核磁気共鳴 NMR の ロックとは:
意味、原理、かからないときの対処など
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このページの最終更新日: 2024/07/13広告
概要: ロックとは
核磁気共鳴 NMR とは、外部磁場の中にある磁性核 magnetic nucleus が、固有の周波数の電磁波と相互作用する現象である。この外部磁場は、液体窒素 や液体ヘリウム により冷却した超伝導磁石で作られている。そのため、磁場は完全に均一ではなく、測定中にも少しずつ変化する。
外部磁場が変化すると、試料の共鳴周波数も変化してしまう。したがって、外部磁場が均一であることは NMR にとって極めて重要である。
Bruker システムでのロック
水系溶媒に対する NMR では、重水 D2O 中の重水素 D に対して行われることが多い。
すなわち、特定の外部磁場 (たとえば 11.7 T) における重水素の共鳴周波数は既知であるため、これを基準に外部磁場を微調整している (3)。具体的には、シムシステムの一部である H0 コイルの電流を変えているようである。重水素のシグナルは数千回/秒の頻度で測定されているので、一度ロックがかかれば外部磁場は常に一定に保たれると考えて良い。
Bruker TopSpin では、以下の 3 通りの方法で lock をかけることができる。また
- lock コマンド: 溶媒を指定したロック
- BSMS display で Lock - AUTO とすると、溶媒を指定しないロックをする。
- BSMS display で、マニュアルでロックをかけることもできる。
lock command でのロック
普通は、溶媒を指定した lock をかける。水系溶媒でよく使われる H2O + D2O に対して lock をかけると、以下のようなことが行われるらしい。
- D2O 中の D の周波数に対して lock するのが上で述べたように基本であるが、H2O + D2O を選んだ場合は、H に対しても lock している。
- 外部磁場がドリフトしたときは、これらの周波数を一定に保つようになっている。
- Lock をかけていないと、shim もかからない。これは、ロック信号が最大になるように磁場を調整するのが shim の作業であるため。
また、シグナル取得後に ケミカルシフト の calibration を sref コマンドなどで行うが、このときに lock された周波数も利用しているようだ。つまり、sref は例えば TMS などの周波数を 0 にするようなキャリブレーションだが、lock の対象核の周波数を使うことで、TMS がなくてもキャリブレーションができるようになっている。
urine という謎の溶媒があるが、これは urine に 10% 程度の D2O を加えたサンプルで lock する。D は常に必要。具体的には何かわからないが一般的に尿に含まれる代謝産物を使って lock しているのだろう。
lock power と lock gain
lock signal は 70% 程度にする。線の上に重なるようにしておくと、マニュアルでシムを微調整したときにわかりやすい。
lock signal が強すぎる (or 弱すぎる) ときには、lock gain で調整する。lock power でも基本的に同じことができるが、gain での調整がよい。power を上げると saturation があるため。ただし、gain を上げるとノイズが大きくなるので、バランスが重要な気もする。
Lock gain が低いとき
Lock gain が高いとき
トラブルシューティング: ロックがかからない
チェックすべき項目を、経験談に基づいてメモしておく。このときのエラーメッセージは Command 'lock H2O + D2O failed. Lock is OFF など。
これは、基本的には NMR が対象とする原子核からのシグナルを見つけられないというエラーである。以下のような原因が考えられる。
1. サンプルが入っていない
ロックがかからない原因は多々あるが、まずは「サンプルがきちんと入っていること」をチェックする。サンプルが入っていないとロックもかからない。Bruker TopSpin では、サンプルを表示する欄がある。
この表示がされていれば基本的にサンプルは入っているはずなのだが、これを 100% 信用してはいけない。たぶん、センサーの位置と実際のサンプルの位置の関係で、この表示になっているのに、実際は途中でひっかかっていたということがあった。
たとえば、lock power や lock gain を上げても lock signal が増えない、rsh でどんなシムファイルをロードしても lock signal が変わらない、などは、サンプルが入っていないことを示唆する症状である。逆にいえば、lock power を上げて lock signal が上がれば、少なくともサンプルは入っていることになる。
サンプルを回転させてみるのが、これをチェックする方法の一つである。スピンしているときには、このように表示される。これが表示できたときには、経験上 100% サンプルが入っていた。
2. 磁気の問題
NMR は、磁場の中にある磁性核からのシグナルを検出するものなので、磁場に問題があるとロックがかからない。
以前、ロックがかからなくて問題になったとき、NMR 会社の技術者はまず自分の鍵束を NMR の近くに持っていって、磁気がちゃんとあることを確認していた。
シムの問題
同様に、シム が大きくずれているとシグナルが低くロックがかからない。この場合には 3D shim をかけたり、rsh で適当なシムファイルを読み込んだりする必要がある。
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References
イラストを多用した、わかりやすい MRI と MRS の本。基本的に見開きの左が文章、右がイラストという構成。 MRS および MRS で検出できる代謝産物について詳しく解説している本は、日本語では少なく貴重である。NAA や クレアチンといった代謝産物の機能と測定法の概要が書かれている。 もう一つの特徴は、MRI 原理の説明に回転座標系が使われていないこと。そのため、他の教科書とはちょっと異なる説明の仕方になっている。MRI の原理を理解するのは難しいので、色々な方向から眺めてみるという点でもお勧めの一冊である。私が T1, T2 relaxation を理解できたのはこの本のおかげ。 |
- AVANCE Beginners Guide. Version 007. Bruker.
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