大学の講義: 成績のつけ方と GPA について

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このページの最終更新日: 2024/07/13

  1. 成績 (スコア) の分布
  2. GPA とは
  3. Final Exam での救済

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成績 (スコア) の分布

成績をつける場合にまず考えなければならないことは、絶対評価にするか相対評価にするかという点である。

相対評価の場合、スコアの分布がある程度決められている。たとえば上位 20% が A、その次の 20% が B... といった具合である。この場合、試験が難しすぎたとしても「誰も A をとれない」「全員落第」という問題は原則として起こらない (全員が 0 点であった場合は別だが)。

絶対評価で、実際のスコアの分布がどうなるかというのは難しい問題である。試験が簡単すぎると全員が A になってしまうし、難しすぎると全員が落第する。つまり、絶対評価にすると、試験の難易度により気を遣う必要がある と言える。

GPA とは

GPA とは Grade point average の略である。アメリカの大学では、一般に成績配分が以下のようになっている。100 点満点で、

  • A: 90 以上
  • B: 80 以上 90 未満
  • C: 70 以上 80 未満
  • D: 60 以上 70 未満
  • F: 60 未満

この A から F をそれぞれ 4, 3, 2, 1, 0 点として、成績の平均値を算出したものが GPA である (1)。A+ や A- のように、さらに細分化されている場合もある。この場合は、A+ を 4.33 として数値化したりするらしい。

このシステム、私には 全く意味がわからない。たとえば 90 点と 89 点の学生がいた場合、その差はわずか 1 点なのに、A と B にしてしまうことでそもそも差を過大評価している。さらにそれを数値に戻すのだから、何を考えているのか全く不明である。単に元の点数で平均をとればいいのでは?

よく知られているデメリットとしては、

  • 大学ごとに A+ があったりなかったりする。A+ がないと、GPA = 4.0 を維持するのは全 A でなくてはならず、一度でも B をとると 4.0 に復帰するのが不可能ということになる (1)。
  • GPA 平均は年々上がっており、かつ一般に public school よりも private school で高い (2)。昔のスコアとの比較や大学間比較はあまり意味がない。
  • A が 20 個の学生と、必要以上の講義を履修して A が 20 個 + B が 5 個 の学生では、後者の方が知識は多いと期待される。しかし、平均で判断しているので 前者の方が GPA が高くなる。

思いつく唯一のメリットは、アメリカでは学生が成績の交渉に来るが、その交渉があまりシビアにならないということだ。自己主張が良いことだと教わっているアメリカの学生は、「自分は A に値するので、B をもらうのはおかしい」というような態度で交渉に来ることがある。もし成績を丸めないなら、交渉は 1 点単位で非常にシビアになることが予想される。しかし、89.5 点の学生は A をあげれば満足して帰っていくので、教授側としては多少気が楽になる。最近では、これが GPA が存在する最大の理由のような気がしている。


雇用者の 78% が GPA を学部生の採用基準の一つに用いているというデータもあり (3)、アメリカではこれは重要な指標になっている。

とくに、アメリカの教育制度は以下のデータで示されるように、ある意味で破綻しており、卒業が能力の保証にならない現状があるようだ (3)。せめてもの指標として GPA が使われているということだろう。

  • 45% の大学生は、2 年間勉強しても critical thinking, analytic reasonin, writing ability に有意な上昇が認められない (3)。4 年間でも 36% に変化なし。つまり 1/3 の学生は大学でこれらを全く身につけていない。
  • 45% の大学生は、2 年間勉強しても critical thinking, analytic reasonin, writing ability に有意な上昇が認められない (3)。

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Grade inflation と A の割合

上の項目でも少し触れたように、GPA 平均は年々上昇している。これは緩やかな上昇ではなく、Grade inflation または GPA inflation とも表現される急激な増大である (3)。

Stroebe 2020a, アメリカのgrade inflation

Grade のパーセンテージ、平均値などのデータで、目についたものを表にしておく。

アメリカの大学での分布 (3)

  • 2008 年にはおよそ A 43%、B 35%、C 15% で、正規分布とは程遠い。
  • 1960 年には C を最頻値 (約 35%) とした正規分布に近く、A は 15% 程度。
  • ブラウン大学の 2009 年の卒業生の成績は、2/3 が A であった。

私立・公立の比較 (2)

Private school の平均は、2013 年の統計でなんと 3.3。Public school はやや低く、3.1 弱が平均値。一応 C が平均とされているが、実際には B が平均になっている。

筑波大学ガイドライン (5)

日本の指標も見つけることができる。筑波大学は A+ を採用しており、目標値は学部によって異なる。もっとも寛容なのは人間学群で、「A+ と A の割合を 50% 未満とする。ただし、教育効果が上がった場合にはこの限りではない」という文言がある。

A+ と A の割合が 30% 程度というのが、もっとも厳しい目標値。


成績は上昇傾向にあるにも関わらず、大学生の勉強時間も低下傾向にある (3)。勉強時間が 12 - 14 時間/週という数字が文献 3 に出ているが、これが講義の時間を含んでいるのかどうかよくわからない。

> これは、学生からの評価に基づく大学教員の評価とも関係していると思われる (3)。

  • Student evaluation は、大学の執行部が教員を評価する中心的な方法である。
  • Student evaluation が高いほど講義の質も高いと判断される。
  • 学生が期待する成績と、教員の評価に相関があるという報告。つまり、A をくれそうな教員または実際に A をくれた教員は、学生からの評価が高いということ。

成績評価に厳しい教員は student evaluation も低くなり、大学からの自身の評価も下がってしまうことを考えると、GPA inflation は当然の帰結と言える。そもそも学生の評価を、教員の評価に反映させるのが間違いだったのであろう。国家試験、大学院入学試験など、学生のペーパーテストの成績に応じて教員を評価する方が、まだマシな方法だったと思われる。

「全て相対評価、上から 20% が A」というような、強制力のある統一ルールを作る以外、この傾向を食い止める方法はないのではないか。

> 同じく、student evaluation と grade についての論文 (6)。

  • Student evaluation of teaching (STE) は、1920 年代に、Remmers と Guthrie が独立に提唱した。
  • 彼らは STE を学生からの講義へのフィードバックという意味合いで提唱し、教員のみが見ることができるとした。これを university administration が教員評価に使うようになった (管理人コメント: これが諸悪の根源か)。

Final Exam での救済

アメリカの大学の講義では、学期に最低でも 2 回 (mid-term と final)、しばしば 4 回ぐらいのテストがあるのが普通である。

Final exam が comprehensive (学期の内容の全てが対象となる) な場合、この試験の成績を以って出来が悪かった以前のテストのスコアを塗り替える場合がある (4)。


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References

  1. CAT のアメリカ東海岸留学. GPA (成績) のカラクリ. Link.
  2. GradeInflation.com Link.
  3. Pearce 2017a. How employers can stanch the hemorrhaging of collegiate GPA credibility. Bus Horiz, 60, 35-43.
  4. Final exam replaces lowest test grade. Pdf file: Last access 2017/12/06.
  5. 成績評価分布の目標について. 筑波大学資料. Pdf file: Last access 2017/12/06.
  6. Stroebe 2020a. Student evaluations of teaching encourages poor teaching and contributes to grade inflation: A theoretical and empirical analysis. Basic Appl Soc Psychol 42, 276-294.

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