低酸素 hypoxia: 応答、代謝、遺伝子発現の変化など

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このページの最終更新日: 2021/07/08

  1. 概要: ハイポキシアとは
  2. ヒトが経験する典型的なハイポキシア
    • 高山病
    • がん
    • 虚血 ischemia
  3. ハイポキシアへの応答
  4. 無酸素状態 anoxia

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概要: ハイポキシアとは

なんらかの原因で酸素が不足した状態を hypoxia という。日本語の定義は良い文献が手元にないが、英語では次のように定義されている (2)。

Hypoxia: A deficiency of oxygen in body tissues, which can result from living in an oxygen-deficient environment, inadequate inspiration, or deficiency of red blood cells or haemoglobin.


一般には、低酸素下では ATP の主要な供給源である 酸化的リン酸化 が機能しなくなるため、細胞は酸素を使わない 解糖系 に依存するようになる。しかし、解糖系の ATP 産生効率は酸化的リン酸化よりも低いので、細胞は ATP 不足に陥り、最終的には死に至る。

どの程度の酸素を必要とするか、低酸素状態でどの程度の時間生存できるかは、状況や生物種によって大きく異なる。しかし、酸素を利用する生物は、基本的にハイポキシアに対処するメカニズムをもっている (ハイポキシアへの応答 を参照のこと)。

ヒトが経験する典型的なハイポキシア

ここでは、ヒトが経験する可能性の高いハイポキシアの具体例について述べる。


高山病 altitude sickness

高度障害とも呼ばれる。一般には、2400 m 以上の高地で発生するハイポキシアによる症状である。頭痛、吐き気、嘔吐、眠気、手足のむくみ、運動失調、消化器官の機能低下など。

一般には数日以内に体が適応することで収まるが、重症の場合は高地脳浮腫や高値肺水腫などを起こし、死亡することもある。


がん

がん細胞は、急激な増殖のために hypoxia の状態にあることが多い。そのため、血管新生を促進して酸素を得ようとする。


虚血 ischemia

心臓の停止や血管の狭窄などによって、動脈による血液の供給が減少すること。


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ハイポキシアへの応答

生体に重要な hypoxia およびその応答には、以下のようなものがある。

  • 短期的には、酸素を使う酸化的リン酸化から、酸素を必要としない解糖系に代謝がシフトする。
  • 発生過程で起こる hypoxia は、細胞分裂を促進して発生に寄与することがある (5)。
  • 神経系では、電位依存性カルシウムチャネル VDCC を活性化する (1)。

また、hypoxia からの回復を reoxygenation という。この過程において、電子伝達系からの電子のリークが増大し、活性酸素 ROS が発生することも知られている (3)。

Hypoxia は多くの遺伝子の発現を変化させる。広い視点からみると、以下のような生理学的変化をもたらすと考えられる。Hypoxia で発現が変化する遺伝子の多くは、転写因子 HIF-1 による調節を受けている。

  • 酸素の効率的な輸送
  • 成長、発生の遅延
  • 好気代謝から嫌気代謝へのシフト
  • エネルギーを必要とするプロセスの抑制

無酸素状態 anoxia

組織への酸素供給が低下している hypoxia に対して、酸素供給がない状態を anoxia という (例えば このページ)。

しかし、私は anoxia という表現は曖昧であまり好きではない。分子レベルで考えると complete lack of oxygen などという状態はありえないので、「酸素濃度が一定量以下の場合に anoxia」のように定義すべきだと思う。

または、医学限定で「心停止などで臓器への血液の供給が途絶えた場合」を anoxia とするのも論理的だと思うが、この場合は個体レベルでの hypoxia、anoxia に概念を拡張できないので、あまり良い解決方法ではない。

ただし、そもそも hypoxia の定義からして曖昧なので、anoxia だけ文句をつけるのも大人気ないかもしれない。酸素要求量は臓器・状態・生物によって違い、hypoxia は酸素濃度で一概には定義できない。



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References

  1. Youngson et al. 2002a. Oxygen sensing in airway chemoreceptors. Nature 365, 153-155.
  2. Amazon link: Hine (2015). Oxford Dictionary of Biology.
  3. Dashty 2013a. A quick look at biochemistry: carbohydrate metabolism. Clin Biochem 46, 1339-1352.
  4. Amazon link: 小城 2002a (Book). 生命にとって酸素とは何か―生命を支える中心物質の働きを探る (ブルーバックス).
  5. Patel & Simon 2008a (Review). Biology of hypoxia-inducible factor-2α in development and disease. Cell Death Differ 15, 628-634.

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