尿素:
哺乳類における窒素代謝の最終産物、タンパク質変性剤

UBC/reagents/u/urea

このページの最終更新日: 2024/02/15

  1. 概要: 尿素とは
  2. 代謝産物としての尿素
  3. 試薬としての尿素

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概要: 尿素とは

尿素 urea は図 (Public domain) のような構造をもつ化学物質である。ヒトの尿に含まれる。窒素代謝において重要な分子であるとともに、タンパク質を変性させる作用があるため、化学実験にも使われる。

尿素の構造

> 尿素の基本的な物理化学的性状は以下のとおり (1)。

  • 無色の柱状晶で、融点 135°C。アルコールと水にはよく溶けるが、エーテルにはほとんど溶けない。
  • 弱塩基性で、酸と反応して付加化合物の塩を作る。
  • 静かに熱すればビウレットと アンモニア に、急熱すればシアヌル酸とアンモニアに分解される。

尿素は、無機化合物のみから合成された初めての有機化合物である。合成は 1828 年で、この時代は生物のみが有機化合物を作れると考えられていた。

代謝産物としての尿素

尿素の生化学的に重要なポイントは以下の通り。

  • アミノ酸のアミノ基 (-NH2) は、代謝されると有害な アンモニア NH3 を生じる。哺乳類では、アンモニアは 二酸化炭素 を用いて毒性の低い尿素に変換され、尿として排出される。
  • この代謝経路は尿素回路 urea cycle といい、肝臓の ミトコンドリア および細胞質に存在する。

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試薬としての尿素

タンパク質変性作用

尿素は核酸 nucleic acid やタンパク質 protein を変性させる作用があり、以下のような実験によく使われる。

  • 変性ポリアクリルアミドゲルでの RNA の電気泳動 (3)
  • Inclusion body からのタンパク質の回収には、0.5 - 5 M urea が用いられる。
  • DNA 抽出 に使われる TNES 緩衝液 には、8 M などの高濃度で尿素が使われることがある。

タンパク凝固防止作用

一般に、変性したタンパク質は、疎水性アミノ酸同士が相互作用し 凝集 aggregation する。尿素には、タンパク質変性作用の他、凝集防止作用もある。

両者は一見矛盾ので、詳細を調べてみた。どうも、β-シート構造は分子間でも形成され、これが安定な凝集体を作るようだ (2)。下の文章は特定のタンパク質に関する知見であるが、尿素とタンパク質の結合は β-シートの結合よりも強いため、凝集を阻害する効果があると書かれている (4)。

Urea has been known to be a strong denaturant for proteins and widely used in protein unfolding or refolding in vitro experiments. Because of the stronger dispersion interaction between urea and protein over urea and water, urea has a stronger denaturing power. Globular native proteins generally fully or partially unfold in the presence of urea and adopt more extended structure. A similar behavior is observed for small unstructured polypeptides. On the other hand, to form β-sheets, protein–protein interaction must be larger than hydrogen bond interaction formed between urea and protein, which slows down the aggregation process in urea. The two different behaviors of urea indicate that it can affect the aggregation in a nonmonotonic way.


尿素による鶏卵の凝固防止実験 に、尿素でゆで卵が固まらないようにした実験の結果を載せました。


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References

  1. Amazon link: 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。
  2. 分子シャペロンと蛋白質の変性・凝集・再溶解. Link: Last access 2022/03/02.
  3. Green and Sambrook, 2012a. Molecular cloning: A laboratory manual, 4th edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press.

分子生物学関係のプロトコール集では、この本よりも有名なものはないだろう。

日本語版がない、電子書籍版もない、値段が高い、重いなど問題点は多々あるが、それでも実験室に必ずあるべき書。ラボプロトコールをまとめたりする時間を大いに節約することができる。

このサイトにあるプロトコールも、多くはこの本の記述を参考にしたものである。

  1. Jahan and Nayeem, 2018. Effect of urea, arginine, and ethanol concentration on aggregation of 179CVNITV184 fragment of sheep prion protein. ACS Omega, 30, 11727-11741.

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