脂肪分解に関わる酵素 HSL: 構造、機能、分子進化など

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: HSL とは
  2. HSL の構造
  3. HSL 活性の制御
  4. HSL ノックアウトマウス

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概要: HSL とは

脂肪細胞 adipocyte は、油滴 lipid droplet の中に貯めている トリアシルグリセロール を必要に応じて ジアシルグリセロール、ついで モノアシルグリセロール に加水分解し、取り出した 脂肪酸 を血管へ放出する。

この過程を 脂肪分解 lipolysis という (図, Ref 16)。


Lipolysis により生じた脂肪酸は、遊離脂肪酸 free fatty acid または非エステル化脂肪酸 (NEFA; non-esterified fatty acid) と呼ばれる。筋肉などに運ばれ、β酸化 などを経てエネルギー源となる。

ホルモン感受性リパーゼ (HSL; hormone-sensitive lipase, EC 3.1.1.3) DAG 分解の律速酵素 で、ホルモンによる lipolysis 制御の中核を担う酵素 である。

HSL のほか、TAG を主に分解する ATGL も重要な酵素である。


> HSL の酵素活性は広い。TAG : DAG : MAG に対する活性は 1 : 10 : 5 である (4)。

  • Acylglycerol のほか cholesteryl ester, retinyl ester, steroid ester も分解する (3)。
  • Cholesteryl ester に対する分解活性は TAG の約 2 倍で、生理的にどのように働いているのか興味深い (3)。

リパーゼは、至適 pH によって酸性リパーゼおよび中性リパーゼ neutral lipase に分類されることがある。この分類では、HSL は中性リパーゼに属する。

HSL の構造

HSL 遺伝子

哺乳類では、promoter の使い分けによって 3 つの isoform がある。サイズは 84 - 130 kDa と多様 (3)。精巣特異的な HSLtes があり、cholesteryl ester hydrolase として精子形成に必要 (7)。多くの知見は脂肪組織を使った実験から得られており、言及がない場合は HSLadi についてのものと考えられる。

バクテリアも HSL に相同と考えられる分子をもっており、HSL の起源は非常に古いと考えられている。ただし、構造の一部が似ているだけで、その機能には大きな違いがありそうである。

  • 哺乳類 HSL は、構造的に bacteria の type B carboxyesterase に似る (5)。
  • Bactarial HSL は一般に 34-40 kDa と小さく、哺乳類 HSL の C-terminal region に似る (9I)。
  • BFAE from Bacillus subtilis, lipase 2 from Moraxella TA 114などが HSL family protein (9I)。
  • Bactarial HSL は水溶性の短鎖脂肪酸は分解するが、エマルジョン中の長鎖脂肪酸はできない (9R)。
  • このことから non-lipolytic carboxyestelase と位置づけられる。ヒト HSLは lipolytic である (9R)。

また、HSL は 他のリパーゼ (pancreasic lipase, lipoprotein lipase など)と相同性を示さない (14)。Exon 6 と他のリパーゼの相同性が著しく低く、ここがどこからか飛んできた mosaic protein かも。Exon 6 は phase I (コドンの一番目の塩基で切れる)の構造があり、これも mosaic protein の特徴。

HSLtes は、different promoter usage で5'側に特異的エクソンをもつ (7I)。5' 側の isoform-specific exon が翻訳領域をコードするのは珍しい。大体は非翻訳領域。

哺乳類の脂肪組織、adrenal gland、卵巣では、転写は複数の exon (A, B, C, D, or exon 1 ) から始まる (4)。Exons B, C, D は非翻訳領域なので、どこから転写されるかはアミノ酸配列に影響しない。Exon A は 43 アミノ酸を HSL の N 末端側に付加する。哺乳類の精巣では、2つの組織特異的エクソン (T1, T2)がある (4)。Exon T1 は、300 アミノ酸を N 末端側に付加する。T2 は非翻訳領域をコードする。


タンパク質の構造

  • N-terminal domainはタンパク質相互作用 or 基質結合、C-terminal domainは活性ドメイン (4)。
  • N-terminal domainは他のタンパク質と相同性を示さない。Cはbactarial HSLsに似る (9I)。
  • Rat N-terminal domain (AA1-300 ) は、ダイマー化およびFABP4との結合に関与 (4)。
  • Rat C-terminal domain は Ser-423, Asp-703, His-733から成る catalytic triad を含む (4)。
  • Rat regulatory module (AA521-669 ) はloop regionで、既知の全てのリン酸化サイトを含む (4)。
  • Rat putative lipid binding domain は AA658 あたりにある (4)。

Rat HSL のリン酸化サイト

Ser563: PKA (3,4 ), glycogen synthase kinase-4 (4 )

> site 1, regulatory siteとも呼ばれる (4)。

> 563のみ、または563と565をAlaに置換しても、活性は失われない (4)。

> protein phosphatase 2A (PP2A ) とPP2Cに脱リン酸化される (4)。

Ser565: AMPK (11 ), Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase II (4 )

> Site 2, basal siteとも呼ばれる (4)。ここのリン酸化は活性を負に制御するかもしれない。

> かつては活性に影響なしとされていたが、ここに変異を入れると活性がわずかに上昇する。

> AMPKによってリン酸化されると、lipolysis が阻害される (11。

> 主にPP2Aに脱リン酸化されるが、PP1およびPP2Cも重要かもしれない (4 )。

Ser600: Erk (3,4 )

Ser659: PKA   (3, 4 )

> Ser660とともに新しく発見されたリン酸化サイト (4)。活性に必要。変異を入れると活性がなくなる。

Ser660: PKA  (3, 4 )


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HSL 活性の制御

転写制御

ヒツジ HSL の 5' 上流域 (転写開始点から 1244 bp)にあった転写因子結合サイト (12)。 Stimulating protein 1 (Sp1 ), CCAAT-box Binding Factors (CBFs ), Activator Protein 2 (AP2 ) and Glucocorticoid Receptor (GR ), as well as other cis-acting regions denominated as Insulin Response Element (IRE ), Glucose Response Element (GRE ), Fat Specific Element (FSE ) and cAMP Response Element (CRE ).

cAMP による制御

> 3T3-F442A および BFC-1 脂肪細胞では、cAMP または PMA 処理で HSL の mRNA 量が低下する (13)。 : PMA (phorbol 12-myristate 13-acetate ) は、PKC の活性化剤である。 : cAMP-PKA 経路、PKC 経路による HSL の活性化を考えると意外な結果。フィードバック? : 短期の飢餓では、HSL の mRNA 量が低下するという報告も引用されている (13D)。

ホルモンによる制御

グルカゴン glucagon および カテコールアミン catecholamine によって活性化される。PKA シグナルを介した作用であることがよく知られている。 > 成長ホルモン growth hormone によって、ニジマス肝臓の HSL がリン酸化される (16)。 : 哺乳類でも示されているのか? : PKC, ERK を介する経路に依存することが阻害剤を使って示されている。

HSL ノックアウトマウス

> KO miceの体重およびWAT重量は正常 (1D)。WATは小さいという報告も (8)。

> HSL-deficient mice are lean, and they effectively mobilize FFAs from TG (2I ).

 

> KO miceでも basal lipolysis は起こる。これはHSLの他にも lipase があることを示唆する (3)。

: KOではDAGが蓄積するので、HSL以外の lipase はTAG lipaseであることが予想される (3)。

: のちに、TAG の分解活性が高い adipose tissue triglyceride lipase (ATGL) が発見されている。

 

> DAG 分解活性は、wtの1/20から1/30程度 (1)。

高脂肪食を与えた場合

 

> 高脂肪食で一般に体重は増えるが、HSL-/-は増え具合がwtよりも穏やか。BATでの脂質燃焼が活発 (8)。

> normal chowおよびhigh-fat dietを与えたHSL-/-は、白色脂肪組織がwtよりも小さくなる (8)。

> HSLはWATでPPARgのリガンドを作っており、KO miceでは脂肪細胞の分化が抑制されるためと考えている。

> high-fat diet を与えた KO mice の BAT では脂質の燃焼が wt より活発。コレステロールの蓄積が原因か? (8)

その他未整理

> KO miceでは血中 NEFA 量が減り、筋肉や心臓でのインスリン感受性が増大する (5)。

> HSL-/- mice は血中 NEFA 量がnormal chowでもhigh-fat dietでも低い (8)。

> HSL-/- mice は不妊である (7I)。

> Drosophilaの油滴タンパク質のリン酸化にも cAMP, PKA が関与。哺乳類lipolysisと似た機構がある (10)。

  • リン酸化で lipid droplet の近くへ輸送される (3)。
  • PKA, perilipin と共同で脂肪分解をするが、これが adipocytes 以外で保存されているかどうかは不明 (3)。
  • 実際に、ペリリピンは脂肪細胞もしくは steroidogenic tissueでのみ発現している (3)。つまり、他の組織での lipolysis では HSL とペリリピンの共同作業が存在しないと思われる。

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References

  1. Haemmerle 2002. JBC, 277, 4806-4815.
  2. Haemmerle 2006. Science, 312, 734-737.
  3. Holm 2003 (Review). Biochem Soc Transac, 31, 1120-1124.
  4. Lampidonis et al. 2011aR (Review). The resurgence of Hormone-Sensitive Lipase (HSL) in mammalian lipolysis. Gene 477, 1-11.
  5. Laurell 2000. Protein Engineering, 13, 711-717.
  6. Park 2005. Am J Physiol Endocrinol Metab, 289, E30-E39.
  7. Vallet-Erdtmann 2004. JBC, 279, 42875-42880.
  8. Harada 2003a. Am J Physiol Endocrinol Metab, 285, E1182-E1195.
  9. Chahinian 2005a. BBA, 1738, 29-36.
  10. Schlegel 2007a (Review).Lessons from "lower" organisms: what worms, flies, and zebrafish can teach us about human energy metabolism. PLoS Genet 3, e199. 
  11. Daval et al. 2005a. Anti-lipolytic action of AMP-activated protein kinase in rodent adipocytes. J Biol Chem 280, 25250-25257.
  12. Lampidonis et al. 2008a. Cloning and functional characterization of the 5' regulatory region of ovine hormone sensitive lipase (HSL) gene. Gene 427, 65-79.
  13. Plee-Gautier et al. 1996a. Inhibition of hormone-sensetive lipase gene expression by cAMP and phorbol esters in 3T3-F442A and BFC-1 adipocytes. Biochem J 318, 1057-1063.
  14. Langin et al. 1993a. Gene organization and primary structure of human hormone-sensitive lipase: possible significance of a sequence homology with a lipase of Moraxella TA144, an  antarctic bacterium. PNAS, 90, 4897-4901.
  15. Molecular Biology of the Cell, 5th edition.
  16. By MHarberson - Own work, CC BY-SA 4.0, Link

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