チロシン: ストレスを軽減する芳香族アミノ酸
構造、機能、生合成など
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概要: チロシンとは
チロシン tyrosine は図のような構造をもつアミノ酸で、フェニルアラニン、トリプトファン とともに
- pK1 (COOH) = 2.1
- pK2 (NH3+) = 9.1
- pK3 (側鎖) = 10.1
- 芳香族
チロシンの重要な性質は以下の通り。
- 側鎖の水酸基 (-OH) でリン酸化される。
- 光合成に使われる。
- 芳香族アミノ酸 であり、280 nm の光を吸収する。280 nm 法 によるタンパク質濃度の測定は、チロシンおよびトリプトファンのこの性質を利用したものである。
- 脳では tyrosine hydroxalase によって L-DOPA に変換される。ドーパミン などの原料である。
チロシンは非必須アミノ酸であり、乳製品、アボカド、ナッツなどに多く含まれている。カゼイン から 1846 年に Justus von Leibig によって単離された。生体内では、フェニルアラニンから生合成することができる。
ドーパミン、ノルアドレナリンなどの生合成に使われることから、チロシンの摂取はストレスを軽減するとされる。また、チロシンからはメラトニン、アルカロイド、フェノール類、甲状腺ホルモンなども合成される。
チロシンの生合成
哺乳類
チロシンは、フェニルアラニンから生合成される。関わる酵素は phenylalanine hydroxylase で、単にフェニルアラニンに -OH を付加する反応である。
バクテリアと植物
シキミ酸経路 shikimate pathway は、多くのバクテリアおよび植物に存在する、芳香族アミノ酸を合成する経路である。
バクテリアおよび植物では、チロシンはシキミ酸経路で prephenate から生合成される。Prephenate は脱炭酸を受けた後、グルタミン酸からのアミノ基転移によってチロシンとなる。
チロシン合成に関わる tyrR はフィードバック阻害を受けるが、Met-53-Ile と Ala-354-Val の変異でその阻害を外すことができるようだ (参考)。
チロシンの分解
主に植物と微生物で、チロシンはフェニルアラニンとともにフラボノイド合成の原料となる。その経路はフェニルプロパノイド経路 phenylpropanoid pathway と呼ばれる。以下の酵素がフェニルプロパノイド経路への最初の反応を触媒する。
チロシンアンモニアリアーゼ tyrosine ammonia-lyase (TAL, EC 4.3.1.23) は、チロシンを p-クマル酸に変換する。
フェニルアラニン/チロシンアンモニアリアーゼ phenylalanine/tyrosine ammonia-liase (EC 4.3.1.25) PTAL は、フェニルアラニンとチロシンの両方を基質とする。チロシンからは trans-p-ヒドロキシケイ皮酸とアンモニアを、フェニルアラニンからは trans-ケイ皮酸とアンモニアを精製する。
このあたりは基質特異性が低いのか、TAL、PAL、HAL などのアミノ酸同一率が非常に高く、命名法も混乱しているように思える。
- L-phenylalanine ⇌ trans-cinnamate + NH3
- L-tyrosine ⇌ trans-p-hydroxycinnamate + NH3
その他
チロシンは、C. elegans では発生、老化、寿命などを制御する重要なシグナル伝達分子である (2)。
チロシンの欠乏は、以下のような症状をもたらす (3): low blood pressure, low body temperature, an underactive thyroid, edema, fat loss, liver damage, lethargy, fatigue, blood sugar imbalances, muscle loss, skin lesions, and slow growth in children.
References
- Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
Ferguson et al. 2013a. TATN-1 mutations reveal a novel role for tyrosine as a metabolic signal that influences developmental decisions and longevity in Caenorhabditis elegans. PLoS Genet 9, e1004020.- Tyrosine. University of Maryland Medical Center. Link: Last access 2018/02/20.
Yu et al., 2016a. Metabolic engineering of Pseudomonas putida KT2440 for the production of para-hydroxy benzoic acid. Front. Bioeng. Biotechnol., 4, 90.
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