脂肪酸合成の律速酵素
アセチル CoA カルボキシラーゼ (ACC): 構造と機能

UBC/protein_gene/a/acc

このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: ACC とは
  2. ACC の活性制御機構

広告

概要: ACC とは

アセチル CoA カルボキシラーゼ (ACC) は、アセチル CoA からマロニル CoA を作る酵素で、脂肪酸合成の律速酵素 であるとともに、β 酸化 にも関わっている。

触媒する反応は、「カルボキシラーゼ」 の名前の通りアセチル CoA に CO2 を付加する反応であり、以下のようなステップで行われる (4,5)。

  1. 青字の ACAC が酵素で、ビオチン biotin 化されている。
  2. ATP のリン酸基が炭酸水素イオン bicarbonate に移り、これがビオチン部分と結合する。反応性の高い CO2- が生じる。
  3. これがアセチル CoA を攻撃し、CO2- が転移することでマロニル CoA になる。

この反応は、ATP および bicarbonate 依存的である。



> マロニル CoA は CPT を阻害し、β 酸化を抑制する。

  • つまり、脂肪酸合成が起こっているときには、酸化は起こらないようになっている。
  • 合成は細胞質、酸化はミトコンドリアだが、同じ細胞内で逆の反応が起こらないという基本を守っている。

> マロニル CoA による β 酸化の阻害は、筋肉でも起こる (6)。

  • 筋肉では、脂肪酸合成はほとんど起こらないと考えられている。
  • 筋肉で発現している ACC は、β 酸化の制御因子としての機能を果たしていると考えられる。

広告

ACC の活性制御機構

アロステリック制御

> クエン酸 citrate のような tricarbocxylic acid で活性化される (5)。
  • 実験的に活性を測定する場合には、通常 citrate を反応液に加える。
  • Citrate が多いということは、TCA 回路が活発である、つまりエネルギーが余っている状態である。

> 長鎖アシル CoA チオエステルで阻害される (6)。
  • Palmitoyl CoA は ACC を阻害するとともに、ミトコンドリアからの citrate 輸送を阻害する。
  • Citrate は細胞質でアセチル CoA に変換され、ACC の基質となる。
  • Palmitoyl CoA はさらに NADPH 合成を阻害する。ペントースリン酸回路の G6PDH を阻害する。
  • まとめると、酵素を不活性化し、さらに原料を絶つという強力な阻害である。

ホルモンによる制御

> AMPK にリン酸化されると不活性化する(6)。脱リン酸化で活性型になる。
  • AMPK は、エネルギー不足のときに AMP で活性化される。
  • よってエネルギーが足りないときに ACC は不活化され、脂肪は作られない。

成長ホルモンは、ブタの脂肪組織で ACC の活性、mRNA量、タンパク質量を低下させる (3)。

エピネフリン、グルカゴンは ACC を不活性化する (6)。これらは脂質を動員、利用を促進するホルモンなので、合成を阻害するのは当然である。

> インスリン は ACC を脱リン酸化して活性化する(6)。

ACC ノックアウトマウス

肝臓、脂肪組織で発現する細胞質型の ACC1 と、心臓、筋肉のミトコンに局在する ACC2 がある (1)。マロニル CoA には ACC1 が作る細胞質プールと、ACC2 が作るミトコンプールがある (2)。


ACC1 KO mice

> ACC1-/- miceはembryonic lethalである(2)。

> ACC1+/- miceは、ACC1のmRNA量は半分だがリン酸化ACC量は変わらず、補償が働いている(2)。

: 肝細胞へのアセチルCoAの取り込み量、マロニルCoA量、体重がwtと変わらなかった。


ACC2 KO mice

> 絶食によって、肝臓、筋肉、心臓のmalonyl-CoA量が低下する(1)。

> ACC2 KOは、肝臓でのマロニルCoA量は変わらないが、心臓と筋肉では低下(1)。

> マロニルCoAはミトコンへの脂肪酸輸送を阻害するので、KOではβ酸化が盛んだろう(1)。

> ACC2 KO miceの肝臓は脂質含量が低い。ただしACC2は肝臓にはなく二次的効果(1)。

> ACC2 KOは、wtよりも摂食量が多いが体重は軽い。脂肪組織量が少ない(1)。

 


広告

References

  1. Abu-Elheiga 2001a. Science, 291, 2613-2616.
  2. Abu-Elheiga 2005a.Mutant mice lacking acetyl-CoA carboxylase 1 are embryonically lethal. PNAS, 102, 12011-12016.
  3. Chaves et al. 2013a (Review). The metabolic effects of growth hormone in adipose tissue. Endocrine 44, 293-302.
  4. "ACAC mechanism" by Original uploader was BorisTM at en.wikipedia - Transferred from en.wikipedia; transfer was stated to be made by User:xvazquez.. Licensed under Public Domain via Wikimedia Commons.
  5. Volpe and Vagelos 1976a (Review). Mechanism and regulation of biosynthesis of saturated fatty acids. Physiol. Rev. 46, 339-417.
  6. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。

コメント欄

サーバー移転のため、コメント欄は一時閉鎖中です。サイドバーから「管理人への質問」へどうぞ。