生体膜の概要

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: 生体膜とは
    • 膜貫通タンパク質
    • 膜の流動性
  2. 生体膜の構成成分 (脂質)
    • Phospholipid
    • Glycolipid
    • Cholesterol
    • 古細菌の細胞膜
  3. ラフト
  4. 基底膜とは → 細胞結合と ECM の概要 へ。

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概要: 生体膜とは

生体膜 biological membrane は細胞と外界を隔てる 細胞膜 plasma membrane および細胞とオルガネラを隔てる オルガネラ膜 の総称である。図は文献 2 より。以下は両者に共通する特徴である (1)。


  1. 膜はシート状の構造で、内側と外側を隔てている。厚さは 6 - 10 nm である。
  2. 膜は主に脂質 lipids とタンパク質 proteins から成り、その重量比は 1 : 4 から 4 : 1 である。糖質 carbohydrates は量的に少ないが、脂質およびタンパク質に結合する形で生体膜中に存在する。
  3. 膜を構成する脂質には、疎水性および親水性の部位がある。詳細はページ下方の「生体膜の構成成分」を参照。
  4. ポンプ、チャネル、受容体などのタンパク質が生体膜の機能を担っている。脂質膜に埋め込まれていることが、これらのタンパク質の機能発現に重要である。
  5. 膜でみられる結合は、非共有結合 noncovalent bond である。
  6. 膜は非対称である。
  7. 膜は 2 次元の液体である。脂質やタンパク質は、特定の相互作用で固定されていない限り、膜の中を拡散する。
  8. ほとんどの細胞膜は分極している。多くの場合、細胞内が負電荷で電位差は -60 mV 程度である。

膜貫通タンパク質

生体膜に埋め込まれ、膜を超えた物質の輸送を行うタンパク質を総称してトランスポーター transporter という。これは transport protein と同義である。詳細はリンク先を参照のこと。

多くの場合、タンパク質の膜貫通ドメインは疎水性アミノ酸を多く含む α helix でできているが、porin など β sheet である場合もある (1)。膜の厚さ 6-10 nm のうち疎水性の高い部分は 3 nm 程度で、これは 約 20 アミノ酸残基の長さ に相当する。つまり、典型的な膜貫通ドメインは約 20 AA から成る。


膜の流動性

細胞膜は rigid および fluid state をとり、温度 Tm で相が変わる。高温で fluid、低温で solid。不飽和脂肪酸は二重結合のため折れ曲がった形をしており、脂質同士の相互作用を弱め、fluid state をとりやすくする (1)。つまり Tm を下げる。哺乳類よりも低温で暮らしている魚類などが、高度不飽和脂肪酸 DHA などを多く含むのは、低温下でも膜の流動性を保つためである。

また、コレステロール 含量が高いほど膜の流動性が上がる (1)。コレステロールが物理的にリン脂質と異なる形状をもつため。さらに、コレステロールは特定のリン脂質と結合する性質があり、lipid raft と呼ばれる組成が異なる領域を膜内に作り出す。


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生体膜の構成成分

生体膜の基本構造は 脂質二重膜 lipid bilayer である (3)。主成分は脂質であり、一般に生体膜は 40 - 80% の脂質を含んでいる。生体膜の脂質は主に以下の 3 種類である。

  1. リン脂質
  2. 糖脂質
  3. コレステロール

Phospholipid

リン脂質 phospholipid は、全ての生体膜の中心的な構成要素である。量的にも、糖脂質およびグリセロールよりも多い (3)。


リン脂質は、脂肪酸 + backbone + リン酸 + アルコールから成る。以下の表はリン脂質の一覧である。


名称 Backbone アルコール 特徴
Phosphatidate Glycerol なし

グリセロールの C1, C2 位に脂肪酸がエステル結合し、C3 位にリン酸がエステル結合したもっとも単純な形のリン脂質。

これ自身の生体膜における含量は低いが、他のリン脂質合成の重要な出発点である。

ホスファチジルセリン
Phosphatidylserine
Glycerol Ser

脂質二重膜の内側 inner leaflet に含まれる (3)。アポトーシスの過程で、酵素作用によって outer leaflet に移動し、これがファゴソームに認識されるシグナルとなる。

ホスファチジルコリン
Phosphatidylcholine

Glycerol Choline

脂質二重膜の外側 outer leaflet に含まれる (3)。

ホスファチジルエタノールアミン
Phosphatidyl-ethanolamine

Glycerol Ethanol-amine

脂質二重膜の内側 inner leaflet に含まれる (3)。

ホスファチジルイノシトール
Phosphatidyl-ethanolamine

Glycerol Inositol

脂質二重膜の内側 inner leaflet に含まれる (3)。

Diphosphatydyl-Glycerol (cardiolipin) Glycerol Glycerol
スフィンゴミエリン
Sphingomyelin
Sphingosine Phosphoryl-choline

スフィンゴシンには、グリセロールと異なり 1 分子の脂肪酸しか結合できない。アミド結合。

脂質二重膜の外側 outer leaflet に含まれる (3)。


糖脂質 Glycolipid

糖を含む脂質であり、動物が含む糖脂質は スフィンゴシンの誘導体 である。細胞膜中の濃度はリン脂質およびコレステロールよりも低い (3)。構造物というよりも、細胞接着 cell adhesion などのためにシグナル分子としての存在意義が大きい。

脂質と糖は直接結合しているわけではなく、スフィンゴシンを介して結合している。Cerebroside, ganglioside など。糖鎖は常に細胞外の方向を向いている。


コレステロール Cholesterol

コレステロール は、分子内の OH 基に極性があり、かつ炭化水素鎖部分の極性は低いという 両親媒性 の分子である。このために生体膜の構成要素として使われる。

生体膜では、コレステロールは右の図 (4) の薄黄色の部分で示されるように、リン脂質と平行に、なかば埋もれるようにして膜の中に含まれている。コレステロールの大きさは約 1.5 nm ほどであり、これがややリン脂質よりも小さいためにこのような配置になる。もちろん、コレステロールの極性もこの配置に重要である。


古細菌の細胞膜

真核生物と原核生物の細胞膜はよく似ているが、古細菌 Archaea の膜は以下の点で大きく異なっている (1)。

  • グリセロール と炭化水素鎖が ether 結合している。真核および原核生物のエステル結合に比べて加水分解されにくい。
  • 脂肪酸の疎水性部分は飽和しており、多くの分岐がある。酸化されにくい。
  • グリセロールの立体配置が異なっている。

ラフト: Lipid raft

細胞膜には、Lipid raft と呼ばれるコレステロールに富んだ領域がある (3)。不飽和の脂肪酸が多く、そのために細胞膜は「硬い」構造をとっている。ラフトには glycosphingolipid-enriched membranes (GEM) および polyphosphoinositol-rich rafts があり、カベオラ caveolae は以下に述べるようにラフトと区別して考える。


図 (ref 6)

  1. ラフト以外の膜部分
  2. ラフト
  3. ラフトに局在する膜貫通タンパク質
  4. ラフト以外の部分にある膜貫通タンパク質
  5. 膜貫通タンパク質が糖鎖修飾されている
  6. GPI-anchored protein
  7. コレステロール
  8. 糖脂質

ラフトおよびカベオラには、以下のような共通する特徴および相違点がある。なお、カベオラの英語での発音は「ケイヴィオリー」のような感じで、日本語とはかなり違うので注意。

  • ラフト、カベオラはともに コレステロール、糖脂質、スフィンゴミエリンを多く含む (5)。
  • 両者ともは低濃度の Triton X-100 に不溶性で、ショ糖密度勾配遠心を行なうと低密度の画分に回収される (5)。
  • シグナル伝達および脂質輸送 に関わる細胞膜上の重要な領域である (5)。

カベオラ

カベオラ caveolae にはカベオリン caveolin というタンパク質が存在しており、細胞膜上の窪んだ領域として形態から判別することができる (3)。ただし、これはラフトと区別して独自の構造と考えるのが現在では一般的なようである。

すなわち、カベオリンはごく浅い窪みや平坦な部分にも認められ、深さによらずカベオリンが存在する部分をカベオラと呼ぶ (5)。カベオラは安定な構造であるのに対し、ラフトは生成と崩壊を繰り返すダイナミックな構造である。カベオリンによって安定化したラフトをカベオラと呼ぶ と考えることも可能である (5)。


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References

  1. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
  2. By derivative work: Dhatfield (talk)Cell_membrane_detailed_diagram_3.svg: *derivative work: Dhatfield (talk)Cell_membrane_detailed_diagram.svg: LadyofHats Mariana Ruiz - Cell_membrane_detailed_diagram_3.svg, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4228810
  3. Amazon link: 水島 (訳) 2015a. イラストレイテッド細胞分子生物学 (リッピンコットシリーズ).
  4. By real name: Artur Jan Fijałkowskipl.wiki: WarXcommons: WarXmail: [1]jabber: WarX@jabber.orgirc: [2]consultations: Masur - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link. 改変して一部を使用。
  5. 向後、藤本. 2001a. カベオリンと脂質. 蛋白質 核酸 酵素 46, 789-797.
  6. By real name: Artur Jan Fijałkowskipl.wiki: WarXcommons: WarXmail: [1]jabber: WarX@jabber.orgirc: [2]consultations: Masur - Own work, Public Domain, Link

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