LB 培地: 組成, 作り方など
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概要: LB 培地とは
LB 培地は細菌類の培養に適した培地で、とくに大腸菌の培養によく用いられる。発明者の名前から Luria-Bertani medium、略して LB 培地とされているが、溶原培地 Lysogeny Broth の頭文字という説もある。
液体LB培地 バクテリア増殖後
LB 培地の作り方
LB 培地の組成は、以下のように単純である。NaCl 濃度が異なる 3 通りの LB 培地がよく知られている。これにグルコースを加えることもある。水酸化ナトリウム sodium hydrogen を使って pH を調整する。
Miller の LB 培地 | Trypton 1%, Yeast extract 0.5%, NaCl 1% |
Lennox の LB 培地 | Trypton 1%, Yeast extract 0.5%, NaCl 0.5% |
Luria の LB 培地 | Trypton 1%, Yeast extract 0.5%, NaCl 0.05% |
液体 LB 培地の作り方
Miller LB を 1 L 作る場合のプロトコールを示す。
- 950 mL の蒸留水をビーカーにとる。
- Trypton 10 g, Yeast extract 10 g, NaCl 5 g を加えて溶かす。必要な成分が予め混ぜられている製品もたくさんある。
- 1 N NaOH を 1 mL 加える。*1
- メスシリンダー measuring cylinder に入れ、蒸留水で 1 L にする。このとき、ビーカーをすすいで壁面についた培地も回収する。
- メディウム瓶に移してオートクレーブ。オートクレーブの際は、蓋をゆるく締めておくこと。
寒天 LB 培地の作り方
基本的な手順は同じだが、オートクレーブの前に寒天 *2 を 1.5% 加える。前の 1 - 4 を行った後に 5 - 7 へ進む。
よく使われる直径 10 cm x 深さ 15 mm のシャーレには、約 20 mL の LB 培地が必要である。
- アガロース 15 g を三角フラスコにとり、LB 培地を入れる。アガロースはオートクレーブの前には溶けないので、よく混ぜた状態でオートクレーブにかける。
- アンピシリン、カナマイシンなどの抗生物質、IPTG、X-Gal などは60 ℃ぐらいに
温度が下がってから入れる 。手でぎりぎりフラスコを触っていられるぐらいの温度が適当である。 - 滅菌済みのシャーレ petri dish に注ぐ。ガスバーナーをつけてその周辺で滅菌的に行うのが普通である。抗生物質など、よく培地に添加して使われる試薬を表にまとめる。
試薬 | 終濃度 | 備考 |
---|---|---|
IPTG | 0.2 mM 以上 (5) |
ストック溶液は 1 M。蒸留水に溶かして 0.22 µm フィルターで滅菌。 プレートに塗布して使う場合は 1 M ストック溶液を 50 µL 使うと書いているページがある (4)。 |
X-gal | 2% ストック溶液を培地 25 mL あたり 50 µL (5) |
ストック溶液は 2%、蒸留水に溶かし0.22 µm フィルターで滅菌。 Blue-white screening を行うときに培地に加える。 |
アンピシリン |
大腸菌のセレクションでは 一般に終濃度 20 - 50 µg/mL。 プロトコールによっては 100 µg/mL (5)。 |
アンピシリンナトリウム塩を蒸留水に 5 - 20 mg/mL の濃度に溶かしてストック溶液を作る。 0.22 µm のフィルターを用いて滅菌後、-20°C で保存可能 (5)。 |
カナマイシン | 終濃度 50 µg/mL で使用する (5)。 |
ストック溶液は 10 mg/mL (5)。これを 0.22 µm フィルターで滅菌後、-20°C で保存可能。 |
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*1 pH を 7 前後に合わせるのが目的。pH を測るように書いてあるプロトコールもあるが、この量の NaOH を加えると非常に再現性良く pH 7 前後になることから、測定は省略される場合が多い。また、
*2 寒天 agarose は、DNA やRNA の電気泳動 に使う高純度のものではなく、培地用の安いアガロースを使う。アガロースが含まれている LB Agar という試薬を使う場合も多いだろう。
LB 培地の成分
LB 培地は、NB 培地、SCD 培地とともに
これに対して、すべて化学薬品から作られる培地を合成培地といい、天然培地よりも組成が明瞭である (1)。
Trypton とは?
Yeast extract は酵母の抽出物であることはわかりやすいが、LB 培地を日常的に使うようになっても意外と意識しないのが
トリプトンとは、タンパク質分解酵素トリプシン trypsin でタンパク質を処理したものである。商標 Bacto をつけた Bacto Trypton が有名。
> タンパク質 を酵素で消化し、低分子化するメリットは 2 つある (1)。
- 第一のメリットは、タンパク質が低分子化するので、大腸菌が栄養として取り込みやすくなること。
- これは、大腸菌などが細胞外にタンパク質分解酵素 (protease) をあまり分泌しないということでもある。
- Bacilllus 属などはプロテアーゼをよく分泌し、タンパク質を栄養源として効率的に利用できる。ただし、酵素の生産・分泌には一定の時間がかかり、これが増殖曲線の lag phase として現れる。
- 第二のメリットは、オートクレーブによるタンパク質の変性・凝集が防げること。
タンパク質を酵素で消化したものを総称して
Yeast extract
Yeast extract は、パン酵母またはビール酵母の熱水浸出液、自己融解物または酵素消化物である (2)。ペプトンと比較すると
NaCl
塩化ナトリウムは、浸透圧調整のために添加する (1)。塩濃度が低いと、大腸菌が溶菌してしまう可能性がある。
グルコース
栄養源としてグルコース glucose を 0.1% 程度添加する場合がある。しかし、大腸菌は嫌気的に解糖 glycolysis を行って乳酸 lactate を産生するため、グルコースを入れると培地の pH が低下するという問題が生じる。NaOH に緩衝能がないのがここで問題となる。
SCD 培地などでは、緩衝剤としてリン酸水素二カリウム dipottasium hydrogen phosphate などを加える場合がある。
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References
駒ら 2011a. 培地の成分知っていますか? 生化学 89, 195-199.- 大腸菌培地LBに用いるbacto tryptoneとは何でしょう。 Link.
田村 (2014). 改訂版 バイオ試薬調製ポケットマニュアル.
一般的なバイオ実験に使われる試薬の作り方がまとまっているハンドブック。一冊手元にあると便利。サイズも実験の邪魔にならずお手頃。
2003 年にオリジナル版、2014 年に改訂版が出た。I 部は溶液・試薬データ編、II 部は基本操作編になっており、ピペット操作など実験の基本がイラスト付きで説明されている。研究室に入って 1-2 年目はとくに重宝するが、末永く使うことができるだろう。このページ に見開きサンプルあり 。
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