フェニルアラニンの構造、機能、代謝: 芳香族
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概要: フェニルアラニンとは
フェニルアラニン phenylalanine は図のような構造をもつ芳香族アミノ酸である。
- pK1 (COOH) = 2.2
- pK2 (NH3+) = 9.2
- 芳香族、必須
フェニルアラニンは、以下のような重要な性質をもっている。
- ヒト が合成できない必須アミノ酸である。フェニルアラニンの欠乏は、confusion, lack of energy, depression, decreased alertness, memory problems, lack of appetite などをもたらす。
- 芳香族アミノ酸である。280 nm 法 によるタンパク質濃度の測定に使われる。
- フラボノイド 合成の前駆体である。
フェニルアラニンの代謝
フェニルアラニン代謝の一つに、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ (phenylalanine ammonia-lyase, PAL、酵素番号 EC 4.3.1.24) による trans-ケイ皮酸への変換がある。これはフラボノイド合成経路の最初の段階であり、general phenylpropanoid pathway の最初の反応である。
L-フェニルアラニン ⇌ trans-ケイ皮酸 + NH3
フェニルケトン尿症
フェニルケトン尿症 (phenylketonuria; PKU) は、フェニルアラニン代謝の異常による有名な遺伝病である (1)。幼児期に発症し、精神遅滞をもたらす (1)。成人ではうつ病などの精神疾患として現れる場合もある。
アメリカでは約 1 万人に 1 人の割合で発症する。トルコでは 1/4,200 と発症率が高いが、台湾や日本ではそれぞれ 1/55,000 および 1/80,500 と低い。アメリカでは、全ての州で新生児の血液テストが義務付けられている。
血液中の Phe 濃度の正常値は 44 - 72 µM である。120 - 600 µM になると hyperphenylalaninemia (HPA) と呼ばれ、さらなる診断を必要とする。Classicl PKU では 1200 µM 以上になることもある。血液 中の Phe がわずがに増大する non-PKU hyperphynylalaninemia は治療を必要としない。Mild PKU, Classic PKU などに分類されている。
過剰な Phe が精神遅滞をもたらすメカニズムについては、いくつかの説がある。
歴史
1934 年にノルウェーで最初に報告された (2)。1953 年には、フェニルアラニンの摂取量を減らすことで症状を軽減できることがわかった。
メカニズム: PAH
フェニルアラニンヒドロキシラーゼ (Phenylalanine hydroxylase; PAH; EC 1.14.16.1) をコードする遺伝子の劣性の変異による。この酵素 enzyme は Phe を チロシン に変える機能をもっている。主に肝臓で発現しており、腎臓でも低レベルの発現がみられる。
PAH はフェニルアラニンによるアロステリック制御を受けている。血中 Phe 濃度が上がるとその結合によって活性化する。Phe は PAH の N-terminal region に結合し、これによって PAH の構造が変化、基質に結合できるようになる。
2017 年 3 月現在で 991 の PAH の変異が報告されている。このデータは International Database of PAH Variants というデータベースにまとめられている。
メカニズム: BH4
この酵素の cofactor である 6R-L-erythro-5,6,7,8-tetrahydrobiopterin (BH4) の摂取も症状の改善に有効である。BH4 は Phe, Tyr, Trp hydroxylase や NOS isoenzymes に必要とされる補酵素。PAH の構造を安定化する作用もある。GTP から合成される。BH4 の合成に関わる遺伝子群の変異もフェニルケトン尿症の原因になる。
Tyr hydroxylase は Tyr からのドーパミンなどの合成を触媒し、Trp hydroxylase は Trp からのセロトニン合成を触媒する。
治療
Phe 含量の低い食事をとる食事療法が有効である。Phe は肉類、乳製品、卵、ナッツなどに多く含まれ、野菜、果物には少ない。ただし low Phe diet はアミノ酸サプリを必要とし、結果として非常に高コストになる。
BH4 サプリメントも有効な治療法である。また、PAH のかわりに Phe を分解するバクテリア等の酵素 Phe ammonia lyase (PAL) を注射する方法も有効で、これは PAH enzyme substitution と呼ばれる新しい治療法である。
PAH は主に肝臓で働く酵素なので、肝細胞移植 hepatocyte transplantation も有効な治療法になりうる。これは他の肝臓の疾患でも使われる治療法で、免疫などの問題はあるにせよ 2014 年には 100 件の肝細胞移植が行われている (Crigler-Nahhar disease の治療のため)。
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References
- Berg et al. Biochemistry: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。
Folling 1934a. Urinary excretion of phenylpyruvic acid as a metabolic anomaly related to mental retardation. Hoppe Seylers Z Physiol Chem 227, 169-176.
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