学振 DC1, DC2 申請書の書き方 #1
- 概要
- 全体的な注意点: 何が求められているか
- それぞれの項目で書くべきこと
- その他考えるべきこと
- 予備データ、業績など → その 2 へ
- 関連ページ: アカデミック・ライティング
論文の書き方に関するページは、以下のリンクからどうぞ!
広告
概要
内容に入る前にまず主張しておきたいのは、学振を含む
- 審査員の研究上の好み。
- 審査員があなたの申請書を読んだときに機嫌が良いかどうか。
- 娘に「もうパパとは口きかない!」と言われた直後に審査員があなたの申請書を読んだ場合、あなたが採択される可能性はほとんど無いだろう。
- 審査員が子供の頃に苛められていたガキ大将の名前と、あなたの名前と似ていたら、採択される可能性はおそらく 50% 減である。
- 申請者もしくは関係者のコネ。とくに指導教員が権力をもっているかどうか。
- あなたよりも業績や申請書が優れたライバルが、似た内容の申請を出していないか。
- 政府の研究方針。マスコミが近いテーマで科学ニュースを報道しているか。
- スポンサー (この場合は政府) の財政状況。全体の採択率にも影響する。
「自分はもっと公正に審査している」と主張する審査員もいるかもしれないが、結果から過剰に自信を持ったり落ち込んだりせずに、採用される可能性の高い申請書を淡々と出し続けることが重要と考えている。
このページでは、ネットや本に書かれている内容と自分の経験をもとに、
広告
全体的な注意点: 「良い申請書」とは?
では、審査員はどんな申請書を「良い」と考えるのだろうか? ヒントは学振のホームページにちゃんと載っている。
学振ホームページ (文献3) より
優れた若手研究者に、その研究生活の初期において、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びなが ら研究に専念する機会を与えることは、我が国の学術研究の将来を担う創造性に富んだ研究者を育成する上 で極めて重要なことです。 このため、独立行政法人日本学術振興会(以下「本会」という。)は、我が国の大学院博士課程在学者で、 優れた研究能力を有し、当該大学で研究に専念することを希望する者を「特別研究員-DC」に採用し、研究 奨励金を支給します。 |
上記のような理念のもと、特別研究員の選考方法のページでは、以下の
- 学術の将来を担う優れた研究者となることが十分期待できること
- 研究計画が具体的であり、優れていること
- 研究業績が優れており、研究計画を遂行できる能力及び準備状況が示されていること
- 諸分野における研究者養成の必要性に配慮すること
審査員に上記の 4 点を理解してもらえる申請書を書く
したがって、「良い申請書」とは、言い換えれば
4 番は、他の 3 項目と雰囲気が異っているので、意味するところを少し考察してみる。例えば、あなたの研究分野自体が先細りだった場合、研究者養成の必要性がなく、あなたの申請書も真面目に検討する必要なしということになってしまう。しかし、おそらくこの項目は、そのような分野での申請を避けなさいと言っているわけではない。そもそも、ある分野に対して「研究者養成の必要性なし」というジャッジを下せる不遜な審査員はほとんどいないはずだ。
この項目は、「研究の背景や波及効果などを適切に書くことによって、審査員に "いかにその分野での研究者養成が必要とされているか" という
読みやすさ
もちろん、まず審査員には申請書を気分良く読んでもらって、内容を正しく評価してもらわなければならない。そのために、見た目の美しさ、読みやすさも重要である。
- 字は大きく。個人的には、明朝体よりもゴシック系フォントの方が読みやすいと思う。
- 行間は広く。
- 図を上手に使う。
「良い申請書」を書くために: それぞれの項目で書くべきこと
平成 28 年度 (2016 年度) 採用分の書類について書いています。申請書の記載内容は例年ほとんど同じですが、自分が申請する年度の書式にある説明を注意してチェックして下さい。
現在までの研究状況
現在までの研究状況 (図表を含めてもよいので、わかりやすく記述してください。様式の変更・追加は不可 (以下同様))。
|
文章作成上のテクニックは、アカデミックライティング のページにまとめることにして、ここでは内容的な点で考えるべきことを示す。私が重要と考える点は、
- 上記のように「記述してください」と言われているのだから、その通りに
研究の背景から独創的な点に至るまでの全てのポイントをわかりやすく記載する 。たとえば、ざっと読んで「解決方策」に相当する部分がどこかわからなかったら、それは良くない申請書である。 - 申請書のいかなる部分においても、原則として内容の重複は避ける。たとえば、次の項目で研究方法を詳しく書くのだから、ここでの「研究方法」との差別化を十分に考えなければならない。ただし冒頭の要旨と本文の間には、重複があってもよいだろう。
研究の背景
論文の Introduction の書き方と同様に、
問題点
ここでいう「問題点」は、2 段構えの書き方が可能であると考えられる。
- 第一は、未知な点を問題点として示す捉え方である。
- 例: 学習した記憶を上書きし、新たな記憶に応じて行動を柔軟に変化させることを 逆転学習 という。ラット において、一般に学習に重要であるとされる脳の領域は PFC および OFC であるが、逆転学習に重要な領域はまだ明らかにされていない。
- 第二は、解決すべき点を述べた上で (研究の背景として述べても良いかもしれない)、「なぜその点が未知のまま残されてきたのか? どのような問題点が過去の研究にあったのか?」を示す捉え方である。
- 例: カエルキラーは 21 世紀になってよく使われるようになった農薬であるが、田園に暮らす動物に及ぼす影響には未知の点が多い。本農薬の使用によってカエルの姿がみられなくなるという指摘があるが、これらの研究はいずれも冬季から早春にかけて行われており、この時期にはまだ大部分の個体がオタマジャクシであることが考慮されていない。
次の項目が「解決方策」であることから、第二の捉え方がこの申請書フォーマットの意図するところなのではないかと考えられる。したがって、ここでは「〜については未知の点が多い」などという曖昧なものでなく、specific な問題提起を行うべきであると思う。
解決方策
「カエルが孵化するのを待ってから調査を行えば、正確に個体数を把握することが可能である。」など
研究目的
研究方法
研究方法の詳細は、あとで詳しく述べることができるので、ここでは
- 目的に直結する仮説を提示できれば、「以下の仮説を検討することで、〜を明らかにする」という書き方も読みやすいだろう。
特色と独創的な点
「〜が本研究の特色であり、独創的な点である」という申請書をよく見るような気がするが、これはやや不十分な表現であると思う。
そもそも、大抵の研究者は自分の計画が独創的だと思っているものである。実際にはあまり独創的でなかったとしても、研究計画を練る際に「人とは違ったアプローチ」を考えるはずなので、「自分が独創的であると考える点」は大体誰でもイメージできているのではないか。
- 遺伝子 A は、申請者らのスクリーニングによって同定されたパーキンソン病の原因遺伝子である。本研究は、これまで全く研究例がない遺伝子 A を対象とした極めて独創的な研究である。
- 本研究は、カエルに足のない時期があるという斬新な発想に基づく独創的な研究である。
これに対して、独創性でない特色はやや難しい。いくつか実例で考えてみる。
- たとえば、誰もがやっていることを 1/10 の期間と費用でできるならば、それは独創性ではないが特色ある研究と言えるか? 方法の立案が独創的、という言い方もできるか?
- ヒトクイカタツムリは 21 世紀になって初めて報告されたカタツムリの変異体で、通常のカタツムリとほとんど同じ形態をもちながら、集団で人を襲う習性がある。本研究は、比較ゲノム解析により本種がヒトを認識するために用いている受容体を同定し、擬似ヒトフェロモンを開発、効率的な駆除に繋げるという独創的な研究である。また本研究では、本来の目的のほかに当該カタツムリのゲノム配列を得ることができる。これは軟体動物では 3 種目となり、まだ未知の点が多い軟体動物の進化を明らかにするためにも有用な知見である。このように、複数のアウトプットが期待できることが本研究の特色である。
特色と独創性について深く考えることで
広告
References
- 慶応大学吉村研究室 学振申請書の書き方. Link.
- 学振申請書を磨き上げる 11 のポイント. 文章編 前編.Link.
- 平成 28 年度採用分募集要項. pdf.
あなたがこのページを 2016 年以降に見ている場合は、文科省 HP で新しい募集要項を確認して下さい。
コメント欄
サーバー移転のため、コメント欄は一時閉鎖中です。サイドバーから「管理人への質問」へどうぞ。