がん遺伝子 oncogene について

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このページの最終更新日: 2024/03/13

  1. 概要: Oncogene とは
  2. Tumor suppressor gene

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概要: Oncogene とは

細胞分裂や DNA 修復に関係する遺伝子の機能に異常をきたすと、がんになる可能性がある。文献 2 では少なくとも 350 の遺伝子ががんに関連すると報告されており、総数は 2000 を超えると見積もられている。遺伝子のもともとの機能によって、以下のように分類されている。

本来、細胞分裂を 促進する 遺伝子で、これらの機能が異常に増強された場合に、がんの原因となる。変異が入ってしまったものを oncogene、その前の状態を proto-oncogene という。がんの 90% は proto-oncogene の変異に由来する (2)。

種々の成長因子とそのシグナル伝達に関わるタンパク質のほか、DNA 修復、アポトーシス阻害などを通じて間接的に細胞分裂を促進する遺伝子も proto-oncogene に含まれる (3)。

言葉の定義の問題でもあるが、上記の「遺伝的背景」または「環境要因」によって proto-oncogene が活性化され oncogene になるとガンが発症すると言える。

2 セットある遺伝子の一方に gain-of-funciton の変異が生じると、細胞の異常増殖が起こる (1)。変異はがん化に対して dominant に働くと言える。

遺伝子
概要
APC

大腸がん colorectal cancer の原因 (2)。微小管およびその他の多くのタンパク質と結合する scaffold protein。

CDKN2A

メラノーマの原因になる (3)。

EWSR1

筋肉、血管など後半な組織で、転座が腫瘍の原因となる遺伝子。

Jun

Breast, prostate, skin, lung, ovarian, bladder など、様々ながんとの関与が知られている。

MSH2, MLH1

DNA 修復に関わる (3)。遺伝性大腸がんの原因遺伝子。

テロメラーゼ

テロメア領域を伸長する RNA (TERC) と酵素 (TERT) の複合体。テロメア長は長くても短くてもがんのリスクが上がる (5)。

Palladin

遺伝性膵臓がんの原因遺伝子として palladin が同定されている (2)。第二 exon にがんの原因となる変異がある。がん細胞は柔軟なほど他の組織に転移しやすい。Palladin は細胞の形態を維持する細胞骨格タンパク質の scaffold gene で、変異によって細胞の柔軟性が増してしまう。


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Tumor suppressor gene

本来、細胞分裂を 抑制する 遺伝子で、これらの機能が低下した場合にがんの原因となる。

がんの 10% が tumor-suppressor gene の変異によるという記述があるが (2)、p53 遺伝子の変異は 50% のがんで見つかるという記述もあり (3)、このあたり確認が必要。

2 セットある遺伝子の一方に loss-of-funciton の変異が生じても、通常の場合、細胞の増殖を抑制する機能は維持される (1)。変異はがん化に対して recessive に働くと言える。

例: NF1, p53, RB, WT-1.

遺伝子
概要
BRCA1

家族性乳がんと関係が深く、変異は乳がん、すい臓がんなどの原因になる (3)。DNA 修復に関わる。

p53

Li-Fraumeni という症候群として知られる (3)。白血病、脳腫瘍などと関係している。

RB

家族性レチノブラストーマの原因遺伝子。細胞周期 を制御する遺伝子の一つ。


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References

  1. Hine (2015). A Dictioonary of Biology.

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  2. Amazon link: 水島 (訳) 2015a. イラストレイテッド細胞分子生物学.
  3. Arshad et al. 2016a. Racial Disparities in Colorectal Carcinoma Incidence, severity and survival times over 10 years: A retrospective single center study. J Clin Med Res 8, 777-786.
  4. Aviv et al. 2017a. Mutations, cancer and the telomere length paradox. Trends Cancer 3, 253-258.
  5. 「がん」と「癌」と「ガン」の違いって知っていますか? Link: Last access 2019/12/06.
  6. Lan et al. 2020a (Review). FTO – A common genetic basis for obesity and cancer. Front Genet 11, 559138.

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