HIF-1: 低酸素応答を制御する転写因子
UBC/protein_gene/h/hif-1
このページの最終更新日: 2024/12/15- 概要: HIF-1 とは
- 連続的な合成と分解のメカニズム
- 構造
- bHLH/PAS domains
- Trans-activation domain
- 標的遺伝子
- 嫌気代謝へのシフト
- ROS 発生の抑制
- 細胞内 pH の制御
- 発生など (個体・組織レベル)
- 幹細胞
- 炎症
- 免疫応答
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概要: HIF-1 とは
HIF-1 (hypoxia-inducible factor 1) α は低酸素 hypoxia への適応に必要な遺伝子の転写を促進する転写因子 transcription factor で、1 分子の α サブユニット (HIF-1α) と 1 分子の β サブユニット (HIF-1β) から成るヘテロダイマーである。
α サブユニットは、以下のように水酸化修飾を受けて常に分解されており、HIF-1 全体の活性を制御するような機能をもっているため、注目されることが多い。β サブユニットは恒常的に存在するようである。
HIF-1 は、肝がん細胞株 Hep3B において 1992 年に発見され、1995 年に α と β のヘテロダイマーであることが報告された (4)。のちに、HIF-2α および HIF-3α も同定されている。HIF-3 は転写調節領域を欠いており、HIF-1 および HIF-2 を競合阻害していると考えられている (4)。
合成・分解のメカニズム
HIF-1 は、以下のようなメカニズムで
- 好気的条件下では、常に α サブユニット中の LXXLAP motif のプロリンが EG-9 によって水酸化修飾を受ける (1I)。
- この水酸化は、VHL-1 (von Hippel-Lindau tumor suppressor protein-1) との親和性を上げる。
- VHL-1 は E3 ubiquitin-ligase complex の一部で、プロテオソーム依存的な HIF-1 の分解を促進する。
- 核に移行してから β サブユニットと 2 量体を形成し、DNA に結合する (5)。
- Cis-element は hypoxia response element (HRE) である (5)。
実際に、VHL-1 の変異体では、HIF-1 が常に高いレベルで存在する (1I)。この経路は C. elegans でも保存されている (1R)。
水酸化のほかに、リン酸化およびアセチル化による修飾も受ける (1I)。
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構造
bHLH and PAS domains
3 種のHIF-α および HIF-β は、いずれも N 末端側に basic-helix-loop-helix (bHLH)および Per-ARNT-Sim (PAS)ドメインをもっている (1I, 4)。 これらは DNA との結合に関わる領域で、HIF は
β サブユニットは ARNT (aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator) とも呼ばれる (1I)。
Trans-activation domain
HIF-1α および 2α の C 末端側には、転写活性化に関わる trans-activation domain (TAD) がある。 TAD は一般に 2 つあり、N-TAD および C-TAD に分類されている (4)。
> C-TAD は、ヒストンアセチル基転移酵素 CBP/p300 をリクルートし、遺伝子発現を転写レベルで誘導する (4)。
- しかし、通常酸素下ではこのプロセスも抑制されている。
- CREB-binding protein は C 末端付近の Asn を介して HIF-1 と結合する。
- しかし、この Asn 残基は酸素依存的に FIH-1 (factor inhibiting HIF-1) によって水酸化される。
一方、HIF-3α は C-TAD を、HIF-3α のスプライシングバリアントである IPAS は C 末端側を欠いており、HIF-1α および HIF-2α を競合阻害する機能を担っている (4)。
標的遺伝子
HIF は、800 個以上の遺伝子発現を調節する重要な転写因子である (4)。標的配列として hypoxia response element (HRE) が知られている。標的配列は 5-RCGTG という配列を含んでいる (1D)。
- Transferrin (3)
- VDCC (voltage-dependent calcium receptor) (4)
低酸素環境に適応するため、ミトコンドリアの酸化的リン酸化を抑制し、嫌気的解糖を促進する (4)。
- GLUT1 および GLUT3 を発現誘導し、グルコースの細胞内取り込みを増大させる (6)。
- ピルビン酸を乳酸に変換する LDH の発現を増大させる (7I)。
- 解糖系の律速酵素である PFK1, HK2 を誘導する (7I)。
- HIF-1 は、pyruvate dehydrogenase kinase 1 (PDK1) の発現を誘導する。
- PDK1 は PDH 活性を抑制するため、ピルビン酸からアセチル CoA への変換が阻害、TCA flux が低下する。
: HIF-1 はオートファゴソームの形成に関わる Beclin1 を解放する。
- HIF-1 に誘導される REDD1 は、mTOR の抑制因子である TSC2 と 14-3-3 の結合を阻害する。
- REDD1 がフリーになり mTOR 経路が抑制される結果、翻訳が general に低下、エネルギー消費抑制。
- HIF-1 に誘導される NDUFA4L2 は、NADH デヒドロゲナーゼを抑制する。
- HIF-1 は低酸素用 COX4-2 を誘導、さらに COX4-1 を誘導するミトコンドリアプロテアーゼ LON も誘導。
- COX4-1 から COX4-2 への変換は、低酸素において電子の受け渡しを促進する。
低酸素下では、嫌気代謝の結果として乳酸 lactate の細胞内濃度が上がるため、pH が低下する。これを防ぐために、HIF-1 は MCT4 を誘導し、乳酸を細胞外に排出する (4)。
また、低酸素で誘導される carbonic anhydrase 9 (CA9) は細胞外の二酸化炭素 carbon dioxide を水和し、H+ と HCO3- に変換する。HCO3- は細胞内に取り込まれ、pH をアルカリ側に傾ける。
> HIF-1 は erythropoietin (EPO) の誘導を介して造血を活性化し、赤血球を増加させる (3,4)。実際に、HIF-1 は、EPO を誘導する因子として最初に同定された。
> HIF-1 は、一般に血管形成を促進する (4)。
- VEGF (vascular endothelial growth factor) を誘導する (3,4)。
- bFGF, PDGFB なども HIF-1 の標的遺伝子である。
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References
Shen et al. 2005a. Roles of the HIF-1 hypoxia-inducible factor during hypoxia response in Caenorhabditis elegans. J Biol Chem 280, 20580–20588.Patel & Simon 2008a (Review). Biology of hypoxia-inducible factor-2α in development and disease. Cell Death Differ 15, 628-634.Wenger 2002a (Review). Cellular adaptation to hypoxia: O2-sensing protein hydroxylases, hypoxia-inducible transcription factors, and O2-regulated gene expression. FASEB J 16, 1151-1162.小林 & 原田 2013a (Review). 低酸素ストレスと HIF. 生化学 85, 187-195.Bruick 2003a (Review). Oxygen sensing in hypoxic response pathway: regulation of the hypoxia-inducible transcription factor. Genes Dev 17, 2614-2623.- Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
Bensaad et al. 2014a. Fatty acid uptake and lipid storage induced by HIF-1a contribute to cell growth and survival after hypoxia-reoxygeneration. Cell Rep 9, 349-365.
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