty Mix という試薬では、以下のように DNA 溶液とプレミックスを 1 : 1 で (ligation の種類によっては 1 + 2 で) 混ぜるだけである。

ベクター + 挿入 DNA 1 µL
Ligation Mix 1 µL

トラブルシューティング

コロニーが生えてこない場合に まず明らかにすべき点 は、制限酵素処理がうまくいっていないのか、ライゲーションがうまくいっていないのか、トランスフォーメーションがうまくいっていないのか、問題点を特定することである。

制限酵素を使ったベクター構築をしている場合は、処理前の環状ベクターをポジティブコントロールに、処理後の直鎖状ベクターをネガティブコントロールにすることで、制限酵素処理が成功しているかどうかを確認することができる。もちろん、制限酵素処理産物の電気泳動 electrophoresis でも OK である。

問題点が ligation 反応にあるときは、以下の方法で改善する可能性がある。


DNA の損傷など
方法
文献
反応時間を延長する。
1
アガロースゲル電気泳動を避ける。

UV 照射によって DNA が損傷を受けるほか、ゲルからの DNA 抽出の際に残った不純物が ligation 反応を阻害する。エタノール沈殿によって状況が改善する場合がある。

1
DNA が高次構造をとってしまっている可能性。突出末端ライゲーションの場合、ベクターとインサートの混合液を 60-65 ℃で数分加熱後、on ice で急冷してから buffer, ligase を加えることで効率が上がる場合がある。
1

DNA の精製が不十分なケース
方法
文献
PCR 酵素の持ち込みによって、制限酵素反応中に断片が fill-in または deletion されている可能性。精製がエタノール沈殿のみでは、PCR 酵素が十分に取り除かれない。フェノール処理やカラム精製で改善するかもしれない。
2

その他のクローニング方法: TOPO, In-Fusion など

制限酵素と DNA リガーゼを使う方法は今や古典的な方法であり、インサートの大きさや組み替え効率を改善する方法が数多く存在する。

TA cloning

Taq が増幅末端に A を付加する性質を利用したクローニング。

TOPO cloning

DNA topoisomerase を使い、高い組み替え効率を実現。

In-Fusion

In-Fusion primer で増幅した PCR 産物を組み込む。DNA 断片末端の相同組み替えを利用しており、15 kB までの大きい断片の組み込みが容易である (6)。


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References

  1. Clontech, Takara Q & A. ライゲーション一般. Link.
  2. Bio Technical フォーラム. クローニングがうまくいきません. Link.
  3. Ligation protocol with T4 DNA ligase. NEB. Link
  4. タカラバイオ クローニング実験ハンドブック.

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