肥満やガンに関わる脱メチル化酵素 FTO:
構造、機能など

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このページの最終更新日: 2024/12/15

  1. 概要: FTO とは
  2. FTO に関する association study
  3. FTO の機能
    • 脱メチル化酵素としての FTO

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概要: FTO とは

Fat mass and obesity-associated gene (FTO) は、1999 年に細胞死の研究でクローニングされ、2007 年に genome-wide association study によって肥満との関連が示された (5)。

脂肪組織、骨格筋、視床下部で発現量が多い (5)。


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FTO に関する association study

FTO の 1st intron には、肥満と相関する SNP rs9930506 があることが多くの集団を対象とした association study で示されている (図は文献 6 より, メタアナリシス論文)。ただし、これがどのようなメカニズムで肥満に影響するのかは不明である。

FTOの機能

FTO に関してもっとも釈然としないのは、FTO のイントロンにある SNP が FTO 自身の発現量ではなく、隣にある遺伝子 IRX3 や RPGRIP1L の発現に影響するらしいという点である (1I)。にも関わらず、過剰発現・ノックアウト実験では非常に「それらしい」結果が出ている。

流れとしては、まずイントロンの SNP が見つかり、次にマウスの過剰発現・ノックアウト論文が出た後に、隣の遺伝子の可能性が指摘された。このあたりがはっきりするまで、自分でこの遺伝子を扱う気にはあまりならない。


> Intron 1 の 26 の SNP を様々な人種でテストした論文 (4)。

  • BMI との相関はAftican American では弱く、non-Hispanic white と Hispanic で強かった。
  • FTO と肥満との関係は、人種によることがわかった。

> Exon の変異をそれぞれ約 1400 人の lean および obese で調べた論文 (2)。

  • Lean subject で 33、obese subject で 35 の非同義置換を発見した。
  • Lean, obese に特異的な変異もあったが、両者で発見された変異もあった。
  • FTO の機能不全は、lean/obese のどちらの原因にもなりうるという結論。

FTO の機能

FTO をノックアウトするか、機能を損なうような変異を導入すると、体重や fat mass は低下する (1I)。逆に、FTO を過剰発現すると体重と fat mass は増大する。


> FTO は脂肪細胞の clonal expansion を制御し、脂肪蓄積を促進する (1)。

  • Mouse embryonic fibroblast (MEF) で、FTO 過剰発現が脂肪分化促進、ノックアウトは阻害。
  • FTO を過剰発現すると clonal expansion が促進される。ノックアウトでは抑制される。
  • 脱メチル化活性がこの作用に必要。R313A mutant を使った実験。
  • サイクリン CCND1, CCND3 は脂肪細胞分化中に増えるが、FTO をノックダウンすると量が減る。
  • RUNX1T1 という分子が FTO 過剰発現で増え、ノックアウトで減る。
  • RUNX1T1 をノックダウンすると CCND1, CCND3, 細胞数が減るので、FTO はこれを介して機能。
  • RUNX1T1 には L, S isoform があり、そのバランスが分化制御に重要と考えている。
  • FTO を過剰発現するマウスは fat mass が増え、wt との差は high fat diet でさらに顕著になる。

Mitotic clonal expansion は脂肪細胞の分化に必要なステップで、分化開始前 48 h 以内に起こる (1D)。

FTO の過剰発現は、筋細胞でインスリンシグナル、脂質合成、ROS 産生に影響する (7)。


脱メチル化酵素としての FTO

FTO は、DNA および RNA の脱メチル化酵素である (文献 5, 図もこの論文から)。基質は、図にあるように ssDNA、ssRNA、mRNA, snRNA, tRNA が知られている。


FTOの機能

The demethylases activity of FTO. (A) The nucleobase substrates of FTO. (B) m6A modification is induced by METTL3, METTL14, and their cofactors (writers), reversed by FTO and ALKBH5 (erasers), and functionally facilitated by m6A binding proteins including YTHDF1-3, YTHDC1-2, and IGF2BP1-3 (readers).

> FTO は 核酸からメチル基を除去する nucleic acid demethylase をコード (3R)。

  • Association study で FTO が同定されたあとの機能解析の論文。配列からあたりをつけて大腸菌発現。
  • Fe2+、酸素など cofacter の検討、point mutation を入れた解析。
  • DNA を基質に、脱メチル化反応を触媒することを証明。質量分析
  • YFP との fusion protein として発現、核に局在。
  • マウス で発現解析。脳 brain で mRNA の量が多い。飢餓で mRNA は低下する。

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References

  1. Merkestein et al. 2015a. FTO influences adipogenesis by regulating mitotic clonal expansion. Nat Commun 6, 6792.
  2. Meyre et al. 2010a. Prevalence of loss-of-function FTO mutations in lean and obese individuals. Diabetes, 59, 311-318.
  3. Gerken et al. 2007a. The obesity-associated FTO gene encodes a 2-oxoglutarate–dependent nucleic acid demethylase. Science 318, 1469-1472.
  4. Wing et al. 2011a. Analysis of FTO gene variants with obesity and glucose homeostasis measures in the multiethnic Insulin Resistance Atherosclerosis Study cohort. Int J Obes, 35, 1173-1182.
  5. Lan et al. 2020a (Review). FTO – A common genetic basis for obesity and cancer. Front Genet 11, 559138.
  6. Doaet et al., 2019a. The effect of rs9930506 FTO gene polymorphism on obesity risk: a meta-analysis. BioMol Concepts 10, 237–242.
  7. Bravard et al., 2011a. FTO is increased in muscle during type 2 diabetes, and its overexpression in myotubes alters insulin signaling, enhances lipogenesis and ROS production, and induces mitochondrial dysfunction. Diabetes 60, 258-268.

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