特許: 研究者向けの情報ページ

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このページの最終更新日: 2024/02/14
  1. 概要: 特許とは
  2. 特許申請の段階: 出願、公開、取得の違い
  3. 科研費報告書などに記載する項目について
  4. 研究者は特許を出すべきかという問題

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概要:特許とは

国が特許法に基づいて発明者またはその承継人に特許権を付与する行為を特許 papent という。特許権とは 知的財産権の一部 である (2)。

知的財産権

  • 知的創造物についての権利
    • 特許権: 発明を保護
    • 実用新案権: 物質の形状等の考案を保護
    • 意匠権: 物質のデザインを保護
    • 著作権: 文芸、芸術、美術、音楽などを保護
    • 回路配置利用権: 半導体集積回路の配置を保護
    • 育成者権: 植物の新品種を保護
    • 営業秘密: ノウハウや顧客リストの盗用などを規制
  • 営業上の標識についての権利
    • 商標権: 商品などのマークを保護
    • 商号: 商号を保護
    • 商品表示、商品形態: 種々の不正競争行為を規制

特許法で保護される 発明 は、特許法第 2 条で定義されている。

  1. 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを保護の対象とする。したがって、金融保険制度・課税方法などの人為的な取り決めや計算方法・暗号など自然法則の利用がないものは保護の対象にならない。
  2. また「創作」が保護の対象となるため、発見そのもの (e.g. エネルギー保存則の発見) は保護されない。
  3. この創作は高度のものである必要があり、技術水準の低い創作は保護されない。

研究者が上記の条件に合うような「技術的思想の創作」を行った場合、特許を申請することができる。

近年では、科学研究費をはじめとする研究費の報告書にも特許の記載欄があり、原著論文に加えて特許の取得も業績として考慮されるようになってきている。

特許申請の段階: 出願、公開、取得の違い

追加予定。

科研費報告書などに記載する項目について

この項目では、大学に所属する学生、研究員、教員などが特許申請を行った場合について記載する。

発明者

通常の場合、学生、研究員または教員が 発明者 となるだろう。その発明に実際に寄与した人が複数いる場合は、論文の共著者と同様に連名で申請することができる。

  • 特許権は、発明者の知的創作活動にその根源がある。この観点から、法人は発明者になることができず、自然人 (生きている人) が発明者になる必要がある (3)。
  • 発明者は、創作活動を実際に行った者を指し、単なる補助者、助言人、命令者、資金提供者などは発明者にならない (4)。
  • 発明者というと自分に特許の権利がありそうな気がするが、それは出願人であるかどうかにかかっているので、この名称は単なる名誉に過ぎず、収入という意味では全く意味がない。

出願人 = 権利者

書類によって異なる語が使われている場合があるようである。

研究者は特許を出すべきかという問題

2023 年 10 月ごろ、Twitter でこの問題に関する議論があった。分野ごとに状況が異なり、かつ論点が多いので簡単に結論の出る問題ではないが、考えたことなどをメモしておく。

A 氏が、研究者はもっと金を稼ぐために知財や起業を考えるべきと発言。運営費交付金が減らされたのは、役人がバカだからではなく、研究者に金の問題をしっかりと考えてほしかったから。アメリカを見習い、大学も自分で稼げるようになるべきという主張。

これに対し、B 氏が基礎研究者はそんなことを考える必要がないと発言。関係して色々な人が特許について発現したという状況だった。

特許は必ずしも技術の発展を妨げるわけではない

知財が保護されていないと、企業が参入しにくいという事実があり、とくに創薬業界ではこの傾向が顕著なようだ。つまり、薬品を開発するのにコストがかかり、特許がないと完成した時点ですぐに他企業に真似される。投資した金額を回収できる見込みが減るので、企業は開発に取りかかりにくい。

研究者が特許を出願するようになれば、これをもとに企業が投資しやすくなる。大学にも金が行くだろうし、結果として社会全体の「知」も増える。

ペニシリンの例が引用されていた。ペニシリンは発見者のフレミングが「多くの人に利用してほしい」という理由で特許を取らなかったので企業の参入がなく、結果的に薬の開発が遅れて多くの人が犠牲になったらしい (参考)。ただしこれには "特許出願するための状況 (化合物としての単離ができなかった) や臨床データが不十分であったことも理由ではあるようだ" という記述もあるので、単にフレミングの考えだけということではなかった可能性が高い

いずれにせよ、単に「特許 = 独占 = 悪で、公知の方がよい」というシンプルな考えが通用しない業界もあるということだ。

ただしこれは医薬業界の企業の論理であり、人命を金を天秤にかけた考え方である。人命に関わるような薬の開発だったら、国が利益を度外視して進めるべきで、企業の自由競争に任せていたら弊害が大きいという考え方もある。製薬業界の負の側面に着目すると、こう考える人がいても不思議はなく、こちらの方が理想。実際に A 氏も「どちらかと言うとそう言う世界が絶対いいのですが、それは通用しない世界になってるのです」と発言している。

研究者は、現実に迎合することなく理想を追求した存在で良いというのが私の意見である。よって、特許には興味なく、ひたすら自分の興味だけを追求する人がいても良いし、研究を色々な方法でマネタイズしつつ、企業と組んで発展させる人がいても良い。

自分の分野の作法や、自分の考えを他人に押し付けないことが最も重要である。

オープンソースの成功例

特許を取らずに、成功している例。コンピューターサイエンスは、ハッカー文化からの伝統でその傾向があるように思われる。

  • Linux, Apache, MySQL, R。関連ソフトは特許を取っているものもあるかもしれないが、基本思想はオープンソース。
  • ボルボの 3 点式シートベルトは、特許を取った上での無償公開だった。

役割分担という側面

特許は TLO の仕事であって教員の仕事ではないという考えも。大学教員はただでさえ事務仕事に忙殺されているので、このうえ特許申請まで課せられるとますます研究のための時間が減る。

また、特許が取りやすい分野と、そうでない分野がある。もっと言えば、金を稼げる分野とそうでない分野があり、大学が積極的にマネタイズに乗り出すと、稼げない分野を縮小していこうという流れが生まれる恐れがある (というか、すでに生まれている)。これも問題。

教育面でも考えるべき問題がある。大学での研究の主体は修士・博士の学生なので、彼らが自由に学会発表などをできないケースが生まれる可能性がある。一方で、企業との共同研究ができたり、特許に関する知識・経験が得られたりというメリットもある。

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References

  1. 知的財産権について. 経産省 特許庁ウェブサイト. Link/広告付きリンク.
  2. 学生・若手研究者のための特許 基礎編.
  3. 維新国際特許事務所: Q & A ページ. Link.
  4. 特許取得のための基礎知識 (チテカントロプス). Link: 個人ページ。