-COOH を 1 個もつ鎖式化合物 脂肪酸:
定義、一覧、構造、命名法など
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概要: 脂肪酸とは
脂肪酸 fatty acid とは、カルボキシル基 -COOH を 1 個もつ鎖式化合物、すなわち鎖式モノカルボン酸の総称である (1)。
命名法、表記法
脂肪酸は、以下のルールに従って 22: 3n-6 のように命名・表記する。図 (ref 2) は
- 22 は炭素数の総数を表す。
- 6 は 2 重結合の数を表す。22: 3n-6 (下図の脂肪酸) には、6 個の 2 重結合がある。
- 3n は、最初の 2 重結合の位置を示す。この際、-COOH 基でない側の末端の炭素を
ω 炭素 といい、ここからの炭素数で表す。
このほか、22:6(n-3) と表記されることもある。
注意すべきことは、
二重結合を -COOH 基から数える方法を使いたいときは、Δ2 のように表す。これは -COOH 基から数えて 2 番目と 3 番目の炭素の間に二重結合が入っているという意味である。cis-Δ2, trans-Δ9 のように書くこともできる。この書き方は、脂肪酸合成を考えたときに重要になる。 哺乳類では、不飽和化酵素 desaturase による二重結合導入が Δ9 よりも遠い位置では起こらないためである。
生理機能
脂肪酸の生理機能は、概ね以下の 4 点である (5)。
> 脂肪酸の水溶性と細胞膜透過に関する総説 (文献)。
- 長鎖脂肪酸の水溶性は非常に低く、一般に 1 - 10 nM 程度である。これは脂肪酸結合タンパク質によって大きく上昇し、たとえば体内に 300 - 600 µM の濃度で存在するアルブミンにより、脂肪酸は体液中に 1 - 2 mM の濃度で存在できるようになる。
- FABP によっても、150 - 300 µM 程度が可能。
飽和・不飽和による分類
成体に多く含まれる脂肪酸を、飽和・不飽和で分類しつつ表にする。以下のような規則がある (5)。
- 炭素の数は偶数の場合が多く、14 - 24 のものが多い。16, 18 がもっとも一般的である。
- 動物では、脂肪酸はほとんどの場合枝分かれしない。
- 不飽和脂肪酸の二重結合は、ほとんどの場合シス型である。
- 二重結合が複数含まれる場合、それらは少なくとも 1 個のメチレン基 methylene group で隔てられている。
飽和脂肪酸 (SFA)
炭素鎖に不飽和結合を含まない脂肪酸を、
> 同じ炭素数の不飽和脂肪酸と比較して
- 不飽和結合がないために炭素鎖がシンプルな形をしており (直鎖状)、相互作用する力が強いため。
- トロの脂は牛肉の脂よりも飽和度が低い。そのため口の中の温度で溶ける。刺身の味わいが違う理由。
構造 | 名称: 慣用名, IUPAC 名 |
特徴 |
1:0 | ギ酸、メタン酸 |
アリやハチの毒成分である。 |
2:0 | 酢酸、エタン酸 |
いわゆる「お酢」。 |
3:0 | プロピオン酸 |
|
4:0 |
ブタン酸、酪酸、ブチル酸 |
英語では butyrate, butanoate, butyric acid, butanoic acid (BTA) などと呼ばれる。過敏性腸症候群 irritable bowel sydrome との関係を示した論文がある (9)。 ウサギの餌に混ぜると、腸管の発達と体重の増加をもたらす (10)。 |
5:0 | ペンタン酸、吉草酸 | |
6:0 |
ヘキサン酸 カプロン酸 |
チーズの香りがし、水溶性は低い。皮膚に刺激があり、おそらく有毒である。 ドラッグデリバリーでリンカーとして使われている文献がある (8)。 |
7:0 | ヘプタン酸 | |
8:0 | オクタン酸 | |
9:0 | ノナン酸 | |
10:0 | デカン酸 | |
12:0 | Lauric acid |
ココナッツオイルに多く含まれる。また、black soldier fly というハエの幼虫で 21.4 - 49.3% という高い含量が報告されている (6)。 インフルエンザなどウイルス性の疾患にも有効とされており、sodium lauryl sulfate の形でシャンプーなどにも使われている。 |
14:0 | ミリスチル酸 Myristic acid テトラデカン酸 |
|
15:0 | ペンタデカン酸 | |
16:0 | パルミチン酸 |
|
17:0 | マルガリン酸, ヘプタデカン酸 | |
18:0 | ステアリン酸 |
融点 69.6 °C (5)。 |
20:0 | エイコサン酸 |
MUFA
二重結合を 1 個含む脂肪酸を
構造 | 名称: 慣用名, IUPAC 名 |
特徴 |
16:1n-7 16:1 Δ9 |
パルミトレイン酸 Palmitoleic acid |
マカダミアナッツに多く含まれる。 |
18:1n-9 | オレイン酸 |
融点 13.4 °C と、ステアリン酸に 1 個二重結合が入っただけで大きく性状が変わる (5)。 オリーブオイル中のオレイン酸を消費量と 乳がん のリスクに負の相関が報告されている。肺サーファクトタンパク質 SP-A の分泌に影響する。 LPL コレステロールを低下させる効果があり、オリーブオイルを多量に摂取する地中海沿岸の人に冠動脈性疾患が少ない原因の一つと考えられてきた。現在の見解では、LDL コレステロールを下げると言うよりも上昇させない穏やかな脂肪酸であると考えられている (日本植物油協会)。 |
22:1n-9 | エルカ酸 |
ナタネの種、カラシの種などから作られる植物油の約半分はこのエルカ酸である。 |
24:1n-9 | ネルボン酸 |
スフィンゴ脂質に比較的多くみられ、その濃度が低下する多発性硬化症などの治療に使われる。 |
PUFA
二重結合を 2 個以上含む脂肪酸を、
構造 | 名称: IUPAC 名, 慣用名 |
特徴 |
18:2n-6 | リノール酸 |
|
18:3n-3 | α-リノレン酸 |
|
18:3n-6 | γ-リノレン酸 γ-linolenic acid (GLA) |
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20:4n-6 | アラキドン酸 |
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20:5n-3 | エイコサペンタエン酸 |
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22:5n-3 | ドコサペンタエン酸 |
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22:6n-3 | ドコサヘキサエン酸 |
|
PUFA には以下のような作用が知られている (3)。PUFA を多く含む水産物が健康食品とされる理由の一つである。なお、魚介類が PUFA を多く含むのは、低体温のためと考えられている。飽和脂肪酸は融点が高く、多くの魚介類が暮らしている水温では細胞膜の流動性が損なわれる。
- 循環器疾患 cardiovascular disease のリスクを低減
- 炎症反応の抑制
- 神経の発生を促進、老化 aging に伴う認知機能の低下を抑制
- 代謝の改善
>
- 酸化した魚油の安全性は 1950 年代から問題とされている。→ PUFA 酸化のページ で詳しく。
> PUFA には n-3 系列と n-6 系列がある。
- n-3 系および n-6 系 PUFA は、生体内で相互変換されない。よって食品中の比が重要となる。
- Early humans では比は 1 : 1 だったが、現在のアメリカ人では 1 : 10 程度 (7)。ω-6 が多い。
- 魚介類摂取量の低下と、リノール酸を豊富に含んだ植物油が出回っているため。
炭素鎖の長さによる分類
長鎖脂肪酸
Long-chain fatty acid, LCFA。
中鎖脂肪酸
Middle-chain fatty acid, MCFA。
短鎖脂肪酸
Short-chain fatty acid, SCFA。
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References
- 岩波 理化学辞典 第 4 版.
このサイトでは、私が持っている 1987 年の第 4 版を引用していることが多い。1998 年に第 5 版が発行されている。 ネット情報の問題点の一つは、信頼できる定義になかなか出会えないことである。Wikipedia には定義らしいことが書いてあり、普段の調べ物には十分なことも多いが、正式な資料を作るときにはその引用は避けたいものである。 そんなときに役に立つのが理化学辞典や生化学辞典。中古でも古い版でもよいので、とにかく 1 冊持っておくと仕事がはかどる。 |
- ページ編集に伴い削除
Albert et al. 2013a (Review). Oxidation of marine omega-3 supplements and human health. BioMed Res Int Article ID 464921.- 油脂および油脂食品の劣化度測定法. Link.
- Berg et al. Biochemistry: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。
Tran et al. 2015a. Feasibility study of biodiesel production using lipids of Hermetia illucens larva fed with organic waste. Waste Manag 47, 84-90.Kris-Etherton et al. 2002a (Review). Fish consumption, fish oil, omega-3 fatty acids, and cardiovascular disease. Circulation 106, 2747-2757.Teixeira et al. 2016a. The effect of a hexanoic acid linker insertion on the pharmacokinetics and tumor targeting properties of the melanoma imaging agent 99mTc-HYNIC-cycMSH. Anticancer Agents Med Chem, in press.Zaleski et al. 2013 Butyric acid in irritable bowel syndrome. Prz Gastroenterol 8, 350–353.Kliseviciute et al. 2016. Influence of dietary inclusion of butyric acid and organic acid sals mixture on rabbits' growth performance and development of digestive tract. Vet Med Zoot 73, 95.
アップデート前、このページには以下のようなコメントを頂いていました。ありがとうございました。
2017/05/16 11:57 すごく勉強になります。いいホームページを作っていただいて有難うございます。 |
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