転写を調節する領域・プロモーター: 定義、解析手法など
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概要: プロモーターとは
各遺伝子または遺伝子群 (オペロン operon) の一端にあり、転写 transcription を開始するために RNA ポリメラーゼが特異的に結合する DNA 上の領域を
図 (ref 4) は 原核生物 のラクトースオペロンの模式図である。プロモーターは 3 番にあたり、そこには黄色で示した基本転写因子 (1 番) が結合している。
転写に必要な
プロモーターの位置は、mRNA として転写される最初の塩基に +1 という番号をつけ、そこから 5' 上流 (参考: 核酸 nucleic acid) 方向に 10 塩基だったら -10 といった形で、負の数字で表す。
T7 プロモーター
タンパク質発現系 で汎用されるプロモーターに、T7 プロモーターがある。バクテリオファージに由来するプロモーターで、発現量が非常に高いことが特徴。これは大腸菌を利用したタンパク質発現に基本的には有利であるが、発現タンパク質が多すぎて大腸菌にストレスを与えることがあり、目的によっては避けられることがある (7)。また、IPTG 誘導前にも少量のタンパク質が発現してしまう「リーク」が問題になることもある。文献 7 では、T7 プロモーターの変異をスクリーニングし、発現量を抑えられるプロモーターを報告。それらを組み合わせて代謝経路のバランスをとることによって、代謝産物の合成量が上がったことを示している。
大腸菌 で、定常期に活性化するプロモーターを random mutagenesis で作った 論文。T7 promoter と同等以上の活性があり、inducer が不要というメリットがある。
こちら は、HSP を使った誘導系に関する論文。IPTG 誘導にかわる方法の探索が活発になってきている雰囲気。
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プロモーター解析
「プロモーター解析」と言った場合、「プロモーターが存在する 5' 上流域の解析」を意味し、実際には転写量を調節したりするエンハンサー enhancer の結合サイトが存在するかどうかを調べるのが主流である。
プロモーター領域の配列を入れると、転写因子の結合を予測してくれるサイトは多数ある。
ただし、配列からの予測はまだ難しいようである。"Due to the complexity of the biological systems, the prediction of the potential DNA binding sites for transcription factors remains a difficult problem in computational biology." という記述が 2021 年の論文にもある (6)。
PROMO |
検索で一番上に出てきたが、使い勝手はいまいち。 |
DeepGRN |
Ref. 6, 2021 年。対象とする種が Abstract などに書かれていないのは良くない。たぶん human 限定。 |
TFBIND |
TRANSFAC R.3.4 というデータベースの情報を使用。 |
Tfsitescan |
種を指定できる。 |
JASPAR CORE |
ドラフトゲノム配列からプロモーターを抽出する方法: 掲示板 (英語) と GitHub のページ。
プロモーター以外の転写調節
転写 transcription は、細胞の状態によってさまざまなレベルで調節されている (1)。
ヒストンの修飾 |
DNA 結合タンパク質 ヒストン は、正に荷電した tail 領域をもっており、これによって負の電荷をもつ DNA と結合している。アセチル化によって正電荷が弱まると、DNA との結合も弱くなる。そのような領域では、一般に転写が活性化される (5)。 |
CpG アイランド |
DNA のメチル化 による転写調節である。グアニン G の隣にあるシトシン C のメチル化が一般的で、プロモーター領域で多くみられる。このような領域を CpG island という。物理的障害および DNA 脱アセチル化酵素のリクルートにより、一般に転写を抑制する。 |
Ehnancer |
転写量を正に調節する DNA 領域であるが、遺伝子の近くにある promoter とは違い、離れた場所に存在する。DNA が高次構造をとることによって、空間的にプロモーターの近くに来る。 |
Insulator |
Enhancer の転写増大機能をキャンセルするような DNA 領域。 |
Repressor |
DNA 上の silencer に結合し、転写量を負に調節する。 |
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References
- Amazon link: 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。
Danino et al. 2015a (Review). The core promoter: At the heart of gene expression. Biochim Biophys Acta - Gene Regulatory Mechanisms 1849, 1116–1131.- Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
- By T A RAJU - Own work, CC BY-SA 3.0, Link
- Amazon link: Pierce 2016. Genetics: A Conceptual Approach: 使っているのは 5 版ですが、6 版を紹介しています。
Chen et al., 2021a. DeepGRN: prediction of transcription factor binding site across cell-types using attention-based deep neural networks. BMC Bioinformatics 22, 38.Jones et al., 2015a. ePathOptimize: A Combinatorial Approach for Transcriptional Balancing of Metabolic Pathways. Sci Rep 5, 11301.
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