食品科学における NMR および MRI の利用

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2018/06/24 更新

  1. 概要: NMR と食品科学
  2. 食品成分の解析
    • 脂質
    • タンパク質・アミノ酸
  3. 食品構造の解析
  4. 今後の課題

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概要: NMR の長所と短所

核磁気共鳴 NMR とは、外部磁場の中にある磁性核 magnetic nucleus が、固有の周波数の電磁波と相互作用する現象である。また、MRI は核磁気共鳴現象を利用した画像撮影法であり、NMR の応用例と考えることができる。これらの技術は、化学や医学分野で発展してきたが、食品科学の分野でも応用されるようになった。このページでは、NMR 関連手法の食品科学分野での使用例をまとめる。

NMR 関連手法は、おおまかに以下の 3 通りに分けられ、食品の以下のような性状を調べることができる (1,8)。研究目的だけでなく、品質管理にも使うことができる。

  1. MRS (magnetic resonance spectroscopy): 構成成分 composition がスペクトラムとして得られる。成分の経時変化などを非破壊的に調べることが可能である。
  2. MRI: 食品の形状 structure を非破壊的に明らかにしつつ、同時に緩和時間などを調べることも可能である。
  3. NMR: とくに low-field NMR が使われる。食品表面の成分の緩和時間などを非破壊的に測定し、physical status を調べることができる。

いずれの方法も、非破壊的というのが特徴である。

食品成分の解析

water のシグナルは、食品の水分含量を調べるためによく用いられている (1)。また、MRI も水のシグナルを利用していると言える。食品中の水について、以下のような項目の測定例がある。水分子を観察しているので、次の表はとくに述べない限り 1H NMR での測定である。


水分含量
  • MRI 画像からミニトマト cherry tomato の水分含量の季節変化を調べた論文 (2)。T1 および T2、diffusion parameters などを測定。
  • 牛肉、豚肉、鶏肉の水分測定も例として挙げられている (1)。
水の分布 > スパゲティの断面の MRI 測定の例が挙げられている (5)。
  • 乾麺や冷凍面では、中心に水分含量の低い領域がある。いわゆる アル・デンテ。しかし、コンビニ弁当麺やレトルトのロングライフゆで麺は、水分が一様に分布する。
水の状態

Water holding capasity のページで示すように、組織中の水の状態は単一ではない。かつては組織に強く結合している 結合水 と、自由な状態にある 自由水 に単純にわけられ、凍結融解の際に失われるのは自由水であると考えられてきた。

組織内の水分子はこのように状態が異なるので、NMR では複数の T2 緩和時間をもつ 2 - 3 個の集団として検出される (8)。ただし、最近では T2 緩和時間の違いは単に水分子の状態を表すのではなく、水と biopolymer 間の proton exhange の状態を示すものという説も提唱されている。

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脂質

NMR では、食品の脂質 lipid に関しても様々な情報を得ることができる。

文献 1 には、ミルクの脂質含量の測定と2D NMR 解析、ガスクロマトグラフィーと 13C NMR で脂肪酸組成を比較した例、畜肉や魚肉での脂質含量の測定などの例が引用されている。

1993 年から、NMR は solid fat content (SFC) を測定する際の AOCS の公定法になっている (1)。SFC とは様々な温度における脂質の固体/液体比のことで、食品の固さや食感に大きな影響を与える。NMR による測定は、とくにマーガリンやバターによく使われている。

脂質含量

MRI では、水のプロトンと脂肪のプロトンを区別することができる (9)。したがって、画像解析から脂質含量を計算することができる。食品だけでなく、脂肪肝の検出など医学分野でよく使われる技術である。

脂質の分布
脂肪酸組成

食品での応用例はあまり多くないが、NMR, MRI および MRS で脂肪酸組成 fatty acid composition を調べることが可能である。

> マウス 脂肪組織 の SFA, MUFA, PUFA 比を MRI で算出 (6)。

: MRI による検出は、二重結合の数などを原理としている。
: この論文は、高磁場 (7T) での初めての使用例である。
: Low-fat diet で育てたマウスの脂肪組織では PUFA の比率が高い。

> ヒトの breast tissue で、MRS により脂肪酸組成を調べた論文 (7)。

: 7T による報告は既にあり、臨床でよく使われる 3T でも可能なことを示している。


タンパク質・アミノ酸

タンパク質、アミノ酸含量も調べることができる。


食品構造の解析


今後の課題

NMR を食品の分析に使う場合に、多くの場合問題となるのはコストが高いこと、ある程度の技術が必要であること、そして安全性である (1)。安全性が問題となるのは、NMR は磁場を保つために液体窒素を常に補充しなければならず、また磁力が強いために金属フリーの部屋を作らなければならないためである。

そのために、2013 年現在では research-oriented の使用例しかないが (1)、現場への応用は進んでいる (3)。

例えば、Bruker が 2012 年に発表した minispec profiler (右写真はウェブサイトから引用, 4) がある。

これは卓上型のシングル・サイド NMR に分類され、あらゆる形状のサンプルで、表面から数 mm の緩和時間を測定することができる。

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References

  1. Marcone et al. 2013a (Review). Diverse food-based applications of nuclear magnetic resonance (NMR) technology. Food Res Int 51, 729-747.
  2. Ciampa et al. 2010a. Seasonal chemical–physical changes of PGI Pachino cherry tomatoes detected by magnetic resonance imaging (MRI). Food Chem 122, 1253-1260.
  3. Damez & Clerjon 2013a (Review). Quantifying and predicting meat and meat products quality attributes using electromagnetic waves: An overview. Meat Sci 95, 879-896.
  4. Bruker ウェブサイト. Link.
  5. 吉田 2012a (Review). 食品の物性に影響を与える水分分布を MRI で観る. 食品科学工学会誌 59, 478-483.
  6. Leporq et al. 2015a. Hepatic fat fraction and visceral adipose tissue fatty acid composition in mice: quantification with 7.0T MRI. Magn Reson Med, published online.
  7. Coum et al. 2016a. In vivo MR spectroscopy of human breast tissue: quantification of fatty acid composition at a clinical field strength (3T). Magn Reson Mater Phy, published online.
  8. Erikson et al. 2012a (Review). Use of NMR in fish processing optimization: a review of recent progress. Magn Reson Chem 50, 471-480.
  9. Dixon 1984a. Simple proton spectroscopic imaging. Radiology 153, 189-194.