学生はどこまで「労働力」か? - アカハラ問題へのリンク集も

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このページの最終更新日: 2024/02/14

  1. 概要
  2. 大学の顧客は誰か
  3. 適切な教育を受ける権利
  4. アカハラ問題へのリンク集

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概要

大学の研究室は、アイディアと労働力を主なインプットとし、研究成果を主なアウトプットとするグループである。研究室主催者 (PI, principle investigator)、学生、博士研究員などが在籍し、お金 (いわゆる研究費) や試薬が使われることもある。

研究の過程で構成員も何かを学び、この結果が「教育」と呼ばれるものになる。研究成果、教育成果のどちらを重視するかは、PI の方針などによって異なるだろう。



このシステムは、講座制の是非や研究費の柔軟性など考えるべき問題を多く含んでいるが、このページでは「学生をどの程度 PI (多くの場合「教授」) の好きなように扱って良いか」について考えてみる。もちろん、法的・人権的な意味で問題のある行為は論外であり、考えるのは「学生の研究の方向性にどこまで干渉して良いか」という問いに近い。


背景
  • 学生は、研究室に配属された学部 3 - 4 年生と、修士課程、博士課程の大学院生である。
  • 博士課程の大学院生ならば、通常は 20 代中盤から後半であり、「学生」といってもそれなりに経験を重ねている。
  • 大学院生は、アメリカならば研究室から給与を受け取る立場であるが、多くの日本の研究室では学費を払っている「お客様」である。奨学金も学生ローンのようなものが多い。

大学の顧客は誰か

まず、研究室において学生はどのような立場であるかについて考える。

かつて学生は単なる奴隷であったが、次第に「学生様はお客様」であるというように認識が変化し、最近ではこれをさらに一歩進めた「本当に学生はお客様か?」という論説がよく目に留まるようになった (1,2)。これらは、人材を育むという大学の社会的な役割を重視し、社会が大学の顧客 ではないかと考えるものである。この場合、学生は顧客ではなくむしろ「商品」に近い位置づけとなる。

もちろん、顧客の意味が「お金を払う人」ならば、大学の顧客は、学生であり、多くの場合、実質的に、学生の親なのでしょう。しかし、社会の組み立てからみると、社会の必要とする人材の供給が大学教育の目的のように思われるので、供給を受ける側を顧客とみなすと、社会が顧客になる。そのように、考える余地はないのでしょうか。

文献 1 より


大学側からみると、この視点は正しい。そのために、実際に税金が投入されているわけであるから。

教員が、この認識に基づいて学生を商品として扱うのも間違ってはいない。

しかし、顧客は別に一つとは限らない わけで、誰が何と言おうと学費を払っている学生 (または保護者) も間違いなく顧客である。これを否定したいなら、学費をとらずに税金だけで運営すればよい。

つまり、大学には少なくとも

  1. 学生
  2. 学生を人材 (商品) としてのちに使用することになる「社会」

という 2 種の顧客が存在する。両者とも、支払いに見合った範囲のサービスを大学に要求する権利があるが、それらの利害が一致しないことも可能性としてありえるわけである。

たとえば、国旗に敬礼するような愛国心に満ち溢れた学生を量産すると喜ぶような顧客と、そのようなことを刷り込まれては「グローバルな社会」で活躍できないと考える学生、のような関係である。大学は、このような複雑なバランスのなかで学生を教育することを求められている。

しかしながら、これは大学側が解決すべき問題であって、学生が忖度する必要はなく、自分の基準で、払った学費に見合うと考えられるサービスを受け取ることを主張してよい はずである。


結論

  • 大学側からみると、学生は複数ある「顧客」の一つにすぎない。
  • しかし、学生側は払った学費に見合う分のサービスを受け取ることを主張してよい。

適切な教育を受ける権利

では、その「サービス」とはどんなものだろうか? 大学においては、これは「適切な教育」と言い換えても良いだろう。ここでポイントになるのは、どのような教育が「適切」であるかという点である。

  1. この研究室では を扱っているのに、配属された学生が「肝臓の研究がしたい!」と言い出した。無視して別のテーマを与えた。
  2. 博士号の取得には 査読付き論文 3 報が必要なため、院生がデータを小分けにして投稿しようとしていたが、良いジャーナルに出したいのでまとめさせた。その結果卒業が遅れた。
  3. あまりに多くの実験を平行してやっている学生がおり、かえって効率を下げていることが明らかであったので、優先度の高い実験に集中するように指導した。本人は不満気であった。
  4. たくさん実験をすることは本人のためでもあるので、研究室では朝 8 時から夜 10 時まで働くことを義務付けている。論文を読んでいると実験する時間が減るので、これは時間外に行うことを推奨している。
  5. 分子 A で 免疫沈降 を行ったところ、結合タンパクとして分子 B と C がとれてきた。B の方が論文になりやすそうだが、C は完全に新規分子なので、大変ではあるがこっちを中心に進めてもらいたい。

結局は、学費と研究にかかる費用で判断するしかないのでは

教員と学生の関係を考えた場合、運が良い場合には利害が一致するが、上のように見事に相反する場合もあり、どちらが正しいのかも結局はわからないことが多いものである。

研究室において教員と学生の利害が一致しない場合、以下のような相互理解があれば、トラブルの防止に繋がるのではないかと考える。

  1. 研究方針や論文出版に関しては、「学費 + 学生の指導のために教員が国から受け取っているお金 (運営費交付金など)」の範囲内では、学生の利益を最大化する方向で判断する。
  2. その研究が、教員の外部資金に大きく依存している場合には、教員が研究方針を決める権利をもつ。
  3. 判断が「学生の利益」に繋がっているかどうかの判断を下す権利は学生にあり、当事者の教員にはない。第三者の意見を参考にできる環境の構築も重要である。

学生は馬鹿ではない。現実的な方策。

現実的には、この概念を判断基準とすることについて、学生との間に合意を形成しておく だけで、状況は大きく改善すると考えている。一番の問題は、教育という便利な言葉のもとで、教員側の判断が正しいとされてしまう状況 であり、そろそろこの都合の良い「教育」はやめるべきである。

本当の目的は「教育」でなく、教員の利益の確保であることに多くの人が気づいている。このような状況における「教育」という言葉には「調査捕鯨」にも似た滑稽さがある。これがアカデミアの衰退を招いている一因であることを自覚すべきである。

つまり、研究室のメンバーになる際に、以下のような点について確認する。

  • 研究室というものが、どういうシステムで成り立っているのか。ちなみに、私はこのような指導は受けたことがない。
  • 学生は、自分が十分な教育サービスを受け取っているかどうかを判断する権利を有するが、「学費 + 学生の指導のために教員が国から受け取っているお金 (運営費交付金など)」以上の教育サービスを要求する権利はない。
  • 研究に関して言えば、多くの場合この「学費 + α」 だけでは十分な研究を行うのには足りず、教員の外部資金に依存することになると予想される。したがって、研究の方向性は教員の意向にある程度沿ったものであるべき。
  • しかしながら、実際には学生が実動部隊となるため、その分の労働力はお金のバランスに反映されるはずである。また、実際に教員が全ての研究内容をフォローするのは不可能なので、その意味で学生も発言権がある。
  • 教員の態度は、このようなバランスで決まっている。研究の方針も然りである。

こうして相互理解を深めるだけで、トラブルはずいぶん減るのではないかと予想する。また、この説明は 論文のオーサーシップで生じる問題にもプラスに働くはずである。


結論

自分が学生を使っているのを、教育という言葉でごまかしてはダメ。


追記予定

お客様と戦力をきっちりと区別し、責任の範囲が曖昧なまま学生に頼るシステム自体を改善するべき。実際に最大の戦力が大学院生の場合は、給与を払って雇用に近い関係にするのが理想であろう。

アカハラ問題へのリンク集

とりあえず、貴重な情報だと思ったページを集めておきます。EndNote で保存。

  • Togetter: 研究室の学生に対しアカハラをはたらいてくる教授がいるので告発したい!とある院生の一連の動きまとめ. Link: Last access 2019/06/16.
  • 弘前大准教授が女子学生と海外出張で13泊同室. Link: Last access 2019/06/16.
  • アカデミック・ハラスメントを巡って. Link: Last access 2019/06/16.
  • ブラックラボについて思うこと. Link: Last access 2019/06/16.

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References

  1. 森本紀行はこう見る - 大学の顧客と大学の財務 - Link.
  2. Deus ex machinaな日々. Link.
  3. "Humpback stellwagen edit" by Whit Welles Wwelles14 - Own work. Licensed under CC BY 3.0 via Wikimedia Commons.

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