血液を使った診断: 各種測定項目の意味

UBC/other_topics/blood/blood_diagnosis

このページの最終更新日: 2024/12/15

リンクは別のページに飛びます。

  1. 血液の成分による診断
    • 酵素活性 (逸脱酵素)
  2. 血圧による診断
  3. 血液のメタボロミクス

広告

血液の成分による診断

血液の組成は、さまざまな生理状態を反映する。そのため血液および尿は病気の診断によく使われる。下の表は、生物学的な観点から血液検査で診断できる項目をまとめたもの。

病院などで行う一般的な血液検査の測定項目は以下の通り。異常 → 血液の変化と、測定項目 → 考えられる結果の 2 つのパターンで表にする。

考えられる異常 血液の変化
水分不足
  • 血中ナトリウム濃度が増大

過剰な脂質代謝
(糖尿病 など)

  • pH の低下 (アシドーシス acidosis)
内分泌系の異常
  • 糖尿病: Insulin の量が変化
  • 甲状腺異常: 甲状腺ホルモンの量が変化

タンパク質栄養の低下

  • 血中アルブミン量、レチノール結合タンパク質量が低下する
ネクローシス
  • 筋肉: 血中クレアチンキナーゼ量が増大
  • 膵臓: 膵臓アミラーゼ量が増大
炎症
  • C-reactive protein 量が増大
遺伝病
ストレス

広告

測定項目 わかること
脂質代謝関係
  • 中性脂質 TAG
  • HDL-コレステロール
  • LDL-コレステロール
糖質代謝関係
  • 血糖値、インスリン

酵素活性 (逸脱酵素)

もともと肝臓にある酵素で、肝細胞が破壊されることで血液中に出てくる。このような酵素を 逸脱酵素 deviation enzyme という。血液中の逸脱酵素の活性は、肝炎や薬物などによる肝障害の指標である。

ALP

アルカリホスファターゼ alkaline phosphatase の活性である。

AKP と略されることもある。リン酸化合物を分解する酵素で、肝臓、腎臓、腸粘膜、骨などで合成され、肝臓で処理されて胆汁中に移動する酵素である。肝臓の機能低下によって、胆汁中の ALP が逆流し、血液中で検出されるようになる (4)。

基準値は 50 - 350 IU/mL で、値が高い場合には肝内胆汁鬱滞、閉塞性黄疸、転移性肝臓がん、薬剤性肝障害などが疑われる。

ALP 活性は骨分化の指標でもある。成長期の子供では高くなる傾向がある (4)。

GPT
(ALT)

EC 2.6.1.2. グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ glutamic-pyruvic transaminase の活性。以下のように、ピルビン酸とグルタミン酸から、アラニンと αケトグルタル酸を作る酵素である。


左向きの反応に着目した名前で、アラニンアミノ基転移酵素 alanine transaminase, ALT と呼ばれることもある。

血液中の GPT および GOT の活性は、肝炎などで大きく上昇し、胆汁鬱滞ではそれほど上昇しないため、ALP と同時に測定することで診断しやすくなる (4)。

肝臓の GPT 活性は、炭水化物の不足やアルコール摂取で上昇する (5)。TCA 回路の acetyl-CoA : oxaloacetate = 1 : 1 という比率を保つためと考えてよいのか? とくに、アルコール摂取による GPT および GOT 活性の上昇は、炭水化物を多く含む餌によって完全に抑制されるとあるのが興味深い (5)。

一般に、肝臓での GPT、GOT 活性が高い > 肝臓が活発に活動しているということである。解毒・代謝という肝臓の基本機能を考えると、これはあまり良い状態とは言えない。肝臓の活性も、ストレス状態の指標として使われるようである (6,7)。

GOT
(ART, ALT)

EC 2.6.1.1. グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ glutamic oxaloacetic transaminase の活性。この酵素はアスパラギン酸アミノ基転移酵素 aspartate aminotransferase (ART)、aspartate transaminase (ALT) とも呼ばれる。とくに ALT という略称は、上記の GPT/ALT と同じなので、非常に紛らわしい。

アスパラギン酸と α-ケトグルタル酸を、オキサロ酢酸とグルタミン酸に変換する酵素。

血圧による診断

血圧を測定すると、2 つ数字が出てくる。高い数字は、心臓が収縮して血液を送り出しているときの血圧で、「上の血圧」と言われる。正式には「収縮期血圧」という。「下の血圧」は「拡張期血圧」であり、心臓が拡張した状態での血圧である。

収縮期血圧で 130 mmHg 未満、拡張期血圧で 85 mmHg 未満が正常範囲とされているが、年齢や性別によって正常範囲は異なる。

収縮期血圧が 100 mmHg 未満の場合は、低血圧である。

血液のメタボロミクス

血液中には多様な代謝産物が含まれており、その量は生理状態によって変動する。これらを質量分析や核磁気共鳴 NMR によって網羅的に同定する手法をメタボロミクス metabolomics という。

サイドバーの「検査値で読む人体」では、様々な血液パラメーターの説明や、正常値の意味などが詳しく解説されている。古い本で安価に手に入るので、ぜひ参考にしたい。


> Insulin withdrawal および絶食下で、血液と尿の代謝産物量を NMR で測定 (1)。

  • 大きい分子やアルブミンなどは除き、小分子の mM オーダーのものを測定する。
  • ケトン体は全てメチル基をもつので、NMR のターゲットになる。
  • 重水素を飲んでから測定。尿中にはもともとタンパク質が少い。血液は過塩素酸で除タンパク質している。
  • 水のシグナルが強いこと、アルブミンやイムノグロブリンを除ききれないことが問題だが、前報で対策済。
  • アルブミン中の 脂肪酸 は NMR では見えない。リポタンパク質中の脂肪酸は検出できる。
  • 絶食で血中 グルコース の濃度が低下し、ケトン体が徐々に増える。
  • アミノ酸は Val, Ala のみが血中に mM オーダーで存在するので、NMR で観測できる (参考: NMR によるアラニンの検出)。
  • Insulin withdrawal 後、血中グルコースおよびケトン体が増大、脂肪酸は徐々に低下する。
  • 試料に standard を加えることで、定量も可能。
  • 巨大分子と結合していたり、金属イオンと結合していたりすると、NMR では見えない。
広告

References

  1. Nicholson et al. 1984a.  Proton-nuclear-magnetic-resonance studies of serum, plasma and urine from fasting normal and diabetic subjects. Biochem J 217, 365-375.
  2. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
  3. Amazon link: ハーパー生化学 30版.
  4. 肝炎.net アルカリホスファターゼ. Link: Last access 2020/03/05.

コメント欄

サーバー移転のため、コメント欄は一時閉鎖中です。サイドバーから「管理人への質問」へどうぞ。