2020 年ノーベル化学賞のゲノム編集技術 CRISPR/Cas9: 原理、問題点など
UBC/experiments/dna/crispr
このページの最終更新日: 2024/02/14- 概要
- 免疫システムとしての CRISPR
- ゲノム編集技術としての CRISPR
- Delivery の方法
- Off-target mutation
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概要
CRISPR/Cas9 とは、2010 年代に急速に普及した ゲノム編集技術 である。RNA-guided nuclease を用いるバクテリアの免疫システムを CRISPR/Cas といい、これがゲノム編集に応用されたものである (4)。
相同組み換え、TALEN、ZFN といった既存のゲノム編集技術とは異なり、
CRISPR は clustered regularly interspaced short palindromic repeats の、Cas9は CRISPR associated protein 9 の略。
ニュースなどのメモ
- マウスでは、遺伝病を実際に治療できたという論文が相次いでいる。
- Biorxiv 上で論戦が続いているが、Shaefer et al. (2017) が検出した変異は マウス の strain の違いによる SNP であるという結論に落ち着く... かもしれない。対照群としての系統の選び方がまずかったということ (10)。
- 2017 年 5 月、Nature Methods に off-target mutation が数千個もあったという論文が出る。Schaefer et al. Nature Methods 14, 547-548.
- 2016 年 11 月、アメリカ国立衛生研究所 (NIH) が CRISPR を使った がん 治療の臨床研究を承認。アメリカでは最初の臨床試験。
免疫システムとしての CRISPR
> 1987 年、CRISPR という繰り返し領域が大腸菌のゲノム中で発見された (4,5R)。
- この領域の spacer sequence が、ファージの配列に似ていた。
- 実際に、バクテリアはファージの DNA を CRISPR repeat 中にもつことで抵抗性を獲得する。
- ここから転写される CRISPR RNA (crRNA) が、侵入してきた phage を認識する。
- Cas protein が phage の DNA を分解する。
原核生物 には少なくとも 11 の CRISPR-Cas systems が存在し、type I, II, III に分けられている (4)。ゲノム解析から、古細菌の 90% およびバクテリアの 50% がこのシステムをもつと考えられている (7)。
Type II system が最もよく研究されており、ゲノム編集技術に応用されたのも type II である。Type II は、1 つのヌクレアーゼ (Cas9) と 2 種類の RNA を必要とする。一つは Cas を標的配列までガイドする crRNA であり、もう一つはその成熟および Cas9 のリクルートに必要な tracrRNA である。
広告ゲノム編集技術としての CRISPR
CRISPR/Cas9 システムによるゲノム編集の概要は、以下の図 (6) のようになっている。重要なのは
- sgRNA: tracrRNA と crRNA の機能を両方もつように作られた RNA (4)。
- 認識配列の 3' 側にある PAM
- 実際に DNA を切断するヌクレアーゼ Cas9
の 3 つである。
タカラバイオの受託解析では、CRISPR/Cas9 を利用したノックアウト細胞作成の受託解析の値段として 1 件あたり約 180 万円、参考納期として 4 ヶ月以上を見積もっている (3)。ノックイン、SNP 導入は「別途ご相談」となっており、技術的に難しいと思われる。
single guide RNA (sgRNA) |
crRNA および tracrRNA を 1 本の RNA 鎖として合成したもの。ゲノムにハイブリダイズする領域は約 20 nt である (9)。 |
Protospacer-adjacent motif (PAM) | Cas9 は標的とする DNA に double-strand break を挿入するが、その際に
|
Cas9 | Cas9 は、DNA に double-strand break をもたらすヌクレアーゼである。詳細は Cas9 のページ にまとめる。 |
Cas9 によって DNA 切断 (DSB; double-strand break) が起こると、切断された DNA は内在の DNA 修復システムによって修復される。これには 2 通りの方法がある。これらは一般的な DNA 修復の仕組みなので、他のヌクレアーゼによって生じた DSB も同じように修復される (7)。
1. Non-homologous end joining (NHEJ)
切れた DNA の末端を直接繋ぐという修復方法で、Insertion および deletion の原因になる (4)。哺乳類細胞での主要な修復機構で、細胞周期に依存しない。Exsogenous DNA がないときに起こる (8)。
2. Homology-directed repair (HDR)
Homologous DNA sequence を修復に用いる (4)。S および G2 期に修復が行われることが多い。Exogenous DNA があるときに起こる (8)。
Delivery の方法
CRISPR/Cas9 によるゲノム編集は細胞内 (核内) のイベントであるため、
ウイルス | |
エレクトロポレーション | |
Nucleofection | |
Lipofectamine | |
マイクロインジェクション | ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、マウス、ラットの胚で使用例がある (4)。 |
Off-target mutataion について
CRISPR/Cas9 の臨床応用の際に大きな問題となるのが、予期しない部分にも変異が入ってしまう off-target mutation である (7)。sgRNA と標的 DNA 配列の間に、ミスマッチが許容されることが原因である。
References
Harris 2015a. Germline manipulation and our future worlds. Am J Bioethics 15, 30-34.Cyranoski & Reardon, 2015a. Chinese scientists genetically modify human embryos. Nature News.- タカラバイオ 受託のページ. Link.
Pellagatti et al. 2015a (Review). Application of CRISPR/Cas9 genome editing to the study and treatment of disease. Arch Toxicol 89, 1023-1034.Ishino et al. 1987a. Nucleotide sequence of the iap gene, responsible for alkaline phosphatase isozyme conversion in Escherichia coli, and identification of the gene product. J Bacteriol 169, 5429-5433.- By ViktoriaAnselm - Own work, CC BY-SA 4.0, Link
White et al. 2015a (Review). The CRISPR/Cas9 genome editing methodology as a weapon against human viruses. Discov Med 19, 255-262.Ishii 2015a (Review). Germ line genome editing in clinics: the approaches, objectives and global society. Brief Funct Genomics, published online.Hsu 2014a (Review). Development and applications of CRISPR-Cas9 for genome engineerging. Cell 157, 1262-1278.Wilson et al. 2017 . The experimental design and data interpretation in ‘Unexpected mutations after CRISPR Cas9 editing in vivo’ by Schaefer et al. are insufficient to support the conclusions drawn by the authors. doi: https://doi.org/10.1101/153338
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