ゲノム編集技術の概要: CRISPR, ZFN, TALEN など

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このページの最終更新日: 2024/12/11

  1. 概要
  2. 相同組み換え
  3. DNA 切断による遺伝子編集法

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概要

変異動物の表現型から原因遺伝子を探す遺伝学をフォワードジェネティクス forward genetics という。一方、遺伝子に変異を導入し、その表現型から遺伝子の機能を調べる方法をリバースジェネティクス reverse genetics という (図, Ref. 4)。

フォワードジェネティクスとリバースジェネティクス

ゲノム編集技術は、リバースジェネティクスに不可欠な技術である。

> ゲノム編集技術は、次のような流れで成立してきた (1)。

  • 1970 年代に、トランスジェニック動物が作られるようになった。
  • 1980 年代 ES 細胞が樹立。80 年代後半には ES を用いた遺伝子改変動物が作られた。
  • 2000 年にヒトゲノム、2002 年にマウスゲノムが解読。
  • 2007 年 ES 細胞を用いた遺伝子改変技術に ノーベル医学・生理学賞

ゲノム編集の基本的な考え方は、以下のいずれかである。

  1. 相同組み換えを利用する。
  2. DNA の二本鎖を切断し、修復時に改変する。

相同組み換え

歴史的には、相同組み換え homologous recombination がゲノム編集の主な手段であった (2,3)。この手法はマウスで広く用いられてきたが、効率が低く (1 cell/106 - 109 cells; ref 3)、またゲノム編集後の selection が必要であるなどの問題点があり、応用の範囲は狭かった。

ただし、バクテリアなどの微生物では効率の低さを数でカバーできるので、相同組み換えによるゲノム編集は未だに有効な手段である。大腸菌に関する文献 6 から少しメモしておく。記述そのままではなく、新しい方法も加えている。

遺伝子ノックアウトを例にとる。ごく簡単に述べると、以下のような原理である。ベクターを直鎖状にして導入するため、linear transformation と呼ばれる。元文献は Winans et al., 1985。

  1. 両側のゲノム配列それぞれ 500 bp 程度を加えて、目的遺伝子 (潰したい遺伝子) をベクターにクローニングする。目的遺伝子の 5' 側 500 bp + 薬剤耐性遺伝子 + 目的遺伝子の 3' 側 500 bp で in-fusion すれば一発で作れるはず。かつてはベクター上の目的遺伝子を薬剤耐性遺伝子に入れ替えていたようだが、どうやっていたのかよくわからない。
  2. 次に、ベクターを制限酵素などで直鎖状にして、大腸菌 recD 株に導入する。必要なのは薬剤耐性遺伝子とその両側の 500 bp ずつだが、他の部分があっても問題ないことが多い。recD はエキソヌクレアーゼである RecBCD をコードする遺伝子の一つで、これで薬剤耐性遺伝子が大腸菌のゲノムに導入される。
  3. これを選択培地に撒いて、生えてきたコロニーが遺伝子欠損株である。念のため PCR などで確認することが多い。
  4. この方法だと、ノックアウトできる株が recD 株に限定される。たとえばタンパク質発現のときは BL21 株などがよく使われるが、望みの株でノックアウトできないのが欠点。P1 transition によって自分の株にゲノムを移す必要がある。

DNA 切断による遺伝子編集法

相同組み換えの他に TALEN や ZFN といったゲノム編集技術が知られていたが、これらの方法ではタンパク質 protein が標的配列を認識するため、標的ごとに protein engineering が必要であった (4)。一方、CRISPR/Cas9 では single guide RNA (sgRNA) がワトソン・クリック塩基対の形成を通じて標的配列を認識する。RNA 合成は特定の配列を認識するタンパク質の合成よりもはるかに簡単である。そのため組み換え効率の上昇、実験の簡略化、特異性の増大などが成し遂げられ、CRISPR/Cas9 が広く用いられるようになった。

図は Ref. 5 より。

ZFN, TALEN, CRISPRの概念図 ZFN, TALEN, CRISPRの比較 広告

References

  1. 河合, 2016a. ゲノム編集技術の現状と可能性. J Anim Genet 44, 23–34.
  2. Pellagatti et al. 2015a (Review). Application of CRISPR/Cas9 genome editing to the study and treatment of disease. Arch Toxicol 89, 1023-1034.
  3. Hsu 2014a (Review). Development and applications of CRISPR-Cas9 for genome engineerging. Cell 157, 1262-1278.
  4. Khan AA, Raess M and de Angelis MH. Moving forward with forward genetics: A summary of the INFRAFRONTIER Forward Genetics Panel Discussion [version 1; peer review: 1 approved, 1 approved with reservations]. F1000Research 2021, 10:456 https://doi.org/10.12688/f1000research.25369.1
  5. Chen et al. 2014b. Advances in genome editing technology and its promising application in evolutionary and ecological studies. GigaScience 3, 24.
  6. 山田 2003a. バクテリアにおける遺伝子破壊株の作製方法. Environ Mutagen Res 25. 87-92. Pdf link: Last access 2024/12/11.

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