定量的 1H-NMR および NMR メタボロミクス

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2018/12/18 更新

  1. 概要: NMR メタボロミクスとは
    • 相対定量と絶対定量
    • 1H NMR の特徴
    • ケミカルシフトから代謝産物を特定する方法
  2. さまざまな組織の NMR メタボロミクス
    • 血液・尿の NMR メタボロミクス
    • 脳の NMR メタボロミクス

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概要: NMR メタボロミクスとは

複数の代謝産物を同時かつ網羅的に同定・定量する手法を メタボロミクス metabolomics という。遺伝子を標的としたゲノミクス genomics、タンパク質 を標的としたプロテオミクス proteomics よりも表現型 phenotype に近いことから、近年とくに注目されている実験手法である。

メタボロミクスには、一般に NMR または質量分析 mass spectrometry が使われる (4)。両者はそれぞれに特徴があり、どちらが優れているというわけではなく、相補的な情報を与える手法である (1)。一般に NMR は試料の調製が簡単で、非イオン性の物質も分析できるという利点がある。また固体 NMR によって抽出で失われてしまう揮発性物質を観察したり、 MRI 装置を使って in vivo への応用できたりする点も NMR の魅力である。

一方、質量分析は NMR に比べて非常に高い感度をもっており、数千の代謝産物を同時に定量することが可能である。

このページでは、1H NMR を用いた代謝産物の網羅的な定量 (1H NMR メタボロミクス) について解説する。

1H NMR メタボロミクスの第一人者である Nicholson のグループは、メタボノミクス metabonomics という言葉も好んで使っている。メタボロミクスは代謝産物の同定および定量に重きを置いており、メタボノミクスは特定の代謝系の変動に重きを置いている (5)。このサイトでは、原則として両者を区別せずに「メタボロミクス」という言葉を用いる。


相対定量と絶対定量

まず確認しておきたいのは、NMR spectra は定量的データであるという点である。つまり ピークの面積と核の数が比例する

Ref 8 は、NMR メーカーである日本電子株式会社 JEOL が提供する定量法のページである。簡単にポイントをまとめると、以下のようになる。

  • 1H NMR のピーク面積は、定数 K、モル濃度 c およびプロトン数 H によって kcH で与えられ、分子に依存しない
  • 実例として、アセトアミノフェンとヒドロキシ安息香酸メチルを同じモル濃度で含む溶液の NMR スペクトルが示されている。
  • モル濃度が同じなので、これらの分子のメチル基によるピークは面積が等しい。これが「分子に依存しない」ということ。
  • 逆に言えば、濃度既知の標準物質を試料に加え、ピーク面積の比をとることで、試料に含まれる代謝産物の濃度を計算することができる。

ただし、実際に Bruker の TopSpin を使って定量すると、ピーク面積は receiver gain およびスキャン回数にも影響される。詳細は Bruker Topspin: ピーク面積の測定方法 を参照のこと。


要検討 → 例では singlet のメチル基同士を比較している。これがメチル基とエチル基だったらどうなるのか? 単に 2/3 倍ということでいいのか? ピークが doublet や multiplet だったら、単にそれらの面積を合計すればいいのか?


> 血液で使える内部および外部標準物質を検討した研究 (1)。

  • NMR チューブに内部標準を入れる方法と、外部標準を別に測定する方法がある (1)。
  • 外部標準物質の条件: 非揮発性、溶媒に可溶かつ溶媒中で安定で、高純度の標品が手に入ること (1)。
  • 溶媒としては、揮発性の高い CD2Cl2 や CDCl3 は不適だった (1)。
  • Plasma などタンパク質の多い溶液では、TSP を内部標準に使ってはいけない。タンパク質に結合するため (4)。

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1H NMR の特徴

1H-NMR は、窒素 NMR など他の核種を対象とした NMR に比べ、以下のような特徴をもっている。現時点では、メタボロミクス実験において事実上唯一の NMR である。


利点

  • 1H は、最も NMR 感受性の高い原子核である。これは、gyromagnetic ratio においても、natural abundance (99.9% 以上) においても言えることである。
  • ほとんどの代謝産物は H を含んでいるため検出可能である。

欠点

  • の巨大なピークが現れてしまうため、water suppression が必要となる。
  • 同様に、脂質 lipid やタンパク質 protein などのピークと代謝産物のピークが重なることが多い。これは、ケミカルシフト の範囲が約 5 ppm と狭いためでもある。
  • 以上のことと関係して、的確なシム shim による磁場の均一性が非常に重要である。

ケミカルシフトから代謝産物を特定する方法

整理中。とりあえずオンラインツールを紹介。


さまざまな組織の NMR メタボロミクス

血液・尿の NMR メタボロミクス

血液 blood と尿 urine は、試料の採取が比較的容易なことから、NMR メタボロミクスのサンプルとしてよく使われる。

尿は、血液と比べてタンパク質や脂質などの macromolecule が少ないという特徴がある。また、多くの組織の代謝の状態を反映する最終的な biofluid であり、この観点からもメタボロミクス解析を行う意義は大きい。

> ヒトの血液および尿の 1H NMR に関するレビュー (6)。

  • NMR metabolomics の基本はバイオマーカー探しである。通常、解析後に主成分分析が行われる。ヒト試料で治療の影響を調べた論文も多い。
  • がん cancer のバイオマーカー探索を目的とした論文が 2008 - 2013 では最も多い。
  • たとえば 乳がん 患者の尿で TCA 回路の中間体の量が変化するという報告がある。

肝障害モデルラットの尿で、600 MHz 1H-NMR によって 0.2 mM 前後の尿中の乳酸 lactate やギ酸 formate を検出している (7)。また、この総説では HepG2 細胞から Bligh & Dyer 法で抽出した水溶性および脂溶性画分に対して NMR メタボロミクスを行い、データを多変量解析した例が紹介されている。

脳の NMR メタボロミクス

脳の 1H-NMR のページ に移動。


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References

  1. Frank et al. 2014a. Accurate determination of reference materials and natural isolates by means of quantitative 1H NMR spectroscopy. J Agric Food Chem, 62, 2506-2515.
  2. NMR Solvents. Sigma, pdf file.
  3. de Graaf 2007a (Book). In vivo NMR spectroscopy 2nd ed. John Wiley & Sons, Ltd. Amazon link.
  4. Beckonert et al. 2007a (Review). Metabolic profiling, metabolomic and metabonomic procedures for NMR spectroscopy of urine, plasma, serum and tissue extracts. Nat Protoc 2, 2692-2703.
  5. 吉田ら 2009a (Review). メタボロミクスとメタボノミクス. ぶんせき 7, 371-378.
  6. Duarte et al. 2014a (Review). NMR metabolomics of human blood and urine in disease research. J Pharm Biomed Anal 93, 17-26.
  7. 福原, 大野 2015a (Review) NMR メタボロミクスを利用した疾患関連バイオマーカーの探索. 昭和学士会誌 75, 288-295.
  8. JEOL 第3回 ちょっと知りたい定量NMR : NMRで定量分析ができるわけ. Link: Last access 2018/06/24.