HIF-1: 低酸素応答を制御する転写因子

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: HIF-1 とは
    • 連続的な合成と分解のメカニズム
  2. 構造
    • bHLH/PAS domains
    • Trans-activation domain
  3. 標的遺伝子
    • 嫌気代謝へのシフト
    • ROS 発生の抑制
    • 細胞内 pH の制御
    • 発生など (個体・組織レベル)
    • 幹細胞
    • 炎症
    • 免疫応答

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概要: HIF-1 とは

HIF-1 (hypoxia-inducible factor 1) α は低酸素 hypoxia への適応に必要な遺伝子の転写を促進する転写因子 transcription factor で、1 分子の α サブユニット (HIF-1α) と 1 分子の β サブユニット (HIF-1β) から成るヘテロダイマーである。

α サブユニットは、以下のように水酸化修飾を受けて常に分解されており、HIF-1 全体の活性を制御するような機能をもっているため、注目されることが多い。β サブユニットは恒常的に存在するようである。

HIF-1 は、肝がん細胞株 Hep3B において 1992 年に発見され、1995 年に α と β のヘテロダイマーであることが報告された (4)。のちに、HIF-2α および HIF-3α も同定されている。HIF-3 は転写調節領域を欠いており、HIF-1 および HIF-2 を競合阻害していると考えられている (4)。


合成・分解のメカニズム

HIF-1 は、以下のようなメカニズムで 合成 ~ 分解を繰り返している。短い時間ですぐに低酸素に対応するために、このようなコストをかけていると考えられている (1I)。

  • 好気的条件下では、常に α サブユニット中の LXXLAP motif のプロリンが EG-9 によって水酸化修飾を受ける (1I)。
  • この水酸化は、VHL-1 (von Hippel-Lindau tumor suppressor protein-1) との親和性を上げる。
  • VHL-1 は E3 ubiquitin-ligase complex の一部で、プロテオソーム依存的な HIF-1 の分解を促進する。

> 低酸素状態では水酸化されにくくなり、分解を免れて転写活性を発揮する (1I)。
  • 核に移行してから β サブユニットと 2 量体を形成し、DNA に結合する (5)。
  • Cis-element は hypoxia response element (HRE) である (5)。


実際に、VHL-1 の変異体では、HIF-1 が常に高いレベルで存在する (1I)。この経路は C. elegans でも保存されている (1R)。

水酸化のほかに、リン酸化およびアセチル化による修飾も受ける (1I)。


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構造

bHLH and PAS domains

3 種のHIF-α および HIF-β は、いずれも N 末端側に basic-helix-loop-helix (bHLH)および Per-ARNT-Sim (PAS)ドメインをもっている (1I, 4)。 これらは DNA との結合に関わる領域で、HIF は bHLH/PAS ファミリーに属する転写因子に分類される。

β サブユニットは ARNT (aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator) とも呼ばれる (1I)。


Trans-activation domain

HIF-1α および 2α の C 末端側には、転写活性化に関わる trans-activation domain (TAD) がある。 TAD は一般に 2 つあり、N-TAD および C-TAD に分類されている (4)。

> C-TAD は、ヒストンアセチル基転移酵素 CBP/p300 をリクルートし、遺伝子発現を転写レベルで誘導する (4)。

  • しかし、通常酸素下ではこのプロセスも抑制されている。
  • CREB-binding protein は C 末端付近の Asn を介して HIF-1 と結合する。
  • しかし、この Asn 残基は酸素依存的に FIH-1 (factor inhibiting HIF-1) によって水酸化される。

一方、HIF-3α は C-TAD を、HIF-3α のスプライシングバリアントである IPAS は C 末端側を欠いており、HIF-1α および HIF-2α を競合阻害する機能を担っている (4)。

標的遺伝子

HIF は、800 個以上の遺伝子発現を調節する重要な転写因子である (4)。標的配列として hypoxia response element (HRE) が知られている。標的配列は 5-RCGTG という配列を含んでいる (1D)。

  • Transferrin (3)
  • VDCC (voltage-dependent calcium receptor) (4)

低酸素環境に適応するため、ミトコンドリアの酸化的リン酸化を抑制し、嫌気的解糖を促進する (4)。

> 解糖系 glycolysis の活性化機構 (4)。
  • GLUT1 および GLUT3 を発現誘導し、グルコースの細胞内取り込みを増大させる (6)。
  • ピルビン酸を乳酸に変換する LDH の発現を増大させる (7I)。
  • 解糖系の律速酵素である PFK1, HK2 を誘導する (7I)。

> 酸化的リン酸化の抑制 (4)。
  • HIF-1 は、pyruvate dehydrogenase kinase 1 (PDK1) の発現を誘導する。
  • PDK1 は PDH 活性を抑制するため、ピルビン酸からアセチル CoA への変換が阻害、TCA flux が低下する。

> ミトコンドリアの除去 (4)。ミトコンドリアのオートファジーを促進する。

: HIF-1 はオートファゴソームの形成に関わる Beclin1 を解放する。


> エネルギー消費の抑制 (4)。
  • HIF-1 に誘導される REDD1 は、mTOR の抑制因子である TSC2 と 14-3-3 の結合を阻害する。
  • REDD1 がフリーになり mTOR 経路が抑制される結果、翻訳が general に低下、エネルギー消費抑制。

> 電子伝達系の機能を抑制し、ROS の発生を抑制する (4)。
  • HIF-1 に誘導される NDUFA4L2 は、NADH デヒドロゲナーゼを抑制する。
  • HIF-1 は低酸素用 COX4-2 を誘導、さらに COX4-1 を誘導するミトコンドリアプロテアーゼ LON も誘導。
  • COX4-1 から COX4-2 への変換は、低酸素において電子の受け渡しを促進する。

低酸素下では、嫌気代謝の結果として乳酸 lactate の細胞内濃度が上がるため、pH が低下する。これを防ぐために、HIF-1 は MCT4 を誘導し、乳酸を細胞外に排出する (4)。

また、低酸素で誘導される carbonic anhydrase 9 (CA9) は細胞外の二酸化炭素 carbon dioxide を水和し、H+ と HCO3- に変換する。HCO3- は細胞内に取り込まれ、pH をアルカリ側に傾ける。

> HIF-1 は erythropoietin (EPO) の誘導を介して造血を活性化し、赤血球を増加させる (3,4)。実際に、HIF-1 は、EPO を誘導する因子として最初に同定された。

> HIF-1 は、一般に血管形成を促進する (4)。

  • VEGF (vascular endothelial growth factor) を誘導する (3,4)。
  • bFGF, PDGFB なども HIF-1 の標的遺伝子である。

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References

  1. Shen et al. 2005a. Roles of the HIF-1 hypoxia-inducible factor during hypoxia response in Caenorhabditis elegans. J Biol Chem 280, 20580–20588.
  2. Patel & Simon 2008a (Review). Biology of hypoxia-inducible factor-2α in development and disease. Cell Death Differ 15, 628-634.
  3. Wenger 2002a (Review). Cellular adaptation to hypoxia: O2-sensing protein hydroxylases, hypoxia-inducible transcription factors, and O2-regulated gene expression. FASEB J 16, 1151-1162.
  4. 小林 & 原田 2013a (Review). 低酸素ストレスと HIF. 生化学 85, 187-195.
  5. Bruick 2003a (Review). Oxygen sensing in hypoxic response pathway: regulation of the hypoxia-inducible transcription factor. Genes Dev 17, 2614-2623.
  6. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
  7. Bensaad et al. 2014a.Fatty acid uptake and lipid storage induced by HIF-1a contribute to cell growth and survival after hypoxia-reoxygeneration. Cell Rep 9, 349-365.

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