ケミカルシフト

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このページの最終更新日: 2020/02/14

  1. 概要: 化学シフトとは
  2. 溶媒による化学シフトのずれ
  3. pH が化学シフトに及ぼす影響

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概要: ケミカルシフトとは

核磁気共鳴 NMR とは、磁場の中にある磁性核 magnetic nucleus が、固有の周波数の電磁波と相互作用する現象である。

NMR 現象を引き起こす電磁波の周波数は、原子の種類によって異なっている。これを共鳴周波数 resonance frequency またはラーモア周波数 Larmor frequency といい、水素原子 H の場合は約 500 MHz, 炭素同位体 13C の場合は約 126 MHz である。

しかし、例えば水素原子であっても、たとえば -CH3 の H と C-NH2 の H では化学的環境が異なる ので、resonance frequency は微妙にずれた値を示す。この 「ずれ」のことをケミカルシフトと呼ぶ

たとえば、アミノ酸の一種 システイン は 7 個の水素原子を含んでいるが、それらは N に結合していたり C に結合していたりと、化学的環境が異なっている。したがって異なる carrier frequency をもつ。例えば、11.7 T の磁場におかれたときに、N に結合している H は 500.00 MHz で励起されるが、CH の H は 500.01 MHz, SH の H は 500.02 MHz といった具合である。


化学シフトは原子による resonance frequency の差に対して非常に小さい。上の例では、H の励起が 500 MHz 前後で起こるのに対し、C の励起は 125 MHz 前後である。これが H NMR や C NMR の違いである。

さらに、この理由からケミカルシフトの単位は通常 ppm である。

ケミカルシフト値は、原則として物質に固有であるため、その値から物質を同定することが可能である。ただし、実際にはケミカルシフト値は溶媒の種類、pH、塩濃度などによって変化するので、多数のピークを扱うメタボロミクスなどでは解析が難しい (6I)。


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溶媒による化学シフトのずれ

溶媒自体のケミカルシフトはいろいろと文献があるのだが、目的物質のケミカルシフトが溶媒によってどれだけ変化するかについては意外と情報が少なく、やっと Sigma のカタログでみつけることができた (3)。一部を表にまとめておく。

CDCl3 DMSO-d6 C5D5N or CH5N C6D6 or C6H6 D2O

酢酸

2.13 1.95 2.13 1.63 2.16

ジメチルホルムアミド

8.01
2.95
2.88

7.98
2.92

2.72
2.66

2.40
1.98

7.91
3.00
2.86

エタノール

3.72 (q)
1.24 (t)

3.49 (q)
1.09 (t)

3.86 (q)
1.29 (t)

3.39 (q)
0.97 (t)

3.46 (q)
1.16 (t)


pH がケミカルシフトに及ぼす影響

pH はケミカルシフトに影響する。Bruker のウェブサイトによると、0.005 単位の pH のずれでも化学シフトは変化するので、pH は ± 0.04 の許容制度で調整 しなければならない (4)。

pH の影響はもちろん分子や官能基によって異なる。例えば citric acid のダブレットは pH に影響を受けやすい。

また、文献 5 ではタンパク質の高次構造を NMR で解析する際の pH によるケミカルシフトの変化が図として示されている。pH が 1 から 9 まで変化すると、ケミカルシフトは 0.5 – 1.0 ppm 程度変化している。これは非常に大きい変化である。タンパク質は pH によって大きな構造変化を起こすので、小分子に比べて pH がケミカルシフトに及ぼす影響が大きいと思われる。


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References

  1. Amazon link: ケンプ 1988a. 化学・生化学・薬学・医学のためのやさしい最新のNMR入門.
  2. 今西ほか (2009a). 心から納得・理解できる MRI 原理と MRS.

イラストを多様した、わかりやすい MRI と MRS の本。基本的に見開きの左が文章、右がイラストという構成。

MRS および MRS で検出できる代謝産物について詳しく解説している本は、日本語では少なく貴重である。NAA や クレアチンといった代謝産物の機能と測定法の概要が書かれている。

もう一つの特徴は、MRI 原理の説明に回転座標系が使われていないこと。そのため、他の教科書とはちょっと異なる説明の仕方になっている。MRI の原理を理解するのは難しいので、色々な方向から眺めてみるという点でもお勧めの一冊である。私が T1, T2 relaxation を理解できたのはこの本のおかげ。

実験書のページ に、その他の NMR 関係の本のレビューがあります。


  1. NMR Solvents. Sigma, pdf file.
  2. pH 滴定ユニット. Link: Last access 2018/12/18.
  3. 荒田 1993a. タンパク質のNMR構造解析の結果をどうみるか. 蛋白質核酸酵素 38, 2148-2162.
  4. Hao et al. 2014a. Bayesian decomvolution and quantification of metabolites in complex 1D NMR spectra using BATMAN. Nat Protocols, 9, 1416-1427.

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