遺伝子組み換え食品 穀物: 安全性、表示制度など

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要: 遺伝子組み換え食品全般について
    • 食品としての安全性
    • 環境への影響
    • 経済的効果
  2. 遺伝子組み換えの技術
  3. 遺伝子組み換え食品の表示制度と検査
    • アメリカの表示制度
    • 日本の状況

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概要: 遺伝子組み換え食品全般について

いわゆる遺伝子組み換え生物 (GMO; genetically modified organism) の定義は、USDA の定義 では "An organism produced through genetic modification" となっており、これだと選抜育種の結果として作出された生物も含まれることになる。

一方、EU の定義では「新しいバイオテクノロジー技術によって」という内容を含んでおり、こちらの方が一般の理解に近いだろう。

GMO の使用には多くの懸念があるが、利点もある。植物の場合には、害虫などへの防御の遺伝子を導入することで、農薬の使用量を減らせ、実際に収穫量も増大している。

このページでは、遺伝子組み換え穀物に関する内容を主にまとめるが、便宜的に遺伝子組み換え食品に関するあらゆる内容を含める。内容が増えてきたらページ分割を検討する。

なお、日本では食用および家畜飼料用 GMO は 2016 年現在 栽培されていない。観賞用の青いバラのみが商業栽培されている (6)。ただし、海外で生産された GMO は大量に輸入されている。

遺伝子組み換えによって付与される形質には、以下のようなものがある (6)。

除草剤への耐性

とくに グリホサート (商品名ラウンドアップ) への耐性遺伝子を組み込んだ植物が多い。

除草剤の使用量を減らすことができるとされているが、残留農薬、耐性雑草の出現などの問題も指摘されている (6)。

害虫への抵抗性

Bacillus thuringiensis という土壌細菌のタンパク質を組み込むと、これが害虫の腸内にある受容体と結合し、殺虫効果を示す (6)。ヒトにはこの受容体がないために無害であるとされる。

Bt corn, Bt cotton がよく使われている (10)。Bt plants を使うことによって、殺虫剤の使用量が 8% 低下したという調査がある (10)。

ウイルスへの抵抗性

PRSV (papaya ringspot virus) に感染しにくいパパイヤなどがある (10)。

ワクチンのような考えで、無毒化なウイルスの coat protein を発現させているようだ (10)。

栄養成分を増やす

高オレイン酸ダイズ、リシン Lys を多く含むトウモロコシ、β-カロテンの多いゴールデンライスなど (6)。


食品としての安全性

最初に食用が認められた GMO は FlavrSavr トマトで、1994 年のことである (11)。その後市場は急速に広がり、2014 年現在では例えばダイズの 82%、トウモロコシ の 93%、ワタの 96% が GMO である (11)。

現在では、遺伝子組み換え穀物を食べることは有害でない というのが一般的理解であり (2, 10)、そのために GMO の使用が各国で認可されている。しかし、一部の科学者は未知のタンパク質を食品として摂取することに懸念を表明していることも事実である。免疫応答の異常 が具体的なリスクとして想定されている。

また、ケロッグの GMO 製品に高濃度の農薬 ラウンドアップ が残留していたことが 2015 年にニュースになった (4)。この事実は、

  1. 農薬に耐性のある植物を遺伝子組み換えで作り出す
  2. 大量の農薬を使って雑草を殺す

というストラテジーに問題があることを示す好例である。

つまり、遺伝子組換え穀物の安全性は、単にそれを食べたときのリスクだけではないということである。

食品として認可している国は、2014 年 6 月現在で 65 カ国である (11)。


環境への影響

花粉の飛散などを完全に制御することは不可能なので、GMO と野生型の穀物のハイブリッドは続々と誕生していると考えられる。GMO が虫害などに対して耐性をもつ場合、野生の穀物を絶滅させてしまう可能性がある。

詳細は GMOs の環境への影響 のページにまとめた。


経済的効果

> インドで Bt cotton が農家を貧困から救っていることを示した論文 (8)。

  • 世界中で貧栄養状態にある人口の約 50% は、発展途上国の小規模農家であると見積もられている。
  • Bt cotton は 2002 年にインドに導入され、現在では総生産の 93% を占める。
  • Bt cotton を栽培している農家は、そうでない農家に比べて消費カロリーが多い。

遺伝子組み換えの技術

> バクテリア の Ti plasmid が植物への遺伝子導入に使われる (1)。
  • このバクテリア Agrobacterium tumefaciens は、もともと Ti plasmid で植物を形質転換する能力をもっている。

> 大豆、トウモロコシ を対象に PCR で検出した論文 (5)。
  • DNA 抽出法の比較が中心の論文。トルコの食材を調べている。

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遺伝子組み換え食品の表示制度と検査

2014 年現在、遺伝子組み換え作物は世界 28 ヶ国で栽培されている (6)。2015 年の統計でも 28 ヵ国とされており (7)、作付け面積が広い順に一覧にすると、次のようになる。

  1. アメリカ
  2. ブラジル
  3. アルゼンチン
  4. インド
  5. カナダ
  6. 中国
  7. パラグアイ
  8. パキスタン
  9. 南アフリカ
  10. ウルグアイ
  11. ボリビア
  12. フィリピン
  13. オーストラリア
  14. ブルキナファソ
  1. ミャンマー
  2. メキシコ
  3. スペイン
  4. コロンビア
  5. スーダン
  6. ホンジュラス
  7. チリ
  8. ポルトガル
  9. ベトナム
  10. チェコ
  11. スロバキア
  12. コスタリカ
  13. バングラデシュ
  14. ルーマニア

2014 年のリストと比較すると、ベトナムが追加されている。キューバは一時的に GMO 大豆の作付けを止めたが、再開する方針であると説明されており (7)、実質的には 29 ヵ国で GMO が栽培されていることになるだろう。

Bt cotton は Bachillus thuringiensis の遺伝子を組み込まれたワタで、多くの害虫、とくに cotton bollworms への耐性を付与されている。インド、中国、パキスタンなど多くの国で栽培されている (8)。

チリでは、輸出用にのみ GMO の栽培が認められており、国内の消費には回さないという政策がとられているようである (9)。


アメリカの表示制度

アメリカでは GMO が含まれているかどうかを食品のラベルに表示する義務はなかったが、2014 年にバーモント州が初めて表示義務を制定した (3)。いくつかの州が同様の法を作り、2016 年には全米レベルの表示法が制定された。しかし、この法律は州レベルの法律を無効にすることを前提としており、かえって消費者の利便性を低下させるという批判もある (3)。


日本の状況

2015 年 11 月現在、8 種類 303 品種の作物が食品として流通を認められている (6)。ダイズ、トウモロコシ、ジャガイモ、ナタネ、ワタ、アルファルファ、テンサイ、パパイヤおよびそれらを原材料とする 33 品目で表示が義務付けられている。

ただし、導入された遺伝子やタンパク質が加工の過程で分解され、現在の技術では検出できない場合には、表示の義務はない (6)。醤油、水飴、砂糖、油などがこれにあたる。また、加工食品における割合が重量で 4 位以下、割合で 5% 未満であれば表示は不要である。


> イランの知識層を対象に、GM 食品のアンケートをとった論文 (12)。

  • 企業の社会的責任 (CSR; corporate social responsibility) との関係に注目。
  • Multi-stage random sampling により、372 人のイラン人を対象としている。Likert scale から Cronback's alpha を計算して、t 検定や ANOVA をかけている。
  • 一般に、Likert scale のデータは順序尺度なので、U 検定が適当。何らかの補正をすると t 検定などが使えるようになるらしい。
  • Educated people ほど GM を作っている会社を信用していない。

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References

  1. Valentine 2003a. Agrobacterium tumefaciens and the plant: the David and Goliath of Modern genetics. Plant Physiol 133, 948-955.
  2. Hilbeck et al. 2015a. No scientific concerns on GMO safety. Env Sci Eur 27, 4.
  3. GMO表示法が成立。「抜け穴」法だと各界から大きな非難. Link.
  4. Kellogg's cereals found to be contaminated with Monsanto's cancer-causing glyphosate. Link.
  5. Sonmezoglu and Keskin. 2015a. Determination of genetically modified corn and soy in processed food products. J Appl Biol Biotechnol 3, 32-37.
  6. 田代 2016a (Review). 遺伝子組換え作物の安全性審査と表示制度に関する考察. 鹿大農学術報告 66, 8-17.
  7. ISAAA Brief 51-2015: Executive Summary. Link.
  8. Qaim & Kouser 2013a. Genetically modified crops and food security. PLoS ONE 8, e64879.
  9. Chile’s genetically modified conundrum – Politics and regulation of GMOs in Chile. Link.
  10. Ronald 2011a (Review). Plant genetics, sustainable agriculture and global food security. Genetics, 188, 11-20.
  11. Wong 2016a (Review). Genetically modified foods in China and the United States:A primer of regulation and intellectual property protection. Food Sci Hum Wellness 5, 124-140.
  12. Akbari et al. 2019a. Will be updated.

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