脂肪酸の β 酸化: 各段階の反応、調節機構など

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このページの最終更新日: 2020/02/14

  1. 概要: β 酸化とは
  2. ミトコンドリアにおける β 酸化の各反応
  3. その他 β 酸化関係のトピック
    • β 酸化
    • β 酸化は活性酸素を出すのか?
  4. ペルオキシソームでの β 酸化 (別ページ)

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概要: β 酸化とは

β 酸化 β-oxidation とは、脂肪酸 fatty acid が生体によってカルボキシル基に対して β の位置 (3 位、つまり COOH の C を含めて 3 個目) に酸化を受け、分解する現象をいう (2)。

脂肪酸は、以下のルールに従って 22: 3n-6 のように命名・表記する。図 (ref 3) は DHA の構造であり、COOH 側から 2 個目の脂肪酸が α、3 個目が β である。切断は α と β の間で起こる。


β 酸化の重要なポイントは以下の通り。

  • この反応はミトコンドリア mitochondria およびペルオキシソーム peroxisome で起こる (1,4)。
  • オルガネラによってメカニズムが異なる (重複する部分もあるが)。ペルオキシソームでの β 酸化は 別ページ にまとめている。
  • β 酸化は多量の ATP を生み出すが、反応の初期段階では ATP を消費する。銀行から現金を引き出すときの手数料のようなもの。


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ミトコンドリアにおける β 酸化の各反応

1. アシル CoA の生成

補酵素 A (coenzyme A) は、アシル基 R(C=O)- の転移反応に関わる補酵素である。以下のようにアシル基と ATP 依存的にメルカプト基 -SH で結合し、脂肪酸などのエネルギー準位を上げる (1)。これによって、脂肪酸は以降の反応をしやすくなる。

メルカプト基とカルボン酸の基本的な反応は、以下の式の通りである。


したがって、補酵素 A を HS-CoA を書くと

R(C=O)-OH + HS-CoA → R(C=O)-S-CoA + H+

という反応が起こり、アシル CoA が作られる (1)。

これは ATP を消費する反応である (1)。はじめに脂肪酸と ATP が反応して acyl-AMP + PPi となり、次に AMP と HS-CoA が置換される。

この反応を触媒する酵素は アシル CoA シンセターゼ acyl-CoA synthetase (EC 6.2.1.3) である。シンターゼとシンセターゼの違い のページにあるように、シンセターゼは ATP を消費する合成酵素の一般名である。Long chain fatty acyl-CoA ligase とも呼ばれる。Fatty-acyl-CoA synthase (EC 2.3.1.86) という名前の似た酵素があるので、混同しないように注意。


2. ミトコンドリアへの輸送

上記の反応は、ミトコンドリアの 外膜 outer membrane の外側で起こる (1)。しかし、以降の反応は mitochondria matrix で起こるため、アシル CoA はミトコンドリア内膜を超えて輸送されなければならない。

輸送にあたって、脂肪酸はアシル CoA から カルニチン carnitine に受け渡される (1)。図 (3) のように、カルニチンとの融合は CPT-I (carnitice acyltransferase I or carnitine palmitoyl transferase I), 内膜の通過は CACT による。Matrix では CPT-II によって再び Acyl-CoA とカルニチンに戻される。


3. 脂肪酸の酸化

脂肪酸の酸化では、α および β 炭素の間に二重結合が導入され、COOH 基の炭素と α 炭素がアセチル CoA として遊離する。

この反応は

  1. 切りたい部分にから水素を奪い (酸化)、二重結合を導入する。
  2. その部分を水和する。
  3. 残る側から再び水素を奪い (酸化)、新たな -COOH に相当する二重結合を作る。
  4. 残る側を CoA を結合させつつ、アセチル CoA を切り取る。

という順で行われる。 この 酸化 → 水和 → 酸化 というパターン は、メチレン基 CH2 をカルボキシル基 C=O に置換するときによく使われるステップである。TCA 回路の反応 6, コハク酸 succinate の酸化のステップと似ている。


最初の酸化反応は、アシル CoA デヒドロゲナーゼ acyl-CoA dehydrogenase に触媒される (2)。水素を奪う反応、すなわち酸化反応である。

FAD が還元され、高エネルギー物質である FADH2 が作られる。

生成物は trans-Δ2-enoyl CoA という一般式で書かれる。トランス型、-COOH 基から数えて 2 番目の炭素に二重結合のあるエノイル + CoA ということ。

ちなみに、エノイル enoyl の en は「二重結合」の意味で、エノール enol の en と同じ使い方である。ol がアルコールなので、enol は「二重結合をもったアルコール」である。

oyl は「カルボン酸のアシルラジカル」の意味らしい。まとめると、Δ の 2 番目に二重結合をもったカルボン酸ができあがる。

この反応では、NAD+ を還元するのに十分な自由エネルギーが放出されないため、仕方なく FAD が使われる (2)。TCA 回路の succinate の酸化と同じ理由である。


4. 水の付加

次に、導入した二重結合に水を付加する。酵素は enoryl CoA hydratase である (1)。ハーパー生化学では Δ2-Enoyl-CoA hydratase と書かれている。L 体のみが作られる。


5. NAD+ による脱水素

今度は NAD+ を使って再び脱水素 (酸化) する。酵素は L-3-hydroxyacyl CoA dehydrogenase である (1)。

生成物は 3-ketoacyl CoA である。


6. CoA の付加

最後のステップでは、もう一分子 CoA をもってくる。アセチル CoA が遊離し、炭素が 2 個少ない脂肪酸-CoA ができあがる。

酵素は β-ketothiolase である (1)。


その他 β 酸化関係のトピック

β 酸化と寿命

> β 酸化遺伝子の過剰発現でショウジョウバエの寿命が延びたという論文 (5)。

  • 長寿ミュータントのスクリーニングで、fatty acid binding protein と dodecenoyl-CoA delta-isomerase を過剰発現する株の寿命が長いことがわかった。
  • カロリー制限 での寿命の延びは、β 酸化系遺伝子の過剰発現で抑制される。つまり、両者は同じ経路で働いている。
  • β 酸化系遺伝子の過剰発現は、酸化ストレス耐性および飢餓耐性を上げ、dFOXO 標的遺伝子の発現を増やす。
  • カロリー制限は一般に脂質酸化を増やすが、これは脂質酸化が寿命の延長に causal であることを示した最初の例である。

β 酸化は活性酸素を出すのか?

ペルオキシソームでの β 酸化 は、確実に ROS を発生させる。詳細はリンク先を参照のこと。ここでは、ミトコンドリアの β酸化と ROS の関係をまとめる。

> Proton leak と酸素によって過酸化水素が生じ、これが還元される模式図 (6)。


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References

  1. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
  2. Amazon link: 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。
  3. "DHAnumbering" by Edgar181 - 投稿者自身による作品. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.
  4. 井手 1999a. β 酸化系を構成する酵素群とその制御. 化学と生物 37, 443-450.
  5. Lee et al. 2012a. Overexpression of fatty-acid-β-oxidation-related genes extends the lifespan of Drosophila melanogaster. Oxid Med Cell Longev 854502.
  6. Cortassa et al. 2017a. Mitochondrial respiration and ROS emission during β-oxidation in the heart an experimental-computational study. PLoS Comput Biol 13, e1005588.

Cortassa et al. is an open-access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License, which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original author and source are credited. Also see 学術雑誌の著作権に対する姿勢.