ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体: 構造と機能
UBC/protein_gene/p/pdh
このページの最終更新日: 2024/12/15- 概要: ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体とは
- PDH の構造
- PDH の活性制御
- PDH kinase によるリン酸化制御
- PDH phosphatase による脱リン酸化制御
- 代謝産物によるアロステリック制御
- 脚気、水銀、亜ヒ酸の影響
- PDH flux の測定
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概要: ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体とは
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体 (PDH; pyruvate dehydrogenase complex) は、解糖 glycolysis の最終産物であるピルビン酸 pyruvate から、アセチル CoA を合成する酵素の複合体である。ミトコンドリア マトリックス内に局在する (3I)。
触媒する反応は以下の通り。このサイトでは、TCA 回路 の 0 段階目の反応としても説明している。
PDH およびその周辺の反応で、生化学的に重要な点は以下の通り。
- この反応は好気的条件下で起こり、嫌気的条件下ではピルビン酸は LDH によって乳酸 lactate になる。
- アセチル CoA はその後 TCA 回路で酸化されるほか、脂肪酸合成などにも使われる。
- ピルビン酸は、ピルビン酸カルボキシラーゼ PC によってオキサロ酢酸としても TCA 回路に入る。これを補充反応という。
> 通常の酸素濃度では、ATP の 95% 以上が好気呼吸で産生される (4D)。
- グルコースの大部分が水と二酸化炭素になり、乳酸になるのは 4% 程度。
PDH の構造
ピルビン酸からアセチル CoA への反応は、3 つの酵素と 5 つの補酵素 coenzyme が必要な複雑な反応である (5)。PDH とは、この 3 つの酵素の複合体である。5 つの補酵素とは thiamine pyrophosphate, lipoic acid, FAD, CoA, NAD+ である。
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PDH の活性制御
ピルビン酸からの acetyl-CoA 合成反応は
- 脂肪酸合成の経路は acetyl CoA から分岐する。グリコーゲンは解糖系の中間代謝産物 G6P から作られる。
- いったんこの反応が起こったら、グルコースは TCA 回路で酸化されるか、脂質になるかという運命しかない。
- 細胞が低酸素状態にない、と言い切るのと同じである。
この重要な判断を下すために、PDH の活性は多くの経路によって厳密に制御されている。
PDH kinase によるリン酸化制御
ミトコンドリア中のアセチル CoA/CoA 比、NADH/NAD+ 比が上がると、PDHキナーゼ (PDK) が活性化される (1I, 3I) 。PDK は PDH complex をリン酸化して不活性化する (1I) 。
- End product であるアセチル CoA によって PDH が不活性化される negative feedback である。
- アセチル CoA が増えることで TCA 回路が回ると、のちに酸化的リン酸化に使われる NADH が生み出される。PDH は NADH によっても不活性化されるため、ここにも negative feedback が効いていると考えてよい。
PDH phosphatase による脱リン酸化制御
インスリンは PDH phosphatase を活性化する。PDP は PDH を脱リン酸化し活性化する (3I)。
Ca2+ は PDP を活性化し、PDH を活性化させる (5) 。肝臓ではエピネフリンシグナルが Ca2+ シグナルを活性化させる。
代謝産物によるアロステリック制御
Acetyl CoA 自身が PDH (E2 component) を阻害する (5)。細胞で脂肪酸の分解が起こっているというシグナルである。
NADH が PDH (E3 component) を阻害する (5)。TCA 回路がよく回っており、エネルギーが十分というシグナル。
ADP とピルビン酸は、PDH kinase を不活性化することで PDH を活性化する (5)。これはエネルギー不足のシグナル。
脚気、水銀、亜ヒ酸の影響
補酵素 thiamine diphosphate は thiamine (ビタミン B1) から合成される。ビタミン B1 不足による脚気 beriberi では、PDH の活性が低下している (5)。同様に、水銀 mercury や亜ヒ酸 arsenite も PDH を阻害する。
これらの毒物の作用は、グルコースを主要なエネルギー源とする神経系にまず現れる。水俣病のネコなど。他の組織では、グルコース以外の物質、とくに脂質をエネルギー産生に利用できるため、神経系よりも悪影響が遅く出る (5)。
PDH flux の測定
MRS により、ピルビン酸が代謝される様子を in vivo で測定することが可能である。13C で標識したピルビン酸をラットに注射し、心臓における代謝を調べた論文がある (3R)。
13C を含む代謝産物は、下図Aのように異なる周波数のピークとして観察される。そのタイムコースをとると可視化、定量するとそれぞれ B, C のようになる。最初の大きなピルビン酸のピークが注射を示し、他の物質に代謝されていく様子をみることができる。
最終的にはTCA回路で二酸化炭素になり、炭化水素イオン bicarbonate として検出されるようになる。この論文では、絶食 fasting または streptzotocin 誘導した糖尿病のラットでは、ピルビン酸由来の HCO3- が減少することなどが明らかにされている。
つまり、飢餓または糖尿病の状態では、心臓はピルビン酸でなく他の栄養素 (脂肪酸、ケトン体) を主要なエネルギー源にしていることが示唆される。糖尿病モデルでは、血糖値 blood glucose level が高いほど、ピルビン酸の代謝が低いという負の相関が示されている。
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References
Jucker et al. 1997a. 13C and 31P NME studies on the effect of increased plasma free fatty acids on intramusclular glucose metabolism in the awake rat. J Biol Chem 272, 10464-10473.Jiang et al. 2009a. Recurrent antecedent hypoglycemia alters neuronal oxidative metabolism in vivo. Diabetes 58, 1266-1274.Schroeder et al. 2008a. In vivo assessment of pyruvate dehydrogenase flux in the heart using hyperpolarized carbon-13 magnetic resonance. PNAS 105, 12051-12056.Lardon et al. 2005a. 1H-NMR study of the metabolome of an exceptionally anoxia tolerant vertebrate, the crucian carp (Carassius carassius). Metabolomics 9, 311-323.- Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
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