ミトコンドリアの電子伝達系

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: 電子伝達系とは
  2. ミトコンドリアの呼吸鎖
  3. ミトコンドリアの呼吸鎖・各段階の反応

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概要: 電子伝達系とは

電子の伝達によって行われる生体の酸化還元反応を電子伝達 electron transfer or electron transport と呼び、この反応を引き起こす一連の酵素 enzyme や補酵素 coenzyme を電子伝達系という。

具体的には、以下のような電子伝達系がある。

  • ミトコンドリア に存在する 呼吸鎖 respiratory chain
  • 光合成における電子伝達
  • 細菌も独自の電子伝達系をもっている。

ミトコンドリアの呼吸鎖

「電子伝達系」という言葉は、ミトコンドリアの呼吸鎖を指して使われることが多い。このページでも、この反応系について解説する。

下の図 (Public domain) は、呼吸鎖の概要を示したものである (2)。この経路は以下のような重要な特徴をもつ (1)。

  1. 解糖系TCA 回路NADHFADH2 が作られる。呼吸鎖は、これらの高エネルギー電子運搬体および TCA 回路の中間体コハク酸 succinate を利用して、酸素に電子およびプロトンを引き渡すことでエネルギーを引き出す。
  2. 得られたエネルギーは mitochondria marix と intermembrane space の間にプロトン H+ の濃度勾配を作り出す。このプロトン濃度勾配を利用して、ATP 合成酵素ATP を合成する。これを 酸化的リン酸化 oxidative phosphorylation といい (1)、両者の関係は英語で "the respiratory chain is coupled to oxidative phosphorylation" と表現される。
  3. 解糖系で作られた NADH や ADP を mitochondria matrix に輸送するには、グリセロール-3-リン酸シャトル、malate-aspartate shuttle、ATP-ADP translocase などの工夫が必要である。
ミトコンドリアの電子伝達系
  1. 呼吸鎖は、I, II, III, IV の 4 つのタンパク質複合体から成る (1)。それぞれの複合体はミトコンドリアの内膜に埋め込まれており、電子をある物質から次の物質に移す際に、プロトンを膜間領域へ輸送する。
  2. それぞれの複合体は勝手に反応を行っているわけではなく、I, III, IV は respirasome と呼ばれる超巨大複合体を作っている。また、ユビキノン ubiquinone (図中の Q) や cytochrome c などが複合体の間の電子伝達を補助している。これらの仕組みによって電子伝達が効率よく行われ、活性酸素 の漏出を最小限に抑えている。

各段階の反応

1. NADH → complex I → QH2

Complex I は NADH dehydrogenase または NADH-Q oxidoreductase とも呼ばれる (1)。900 kDa 以上の巨大な複合体で、約 46 のポリペプチド鎖から成る。核およびミトコンドリアゲノムの両方にコードされている。

以下のように電子が NADH から complex I を介して Coenzyme Q に引き渡され、プロトンが matrix から膜間領域に移動する。

NADH + Q + 5H+matrix  →  NAD+ + QH2 + 4H+cytoplasm

2 個の電子およびプロトンを得た coenzyme Q (QH2) は complex I と解離し、内膜の中にある Q pool に組み込まれる (1)。

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  • ここでいう H+cytoplasm は、この反応が起こる内膜の matrix 側に対して cytoplasm 側、すなわち intermembrane space を表しており、細胞質に電子が運ばれるわけではない。
  • Complex I は内膜から matrix に突き出した L 字型の構造をもつ (1)。TCA 回路で生み出された NADH は matrix にあるため、complex I とこのように反応できる。解糖系などにより生み出された 細胞質の NADH はミトコンドリア膜を通過できない ので、グリセロールリン酸シャトルなどによって電子だけを受け渡す。
  • NADH がミトコンドリアにどんどん運ばれてくるようなイメージがあるが、TCA 回路はミトコンドリア内にあるので、実際にはミトコンドリア内で NAD+ と H+ がくっついたり離れたりしているということになる。この場合には電荷やプロトン量の収支は考えなくてよい。

2. FADH2 → complex II → QH2

NADH の電子が complex I を介して coenzyme Q に受け渡されるが、FADH2 の電子は complex II を介する (1)。Complex II は succinate-Q reductase complex とも呼ばれる。

この反応では プロトンの輸送は起こらない


3. QH2 → complex III

Complex III は cytochrome reductase および Q-cytochrome c oxidoreductase とも呼ばれる (1)。

QH2 + 2 Cyt coxidative+ 2H+matrix  →  Q + 2 Cyt creduced + 4H+cytoplasm

Cytochrome はヘム heme を含むタンパク質で、自身も還元される。


4. Complex III の酸化

前のステップで還元された complex III から 電子が酸素へ引き渡される (1)。この反応は、酵素 cytochrome oxidase (complex IV) に触媒される。

4 Cyt creduced+ 8H+matrix + O2  →  4 Cyt coxidized + 4H+cytoplasm + 2H2O

最終的に酸素分子は 4 つの電子を受け取るわけであるが、これが不完全だと、他からさらに電子を奪おうとする反応性の高い 活性酸素 が生じる。


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References

  1. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。

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アップデート前、このページには以下のようなコメントを頂いていました。2018 年 11 月に訂正しました。ありがとうございました。

2017/12/07 13:57 respirasomeには複合体IIは含まれず、複合体IVが含まれるというのが定義である。