ヒトの脳 Human brain: 概要および目次
- 脳の構造: 発生段階における全体像
- 前脳 Prosenchephalon に由来する領域
- 大脳 Telencephalon
- 間脳 Diencephalon (interbrain)
- 中脳 Mesenchephalon に由来する領域
- 菱脳 Rhombencephalonに由来する領域
- その他の用語
- ヒトの脳の特徴
- 構造上の特徴
- エネルギー代謝の特徴
- 脳から抹消へ投射する神経
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脳の構造: 発生段階における全体像
脳の区分は、複数の階層に分かれており、非常に複雑である。このページでは、基本的に大きな構造から小さな構造へという順序で分類する。
最も大きな分類は、図 (文献 9) の左側に示すような
- 前脳 Prosenchephalon
- 中脳 Mesencephalon
- 菱脳 (りょうのう) Rhombencephalon
という分類である。
少しややこしいのは、これらの名前は原則的に発生段階でのものであるという点である。発生段階に応じて名前が変わっていくが、成体の脳に対しても「そこから発生した脳の構造」という意味で「前脳」などという言葉が使われている例もあるので注意する。
まず、脳の発生初期には、神経管に前脳胞、中脳胞、後脳胞という3つのふくらみが生じ、そこから各部分が発達してゆく。これらが前脳、中脳および菱脳である。
さらに発生が進むと、図の右側のように構造が細分化されてくる。
- 終脳 (大脳) Telencephalon (cerebrum)
- 間脳 Diencephalon (interbrain)
- 後脳 Metencephalon
- 脊髄脳 Myelencephalon
- 脊髄 Spinal cord
前脳 Prosenchephalon に由来する領域
終脳 (大脳) Telencephalon (cerebrum)
- 前頭葉 Frontal lobe
- 前部前頭葉 Prefrontal regions, prefrontal cortex
- 背外側前頭前皮質 (dorsolateral prefrontal cortex)
- 内側前頭前皮質 (mPFC: medial prefrontal cortex)
- 眼窩前頭皮質 Orbitofrontal cortex (ラット)
- 前部前頭葉 Prefrontal regions, prefrontal cortex
- 中心溝 (ローランド溝) Central sulcus
- 脳梁 Corpus callosum
- 頭頂葉 Parietal lobe
- 後頭葉 Occipital lobe
- 後頭葉皮質 Occipal cortex
- 視覚野 Visual cortex
- 外側溝 (シルビウス溝) Lateral sulcus
- 島皮質 Insular cortex
- 側頭葉 Temporal lobe
- 大脳基底核 Basal ganglia
- 線条体 Striatum (human, rat)
- 被殻 Putamen
- 尾状核 Caudate nucleus
- 尾状核頭 Head of caudate nucleus
- 尾状核体 Body of caudate nucleus
- 尾状核尾 Tail of caudate nucleus
- 視床下核 Subthalamic nucleus
- 淡蒼球 Globus pallidus
- 外節 External segment
- 内節 Internal segment
- 線条体 Striatum (human, rat)
- 大脳辺縁系 Limbic system
- 扁桃体 Amygdala
- 帯状回 Cingulate gyrus
- 海馬体 Hippocampal formation
- 海馬 Hippocampus
- CA1
- CA2
- CA3
- 歯状回 Dentate gyrus
- 海馬台 (海馬支脚) Subiculum
- 前海馬支脚 Presubculum
- 傍海馬支脚 Parasubiculum
- 海馬傍回 Parahippocampal gyrus
- 嗅内皮質 Entorhinal cortex
- 嗅周囲皮質 Perirhinal cortex
- 海馬傍皮質 Parahipoccampal cortex
- 海馬 Hippocampus
上記の構造の位置関係は、図 (Public domain) のようになっている。
間脳 Diencephalon (interbrain)
- 視床 Thalamus
- 視床上部 Epithalamus
- 松果体 Pineal organ (body): メラトニン分泌
- 手綱神経節 Habenular ganglia - 手綱核 Habenular nucleus と同じか?
- 視床下部 Hypothalamus
- 腹内側核 VMH
中脳 Mesencephalon に由来する領域
- 蓋板 (上丘、下丘)
- 大脳脚
- 被蓋
- 腹側被蓋野 VTA
- 黒質 Sunstantia nigra
菱脳 Rhombencephalon に由来する領域
- 後脳 Metencephalon, hindbrain
- 橋 (きょう)
- 小脳 Cerebellum
- 延髄 Medulla oblongata: 脳と脊髄の連結部分
その他の用語
脳幹 |
解剖学用語ではなく一般名称で、定義が定まっていない。延髄、橋、中脳が含まれることが多いが、間脳を含めている文献もある。 |
側頭葉 |
図に示すとおり皮質 cortex の一部分である (表面だけを意味する) が、内側側頭葉 medial temporal lobe はさらに内側の構造、すなわち海馬 hippocampus, 脳幹 brainstem, amygdala のことを意味する。 |
皮質と髄質 |
場所による区分である。器官の表層部のことを 皮質 cortex といい、大脳の皮質は大脳皮質 cerebral cortex、小脳の皮質は小脳皮質 cerebellar cortex である。 これに対して、器官の深部は髄質 medulla と呼ばれるが、「大脳髄質」などという言い方はあまりされない。皮質・髄質という区分は、脳以外の器官 (副腎皮質、副腎髄質など) でも使われる。 |
灰白質、白質 |
色による区分である。灰白質には、神経組織のうち細胞体が存在しており、肉眼で見てもやや色が濃く見える。大脳では主に皮質が灰白質であるが、脊髄では髄質 medulla が灰白質である。 白質は神経細胞体がなく、神経線維の束が存在する部分である。神経線維はグリア細胞 (末梢ではシュワン細胞、中性では稀突起グリア細胞) の細胞膜が巻き付いてミエリン鞘を形成している。この細胞膜が白く見える。 |
視蓋 |
哺乳類では、視覚、聴覚、および体性感覚刺激に対応するニューロンは主に上丘 superior colliculus という領域に存在する。両生類、爬虫類および魚類では、視蓋と呼ばれる領域がこれに対応し、視覚情報を処理する最大の領域である。 |
Anterior commissure |
ラット の anterior commissure のページを参照のこと。 |
Meninx primitiva |
一次髄膜。 |
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ヒトの脳の特徴
構造上の特徴
霊長類およびいくつかの哺乳類の脳では、大脳新皮質が折り畳み構造をもつ。 Gyrencephalic という (7)。これに対し、齧歯類の大脳皮質は平坦である。
また、ヒトの脳は大脳新皮質が厚いという特徴がある (7)。 このために言語、抽象的な概念などの高度な思考が可能。ヒトの大脳皮質の容積は、チンパンジーの 2 - 3 倍である。ニューロンの数、シナプスの数ともに他の霊長類よりも多い。
脳は、一般に脂質 lipid に富む器官である (乾燥重量の 50% 以上が脂質; Ref 6I)。 脂肪酸の 40% はリン脂質、35% は糖脂質である。
エネルギー代謝の特徴
脳はエネルギー消費が活発な器官である。体積ではヒトの体の約 2% だが、血液の 15% は脳のために使われている (4)。休止状態でも、体のエネルギー消費の 20% を占める (5)。
グルコース glucose, ケトン体 ketone body, 乳酸 lacate など限られた物質しかエネルギーにできない。
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脳から抹消へ伸びる神経
多くの脊椎動物の脳からは、神経が末梢に直接投射している。これらを脳神経 cranial nerves という。
下に示した12対は主な脳神経である。この名前のほか、神経が脳と接続されている部位によって順に番号がつけられている。左の1-12がその番号に相当するが、ローマ数字で表されることが多い。
- 嗅神経
- 視神経
- 動眼神経
- 滑車神経
- 三叉神経
- 外転神経
- 顔面神経
- 内耳神経
- 舌咽神経
- 迷走神経
- 副神経
- 舌下神経
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References
河合良訓 監修, 原島広至 文・イラスト (2005).
語源から覚える解剖学英単語集の第 3 段。 監修のことばにも書かれているが、脳は他の組織よりも構造が複雑である。それは、脳の領域が全体的に繋がっていて、区分がはっきりしていないためである。これに伴って用語にも混乱が生じており、たとえば脳幹 brain stem という単語が示す領域は文献によって異なっている (これもこの本に書かれていた)。したがって、良いアトラスを持っていることは脳について学習・研究するために非常に重要である。 この本は、ヒトの脳の様々な部位の名称が日本語と英語で対応づけて書かれていて、イラストも美しくわかりやすい。厚くはないが、 原著論文に出ている用語はほぼ網羅しているので、ぜひ手元に一冊置いておきたい本だ。 |
Logothetis 2008a (Review). What we can do and what we cannot do with fMRI. Nature 453, 869-878.Kim et al. 2000a. Regional neural dysfunctions in chronic schizophrenia studied with pesitron emission tomography. Am J Phychiatry 157, 542-548.Leopold 2009a (news). Pre-emptive blood flow. Nature 457, 387-388.Attwell & Laughlin 2001a (Review). An energy budget for signaling in the gray matter of the brain. J Cereb Blood Flow Metab 21, 1133-1145.Eckel & Robbins 1984a. Lipoprotein lipase is produced, regulated, and functional in rat brain. PNAS 81, 7604-7607.Silver 2015a (Review). Genomic divergence and brain evolution: How regulatory DNA influences development of the cerebral cortex. BioEssays 38, 162-171.- メモ、引用なし. Why does brain metabolism not favor burning of fatty acids to provide energy? Reflections on disadvantages of the use of free fatty acids as fuel for brain : あとで読む。
- I, Nrets, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
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