脂肪酸の合成: Fatty acid synthesis

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11-3-2017 updated

  1. 概要
  2. 各段階の反応

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概要

脂肪酸合成の原料となるのは、アセチル CoANADPH である。これらは図のような代謝経路から供給される (文献 1 を参考に作図)。ポイントは以下の 2 点。

  • 脂肪酸合成は 細胞質 で起こるが、アセチル CoA は ミトコンドリア にある。
  • アセチル CoA はクエン酸に変換しないとミトコンドリア膜を超えられない。

各段階の反応

1. マロニル CoA の生成

脂肪酸合成の最初の段階は、アセチル CoA カルボキシラーゼ (ACC) によるアセチル CoA への 二酸化炭素 の付加である (1)。


Acetyl-CoA + ATP + HCO3-   →  Malonyl-CoA + ADP + Pi + H+


反応機構の詳細などは ACC のページ を参照のこと。


2. CoA から ACP へ

脂肪酸を分解するメインの代謝経路は、ミトコンドリアマトリックスで起こる β 酸化 である。β 酸化では コエンザイム A がアシル基の運搬体として機能するが、脂肪酸合成では、その役割は アシルキャリアタンパク質 ACP, acyl carrier protein にとってかわられる (1)。

2 段階目の反応は

アセチル-CoA + ACP → アセチル-ACP + CoA

マロニル-CoA + ACP → マロニル-ACP + CoA

であり、それぞれ acetyl transacylase および malonyl transacylase によって触媒される。ただしこれらの酵素は単体として存在しているわけではなく、脂肪酸合成酵素 (FAS; fatty acid synthase) という巨大分子の一部として存在する。以下の反応を触媒する酵素も同様である。


3. アセチル ACP + マロニル ACP

次に、両者を脱炭酸しつつ会合させる反応が起こる。反応 1 で付加した二酸化炭素が結局取り去られるので、一見無駄のように思えるが、これはエネルギー的に必要である (1)。

すなわち、2 分子のアセチル ACP を会合させる反応はエネルギー的に進まず、そのうちの一つが高いエネルギーをもつマロニル ACP になっている必要があるのである。1 の反応では、ATP を使ってアセチル ACP のエネルギー準位を上げているものと解釈することができる。



同様に、アセトアセチル ACP は 2 分子のアセチル CoA よりも高いエネルギーをもっていると言える。このように、エネルギーを詰め込みながら炭化水素を繋げていくのが脂肪酸合成であり、逆にそのために脂肪酸からは多くのエネルギーを取り出すことができるのである。

  • マロニル CoA の付加は、酵素 elongase が脂肪酸の伸長を行う際にも使われる方法である (1)。

4. ケト基の還元

次の反応は、NADPH を用いたケト基の還元である (1)。単に H が付加される。

  • 酸素をもらったら酸化、水素や電子をもらったら還元。
  • NADH は異化反応で、NADPH は同化反応で登場する。

という 生化学の格言 を思い出そう。

反応生成物は D-3-hydroxybutyryl ACP である。


5. 脱水と C=C 二重結合の生成

CH-OH の部分から水分子が外れ、C=C の二重結合が作られる (1)。

反応生成物は trans-Δ2-enoyl ACP である。


6. C=C 二重結合の還元 (水素付加)

C=C の部分に水素が付加される還元反応であり、やはり NADPH が使われる (1)。

反応生成物 butyryl ACP は、アセチル ACP に CH2-CH2 が組み込まれた形をしていることがわかるだろう。

ここに、さらにマロニル CoA を付加することで、炭素数 16 まで の長さの脂肪酸を作ることができる (1)。パルミチン酸 palmitate 16:0 が哺乳類の脂肪酸合成の主な生成物である。

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References

  1. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。