もっともシンプルなアミノ酸 グリシン:
構造、機能、代謝など
- 概要: グリシンとは
- グリシンの機能
- 神経伝達物質として
- コラーゲンの構成成分として
- 呈味性物質として
- グリシンの生合成
- グリシンの分解
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概要: グリシンとは
グリシン (glycine, Gly, G) は タンパク質 を構成する 20 種のアミノ酸のなかで
他のアミノ酸と同様に、グリシンのカルボキシル基 -COOH およびアミノ基 -NH2 pKa は以下のように「低」と「高」なので、生体内では一般に下の図のようにイオン化している (参考: 酸と塩基)。
- pK1 (COOH) = 2.4
- pK2 (NH3+) = 9.8
グリシンは、1820 年にフランスの科学者 Henri Braconnot によって発見された。ゼラチンを硫酸で加水分解し、グリシンの結晶を得た実験である。グリシンには、以下のような重要な生化学的特徴がある。
- コラーゲン collagen を構成する主要なアミノ酸である。
- 神経伝達物質であり、脳梗塞や統合失調症などの治療に用いられることがある。
- 甘みをもつアミノ酸であり、ホタテガイやクルマエビの甘みはグリシンに由来する。
グリシンの機能
神経伝達物質として
グリシンは神経伝達物質であるため、統合失調症 schizophrenia、脳梗塞 stroke、benign prostatic hyperplasia などの治療に用いられることがある。また、腎臓や肝臓を薬の副作用から守るためにも有効とされている。怪我の治療にも効果がある。
- 脳幹の蝸牛神経核や脊髄に存在する (1)。
- GABA のように抑制性に働くほか、NMDA 受容体に作用してグルタミン酸の作用を増強する (1)。
- ヒト成体の大脳皮質には、0.4 - 1.0 µmol/g の濃度で存在する (2)。
- 記憶力の向上、がん の予防にも繋がるという主張もある。
- クロザピン clozapine の効果を弱めるという相互作用が報告されている。
- 統合失調症の治療には、0.4 - 0.8 g/kg での服用が望ましい。
グリシン受容体 (GlyR) がもっともよく知られた受容体であるが、NMDA receptor、GlyT1 and GlyT2 receptor などとも結合することが示唆されており、グリシン受容体とは独立した作用もあるようだ (2)。
コラーゲンの構成成分として
グリシンの欠乏はさまざまな症状を引き起こす。肝臓における胆汁合成の阻害、コラーゲン合成阻害および結合組織の機能不全などが考えられる。
タイプ 1 コラーゲンのフィブロネクチンへの結合には、適切な glycine の配置が必要であることを、変異導入によって示した 論文。
呈味性物質として
またグリシンは
グリシンの生合成
グリシンは、セリン、スレオニン、コリン、ヒドロキシプロリンなどから生合成され、合成に関わるのは主に肝臓および腎臓である。
- セリンからは serine hydroxymethyltransferase によって合成される。
- グルタミン酸、glyoxylate およびアラニンからは、からは glycine aminotransferase によって合成される。
- コリンからベタインを経て合成される経路もある。まず、コリンが 2 個のプロトンを放出し betaine aldehyde になる。これが水および NAD+ と反応してベタインになり、さらにメチル基が遊離して dimethylglycine になり、これが CH2O を遊離して sarcosine になり、さらに CH2O が外れることでグリシンとなる。
- 肝臓での生合成は glycine synthase による。この反応は可逆的であり、グリシンの分解経路でもある。
グリシンの分解
グリシンは少なくとも 3 つの異なる経路で分解される。
一つはグリシン合成の逆反応であり、glycine synthase に触媒される。グリシンは tetrahydrofolate および NAD+ と反応し、NADH, NH4+ 水素、二酸化炭素および methylene tetrahydrofolate を作る。
Glycine synthase は 4 つの酵素の複合体であり、分解経路は高濃度のグリシンによって促進される。
第二の経路は、2 つの反応を含む。まず、グリシンが serine hydroxymethyltransferase によってセリンに変換され、さらに serine dehydratase がセリンをピルビン酸に変換する。この反応では、補酵素 pyridoxal phosphate および tetrahydrofolate が使われる。
第三の経路では、グリシンが D-amino acid oxidase によって glyoxylate になる。この分子はさらに酸化され、oxalate になる。
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References
- Amazon link: 脳単―ギリシャ語・ラテン語 (語源から覚える解剖学英単語集 (脳・神経編)).
Govindaraju et al. 2000a. Proton NMR chemical shifts and coupling constants for brain metabolites. NMR Biomed 13, 129-153.Perez-Torres et al. 2017a. Beneficial effects of the amino acid glycine. Mini Rev Med Chem 17, 15-32.
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