プラスミド: 染色体外に存在する環状DNA

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このページの最終更新日: 2024/07/26

  1. 概要: プラスミドとは
  2. 各種プラスミドベクターの特徴
  3. プラスミドの複製

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概要: プラスミドとは

プラスミド plasmid とはバクテリアに含まれる DNA から成る構造で、染色体とは独立して分裂することができる。英語での定義は以下の通り (1)。

A structure in bacterial cells consisting of DNA that can exist and replicate independently of the chromosome.


日本語の定義は、例えば「細胞内で宿主染色体とは別に自律複製・ 増殖し、かつ細胞分裂に際し子孫の細胞に受け渡され安 定に維持される遺伝因子」 (4)。

抗生物質への耐性などを宿主に付与する機能がある。分子生物学実験では、遺伝子を運ぶためのベクター vector としてよく使われる。

各種プラスミドベクターの特徴

分子生物学実験でよく使われるプラスミドベクターを表にした。

ミニプレップの収量から、プラスミドが高コピーか低コピーかを大まかに見積もることができる (3)。1 mL の LB 培養液から 3 - 5 µg のプラスミドがとれれば高コピー、0.2 - 1 µg ぐらいなら低コピー。細胞あたりのプラスミド数も表にあるので参照のこと。

クローニングベクター

pUC

500 - 700/cell の高コピープラスミド (2-4)。DNA 断片が挿入されていれば白、されていなければ青のコロニーとなるカラーセレクションができる。

pGEM

300 - 400/cell (3)

pBruescript

300 - 500/cell (3)

大腸菌発現ベクター

pET

タンパク質の大腸菌発現系でよく使われる。参考: IPTG によるタンパク質の発現誘導

500 - 700 コピーの pETUA から、10 - 20 コピーの pETBA, pETIA など、用途に応じていろいろな種類を使用可能。

pGEX

pCOLADuet

20 - 40/cell ()

未整理

pTZ

More than 1000/cell (3)

pBR322 and derivatives

10 - 25/cell (3)

pACYC and derivatives

10 - 12/cell (3)

pSC101 and derivatives

~5/cell, very low copy (3)

pLysS, pLysE, pLacI, pRARE, pRARE-2

20 - 40/cell ()

プラスミドの複製

ColE1 型プラスミドの複製は、以下のように行われる (4)。

  1. ori の 550 塩基上流のプロモーターから複製起点の約 150 塩基下流まで RNA II 前駆体が転写される。5' 側は複雑な二次構造を形成し、3' 側は複製開始部位と DNA-RNAのハイブリット鎖を形成することができる。
  2. RNA II 前駆体は切断を受けて成熟 RNA II となり、その 3' 側をプライマーとして ori から DNA 合成が開始される (リーディング鎖)。
  3. DNA 合成を開始するのは DNA polymerase I で、これが身長反応の途中で III に交代する。
  4. 伸長に伴いラギング鎖が出現するが、成熟型 RNA II に邪魔されラギング鎖合成は途中で遮断される。したがって DNA 複製は一方向にしか進行せず、これは θ 型のプラスミド複製と呼ばれる。
  5. ori の上流 455 塩基から逆向きに、108 塩基からなる RNA I が転写される。これは RNA II のアンチセンス RNA であり、RNA II の 5'末端側と完全に相補的な配列である。RNA I と II が二本鎖を形成すると、RNA II は成熟型になることができない。つまり、RNA I は細胞内のプラスミド数を制御する。
  6. さらに、ori から 400 塩基下流に、RNA one modulator (Rom)または repressor of primer (Rop) と呼ばれるタンパク質がコードされている。Rom/Rop は RNA I および II に結合し、kissing complex と呼ばれる安定な複合体を形成する。つまり、RNA I によるプラスミドの複製抑制効果を増強する。

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References

  1. Amazon link: Hine (2015). Oxford Dictionary of Biology.
  2. Green and Sambrook, 2012a. Molecular cloning: A laboratory manual, 4th edition. Cold Spring Harbor Laboratory Press.

分子生物学関係のプロトコール集では、この本よりも有名なものはないだろう。

日本語版がない、電子書籍版もない、値段が高い、重いなど問題点は多々あるが、それでも実験室に必ずあるべき書。ラボプロトコールをまとめたりする時間を大いに節約することができる。

このサイトにあるプロトコールも、多くはこの本の記述を参考にしたものである。

  1. How do I know if my plasmid is a high- or low copy number type? Link: Last access 2024/01/02.
  2. 橋本, 2011a. pUC プラスミドにまつわるエトセトラ. 生物工学 89, 609-613.

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