バリンの構造、機能、代謝:
生理作用の弱い分岐鎖アミノ酸

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このページの最終更新日: 2024/05/16

  1. 概要: バリンとは
  2. バリンの生合成
  3. バリンの分解
  4. バリンの生理作用
  5. その他

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概要

バリン Val は図のような炭化水素の側鎖をもつ 3 種の 分岐鎖アミノ酸 (BCAA; branched-chain amino acid) の一つである。

側鎖は イソプロピル基 である。なお、他の BCAA はロイシン Leu およびイソロイシン Ile であり、生合成経路も互いに深く関わっている。

バリンの構造

Val は 1901 年に Fisher によって Valerian という植物の分類群から単離されたため、valeric acid と名付けられた。基本的な性状は以下の通り。

  • pK1 (COOH) = 2.2
  • pK2 (NH3+) = 9.7
  • 必須、分岐鎖、疎水性、非極性、糖原性。
  • コドンは GUU, GUC, GUA, GUG。

バリンの生合成

Val は動物が合成できない必須アミノ酸であり、植物での合成経路が知られている (3)。Val を含む BCAA の生合成には、有名なフィードバックが存在する (4)。 これによって、Val, Ile の存在比が一定に保たれるようになっている。詳細は Val の生合成のページ へ。

Threonine deaminase は Val および Ile にそれぞれ特異的な結合サイトをもっている。これは活性部位とは異なる場所にある。つまり、アロステリックな活性調節である。 競合する生合成経路において、このような activation と inhibition によるバランスの調節は、他の酵素でもよくみられる現象である。

分岐鎖アミノ酸の生合成 バリンの生合成

バリンの分解

Val の分解は、他の BCAA と比べて複雑であり、以下のような経路を辿る (1)。

  1. BCAT (branched-chain aminotransferase) によってα-ケトイソバレリン酸になる。
  2. 補酵素 A と会合し、イソブチリル CoA になる。
  3. 次に細胞毒性をもつメタクリリル CoA に変換される。
  4. Crotonase に触媒される水和により、β-ヒドロキシイソブチリル CoA になる。
  5. CoA が外れ、β-ヒドロキシイソ酪酸になる。
  6. メチルマロン酸セミアルデヒドになる。
  7. 再び CoA と会合し、プロピオニル CoA となる。
  8. これが D-メチルマロニルCoA、L-メチルマロニル CoA を経てサクシニル CoA になり、TCA 回路 に入る。

一度 CoA を遊離させたあとに再び会合させるという珍しいステップを踏んでいる。これは、細胞毒性を示すメタクリリル CoA をミトコンドリアに蓄積させないためと考えられている (1)。β-ヒドロキシイソ酪酸はミトコンドリアから放出することが可能である。

バリンの生理機能

BCAA は一般にインスリン insulin の分泌を促進したり、mTOR を活性化したりと、エネルギー代謝を制御する機能がある。しかし、これらの報告は主にロイシン、次いでイソロイシンに関するもので、バリンにはそのような活性がないとする報告が大半である。


バリン欠乏について

通常の食生活では、バリンの欠乏は起こりにくい。欠乏症として、以下のような症状が知られている (9)。

  • Impaired mental function
  • Insomnia
  • Inability to absorb proteins
  • Muscle deterioration
  • Maple syrup urine disease

> マウスの餌から Val を除くと、血液幹細胞移植の成功率が上がるかも (6)。

  • 骨髄にある non-haematopoietic cells (non-HSC) は、HSC のための niche を提供している。
  • HSC はタンパク質欠乏に敏感なことを示した 1940 年の論文から、どのアミノ酸が重要か検討。
  • バリン欠乏で、HSC の機能が低下した。これは、他の個体から HSC を移植するときに有用と思われる。
  • 例えば白血病 leukemia では、native HSC が移植された HSC を攻撃してしまうことが問題。
  • 予め Val 欠乏食で患者の HSC を弱めておけば、移植の成功率が上がるかもしれない。

その他

病気との関連

  • 鎌状赤血球症 sickle-cell anemia では、ヘモグロビン 分子中で Val がグルタミン酸を置換している。
  • BCAA, とくにバリンが C 型肝炎ウイルスの分裂を抑制するという報告 (8)。
  • また、糖尿病患者では血中の Val 濃度が高いという報告もあり、Val は様々な疾患と関係しているようである。

家畜などの論文

バリンに関する論文は、なぜか家畜や魚のものが多い。おそらく、栄養学的な観点からの研究が多いのだろう。

> ブタに多量のバリンを注射しても、代謝に大きな変化は起こらない (7)。

  • 13C-Val を注射して、タンパク質合成量を測定することを目的にしている模様。

> Atlantic salmon で、1 - 2 週間のハンドリングストレスにより血中量が増加 (2R)。

> 0.79% のエサへの Val の追加が、ニワトリの飼育に有効だったという 論文

ノルバリンについて

ノルバリン norvaline はバリンの異性体で、大腸菌やその他のグラム陰性菌で、アミノ酸生合成の副産物としてピルビン酸の蓄積など特定の状況下で形成される。最初は、枯草菌から抗真菌剤として検出されました。

多くのボディビルサプリメントに含まれていたが、最近では有害かもしれないとされている。

ノルバリンの構造
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References

  1. 下村 2009a (Review). 分岐鎖アミノ酸 (RBCAA) 代謝の調節機構. 化学と生物 47, 480-485.
  2. Karakach et al. 2009a. 1H-NMR and mass spectrometric characterization of the metabolic response of juveline Atlantic salmon (Salmo salar) to long-term stress. Metabolomics 5, 123-137.
  3. ページ編集に伴い削除
  4. Berg et al. 2006a. (Book). Biochemistry, 6th edition.

Berg, Tymoczko, Stryer の編集による生化学の教科書。 巻末の index 以外で約 1000 ページ。

正統派の教科書という感じで、基礎的な知識がややトップダウン的に網羅されている。その反面、個々の現象や分子に対して生理的な意義があまり述べられておらず、構造に偏っていて化学的要素が強い。この点、イラストレイテッド ハーパー・生化学 30版 の方が生物学寄りな印象がある。

英語圏ならば学部教育向けにはややレベルが高い印象。しかし、基本を外さずに専門分野以外のことを 研究レベルで 英語で読みたいという日本人には非常に適しているだろう。輪読とかにも向いているかもしれない。翻訳版はストライヤー生化学として売られている。



  1. 下村 2009b (Review). 分岐鎖アミノ酸の生理機能. Nutrition Review.
  2. Rowe and Daley 2017a. Stem cells: Valine starvation leads to a hungry niche. Nature 541, 166-167.
  3. Libao-Mercado et al. 2015a. Influence of a flooding dose of valine on key indicators of metabolic status in the growing pig. Am Phys Am Nutri 99, 100-106.
  4. lshida et al. 2013a. Valine, the branched-chain amino acid, suppresses hepatitis C virus RNA replication but promotes infectious particle formation. BBRC 437, 127-133.
  5. Deficiency.com Link: Last access 2018/02/21.

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