グルコース: 主要なエネルギー源となる糖
UBC/carbohydrate/glucose
このページの最終更新日: 2024/07/13広告
概要: グルコースとは
グルコース glucose は以下の構造 (1) をもつアルドヘキソース aldohexose である (2)。D-グルコースはブドウ糖またはデキストロースとも呼ばれ、D-フルクトースとともに最も分布が広い単糖 monosaccharide である。
構造式の書き方 (α-グルコース)
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分子式 C6H12O6、分子量 は 180.16 である。
Howarth projection と呼ばれるこの書き方において、α は不斉炭素原子 C1 (リング中の O の右側の炭素) と CH2OH が逆側についているという意味である。同じ側についていれば β になる。
生物学的に重要な性質
- ヒト、マウス など 哺乳類 の第一のエネルギー源である。とくに 脳 と赤血球において重要。
- 脳が通常状態でエネルギー源にできる唯一の物質である (2)。
- 赤血球はいかなるときもグルコースしかエネルギー源にできない (2)。
- 血中で還元性を示し、タンパク質 を糖化するため原則として有害である。しかし他の単糖よりもタンパク質を糖化しにくく、これが生物がグルコースを主要な糖として選択した理由の一つとされる (2)。
化学的に重要な性質
- α 型 (アルコールからの結晶) の融点は 146℃、1 分子の結晶水をもつ α 型の融点は 83 ℃ (2)。
- β 型 (ピリジンから再結晶) の融点は 148 - 155 ℃。
環状と直鎖状が平衡状態をとっている。
3 番目の点について解説する。直鎖状のグルコースは -(C=O)H というアルデヒド基をもつアルデヒド aldehyde の一種である。IUPAC 名で呼ぶならば 2,3,4,5,6-pentahydroxyhexanal で、pyran は O を含む六員環である。
アルデヒドの特徴的な反応として、
R1-(C=O)H + R2-OH -> R1-(CH-OH)-OR2
右辺では -R1, -H, -OH, -OR2 が C に直接結合している。なお、アセタール acetal とは R-C(OR)(OR)R という構造をもつエーテルの一種で、アルデヒドまたはケトンにアルコールを縮合させると得られる。
グルコースは分子内に -OH 基をもつので、この反応が分子内で起こって環状化する。水溶液中では α-glucose (正確には α-D glucopyranose )、D-glucose (直鎖状)、β-glucose (β-D glucopyranose)が平衡状態を保っている (Public domain)。
それぞれの分子種の割合は、NMR で調べることができる。一般に、平衡状態では α-アノマーが 36%、β-アノマーが 64% を占めると言われている (3)。
グルコースの代謝
解糖
グルコースは多くの生物で主要なエネルギー源であり、これを分解して ATP を生み出す経路 解糖系 glycolysis は、大腸菌からヒトまで多様な生物に存在する。
Glycolysis の定義を挙げておく。
"Glycolysis is the sequence of reactions that metabolized one molecule of glucose to wto molecules of pyruvate with the concomitant production of two molecules of ATP" (2).
重要な点は以下の通り。詳細は 解糖系のページ を参照のこと。
- グルコースが 2 分子の ATP を生み出しつつ各種酵素で分解され、ピルビン酸に至るまでの反応 (2)。
- 解糖が酸素を必要としないのは、大気中の酸素濃度が増える前に生まれた経路だからと考えられる (2)。
- 解糖系を逆に辿ると糖新生経路に近いが、いくつかの高エネルギー反応の部分で迂回経路を通る (2)。
- 解糖と糖新生は、同じ細胞内で同時には起こらない (2)。
糖新生
糖新生 gluconeogenesis とは、ピルビン酸からグルコースを合成する代謝経路のことをいう (2)。
これは
糖新生の主な原料となるのは、
- 乳酸
- アミノ酸: 糖新生の原料になるアミノ酸をとくに 糖原性アミノ酸 という。
- グリセロール
糖新生が起こる主要な組織は
グルコース関連化合物
グルコースは様々な生物で主要な役割を果たす糖であり、多くの関連化合物が存在する。
名称 | 特徴など |
---|---|
グリコーゲン |
動物の主要な貯蔵多糖。グルコースが α-1,4-glycosidic bond で結合し、α-1,6-glycosidic bond で分岐して網目構造をとる。およそ 10 に対して 1 の割合で分岐する。 |
セルロース Cellulose |
Glucose が β-1,4-glycosidic bond で結合した多糖。地球上でもっとも量が多い炭水化物である。β-1,4 グリコシド結合はまっすぐな構造をとるが、glycogen などの α-1,4-glycosidic bond は折れ曲りが多く、酵素などがアクセスしやすい構造になっている。 |
でんぷん Starch |
α-amylase は、α-1,4-glycosidic bond を切れるが 1,6 結合は切れない (1)。1,6 結合を含む 2 or 3 糖の maltose or maltotriose は、maltase や α-glucosidase によってグルコースまで分解される。 |
β-グルカン |
グルコースが β-1,3 グリコシド結合で連なった多糖は |
グルコースの 2 位の炭素についている水酸基 -OH がアミノ基 -NH2 に置換されたもの。甲殻類の殻を構成するキチンの主要成分である。また、アミノ基がアセチル化された N-アセチルグルコサミンは軟骨の成分として重要。 |
References
- By NEUROtiker - Own work, Public Domain, Link
- Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
Gurst 1991a. NMR and the structure of D-glucose. J Chem Educ 68, 1003-1004.
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