質量分析 Mass Spectrometry: 原理、種類など

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このページの最終更新日: 2021/10/26

  1. 概要: 質量分析とは
  2. 質量分析法の分類
    • 試料導入の方法
    • イオン化の方法
    • 試料分離の方法
    • 検出の方法
  3. イメージング MS

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概要: 質量分析とは

質量分析 mass spectrometry とは、分子の質量を測定する分析法である。MS と略され、日本語では「マス」だが、英語では「エムエス」と発音することが多いようである。

参考書などにおける MS の定義は以下の通り。

  • A technique used to determine relative atomic masses and the relative abundance of isotopes for chemical analysis, as in the identification of metabolites, drugs, and other molecules isolated from biological samples (Oxford Dictionary of Biology; Amazon).

図 (Public domain) は、質量分析装置の概要を示したものである。MS では、電磁場を利用して試料を分析するため、試料は イオン化 されている必要がある。したがって、質量分析装置には少なくとも以下の部分が含まれる。

  • 試料を導入する部分
  • 試料をイオン化する部分
  • 試料を分子量に応じて分離する部分
  • 試料を検出する部分
質量分析の概要

それぞれの部分に使われている原理によって、MS は非常に多くの種類に分けることができる。


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質量分析法の分類

試料導入の方法

単体の質量分析装置に加え、キャピラリー電気泳動装置と繋がった CE-MS、ガスクロマトグラフィーと繋がった GC-MS などがある。

イオン化の方法

タンパク質 protein やペプチドの質量を決定したい場合、これらをイオン化する必要がある (1)。すなわち、電場 electric field 中に置かれたイオンは、電場から F = ma (m は質量、a は加速度) の力を受ける。F は 電荷の関数となる。質量分析では、加速度 a を測定することで質量 m を決定する。

イオン化の方法には、以下のようなものがある。

SLD 法

Soft laser desorption 法。レーザー光を用いて、温和にイオン化する方法の総称で、MALDI、SELDI、DIOS などを含む概念 (7)。

2002 年に田中耕一氏が受賞したノーベル化学賞の功績は、for their development of soft desorption ionisation methods for mass spectrometric analyses of biological macromolecules となっており、言及されているのは SLD 法である。田中らが開発した方法は MALDI-TOF に近いものであるが、マトリックスの種類が異なっており、現在ではフランツ・ヒレンカンプ Franz Hillenkamp とミヒャエル・カラス Michael Karas により発表された MALDI-TOF 法が広く使われている。

MALDI 法

Matrix-assisted laser desorption-ionization 法。特定の波長のレーザー光を吸収し、タンパク質をイオン化する マトリックス matrix を使う。

ESI 法

Electrospray ionization 法。荷電した溶媒中にタンパク質を溶かし spray する。溶媒は蒸発し、タンパク質に電荷が残る。

EI 法

Electron ionization 法。


試料分離の方法

四重極法

1953 年に、西ドイツの物理学者 Wolfgang Paul と Helmut Steinwedel 開発した方法 (8)。平行に配置された 4 本のロッドに高周波電圧と直流電圧をかけると、質量分離器すなわちマスフィルターとして機能することを原理としている。電圧の大きさを調節することで、特定の質量範囲にあるイオンだけを透過させることができる。

TOF 法

Time of flight 法。イオンは検出器の方向に電場で加速される。軽いイオンほど早く加速され、検出器に早く到着する。この時間から質量を算出する。

タンデム MS (MS-MS)

タンデム MS とは、2 つの MS が繋がった装置のこと (4)。1 つめの MS は、同定というよりは分離に使われる。

たとえば、ペプチドの混合物が試料の場合、最初の MS の電場の強さを調整することによって、1 個のペプチドが 2 番目の MS に飛び込むように設定する。2 番目の MS でペプチドの質量を決定する。つまり、タンデム MS によって混合液に含まれる全てのペプチドを網羅的に同定することができるわけである。


検出の方法

さらに、イオンの検出方法にも多くの種類がある。MALDI によるイオン化と TOF による検出を組み合わせた MALDI-TOF という言葉を聞いたことがある人も多いと思う。


イメージング MS

イメージング MS (imaging MS) は、組織切片の上にマトリックスを塗布することで、分子の同定と局在解析を同時に行う手法である (2)。Stoeckli らによる 2001 年の報告が最初らしい。Mass spectrometry imaging (MSI) と呼ばれることもある。

一般には、夾雑物が入るため定量性には欠けるが、パルスレーザーは 10 - 20 µm の間隔で照射できるため、細胞 1 個に含まれる分子を検出することが可能であるとされている。近年では、定量性を改善した手法もあるようである。


DESI-MSI

Desorption electrospray ionization MSI (DESI-MSI) は新しいイメージング MS の手法で、マトリックスを必要とせず、小分子、脂質、タンパク質などの分布を可視化できる手法 (6)。他の MSI に比べて組織の損傷が少ないことが特徴。

> 脳への DHA 蓄積を DESI-MSI で可視化、定量した論文 (6)。

  • ホスファチジルコリン中に取り込まれた DHA を、図のようにマウス脳の組織切片上で定量している。
  • 野生型および senescence accelerated mice P8 (SAMP8) のマウスで比較。
  • 餌に DHA を添加した群と、alpha-linolenic acid を多く含む green nuts oil (GNO) を添加した群を作り、対称群 CO と比較している。
DESI-MSI

References

  1. Amazon link: ストライヤー生化学: 使っているのは英語の 6 版ですが、日本語の 7 版を紹介しています。参考書のページ にレビューがあります。
  2. ケムステーション, Imaging MS. Link: Last access 2018/07/24.
  3. Stoeckli et al. 2001a. Nat Med, 7, 493-496.
  4. Amazon link: ハーパー生化学 30版.
  5. 質量分析プロトコール: 専門家による本格的なページ。
  6. Islam et al., 2020a. green nut oil or DHA supplementation restored decreased distribution levels of DHA containing phosphatidylcholines in the brain of a mouse model of dementia. Metabolites 2020, 10, 153.
  7. MALDI と LI/LD の違いは何か? Shimadzu MALDI-MS Technical Reports, No. 7.
  8. Waters. 質量分析計の基本設計.Link: Last access 2021/10/25.

Figures are cited from open-access articles distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License, which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original author and source are credited. Also see 学術雑誌の著作権に対する姿勢.

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