作業環境測定:A測定、B測定、管理濃度、管理区分

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このページの最終更新日: 2026/10/05


  1. 概要:何を評価する制度か
  2. 単位作業場所と測定計画
  3. A測定:通常時の濃度分布を評価する
  4. B測定:最も高濃度となる条件を評価する
  5. 管理濃度:作業環境評価の物差し
  6. 管理区分:第1・第2・第3管理区分
  7. 研究室・実験室での実務対応
  8. 個人ばく露測定との違い
  9. 判定・改善のトラブルシューティング

1. 概要:何を評価する制度か

作業環境測定は、化学物質、粉じん、放射線、騒音等の有害因子が存在する作業場について、作業環境の実態を把握し、設備・工程・作業方法の改善が必要かを判断するための測定である。化学物質については、単位作業場所を対象に空気中濃度を測定し、その結果を管理濃度と比較して第1管理区分、第2管理区分または第3管理区分に評価する(1,2)。

管理濃度 とは、「有害物質に関する作業環境の状態を、単位作業場所の作業環境測定結果から評価するための指標として設定された濃度」 (下に説明あり)。個人的には、適当に定めた基準値と考えている。

この制度の対象は、個々の作業者の吸入量そのものではなく、まず作業場という「場」である。したがって、結果は局所排気装置、ドラフト、全体換気、発散源の密閉化、工程配置、清掃法、保管方法等を改善する根拠として用いる。指定作業場では、作業環境測定士等が、測定のデザイン、サンプリング、分析および評価を系統的に行う(1,3)。

基本の流れ

1. 作業内容、発散源、換気設備、作業者の動線を調査し、単位作業場所を設定する。

2. 通常時の分布を把握するA測定と、高濃度が予想される条件を把握するB測定を計画する。

3. 分析値を管理濃度と比較し、管理区分を決定する。

4. 第2または第3管理区分であれば、発散源対策・換気対策・作業方法の見直しを行い、必要時には再測定で効果を確認する。


覚え方

  • A 測定 = average のA = 平均、B 測定 = bad の b = 高濃度
  • 第一評価値 = 高濃度側 5%、第二評価値 = 算術平均。合わせて「イチゴ大好き算数」

2. 単位作業場所と測定計画

単位作業場所とは、作業内容、有害物の発散状況、換気条件等が概ね同一であり、一つの作業環境として評価できる範囲である。室内全体を機械的に一単位とするのではなく、発散源や作業形態が異なる区域を適切に区分することが、測定の妥当性を左右する。

例えば研究開発施設では、同じフロアであっても、有機溶媒を使用する合成実験室、粉体を秤量する原料調製室、 HPLC 用移動相を調製する区画、細胞培養 のための部屋、廃液を集約する場所は、発散源および換気条件が異なる。必要に応じて別の単位作業場所として測定計画を設計する。

調査項目 確認内容 測定設計への影響
有害物の種類 有機溶剤、特定化学物質、金属、粉じん等。混合物では各成分と分析法を確認する。 捕集媒体、流量、採取時間、管理濃度および評価方法を決める。
発散源 開放容器、反応槽、秤量作業、移し替え、洗浄、廃液、漏えい箇所等を確認する。 B測定の場所・時間、改善すべき一次対策を決める。
換気条件 局所排気、ドラフト、プッシュプル換気、全体換気、給気、扉・窓の開閉を確認する。 濃度分布の偏りおよび換気不良区域を把握する。
作業時間 通常作業、ピーク作業、非定常作業、夜間作業、清掃・保全作業を確認する。 A測定の代表時間とB測定の最悪条件を選定する。

測定日に通常と異なる操業停止、設備故障、使用量の大幅な変動、窓の開放等があれば、結果の代表性が損なわれる。測定記録には、使用化学物質、使用量、作業時間、換気設備の運転状態、異常の有無を残すことが重要である。

3. A測定:通常時の濃度分布を評価する

A測定は、単位作業場所内の複数の測定点で、通常の作業状態における空気中有害物質濃度を測定し、作業場所全体の濃度分布を評価する方法である。原則として一単位作業場所につき5点以上で測定し、測定値を統計処理して第1評価値および第2評価値を求める(2,4)。

A測定の目的は、単純な平均濃度を得ることではない。低濃度の地点が多くても、一部に高濃度区域があれば、作業者の移動や作業内容によってばく露につながり得る。統計評価により、空間的なばらつきを含めた作業場の状態を評価する。

第1評価値と第2評価値

評価値は、測定値の対数正規分布を前提とする統計的な処理に基づく。実務上は測定機関の報告書に記載された値を用いる。概念的には、第 1 評価値は「高濃度側を重視した評価値」、第 2 評価値は「算術平均濃度の推定値 (試験では幾何平均とするひっかけもあるので注意)」であり、両者を管理濃度と比較して管理区分を決定する(2,5)。

項目 A測定の内容
評価対象 単位作業場所全体の通常時の濃度分布
測定点 原則として5点以上。格子状の区画等を基礎に、作業場所の代表性を考慮して選定する。
測定時間 通常の作業が行われ、有害物の発散を代表できる時間帯
結果の扱い 各点の測定値を統計処理し、第1評価値・第2評価値として管理濃度と比較する。
主な検出対象 広範な換気不良、局所排気の捕捉不良、作業場内の拡散、保管・廃液管理不良等

研究室では、ドラフト近傍だけでなく、室中央、出入口付近、廃液容器付近、秤量区域、空調の吹出し・吸込みの影響を受ける場所を考慮する。ドラフト前面を測定点に含める場合も、その場所が通常の作業空間なのか、B測定で扱うべき発散源近傍なのかを区別する必要がある。

4. B測定:最も高濃度となる条件を評価する

B測定は、有害物質の濃度が最も高くなると予想される時間・場所において実施する測定である。A測定が通常時の作業場全体を対象とするのに対し、B測定は短時間のピークばく露につながる条件を意図的に捉える(2,4)。

対象となりやすいのは、粉体の開封・秤量・投入、溶媒の移し替え、反応容器や洗浄槽の開放、ろ過・濃縮、廃液容器の開閉、局所排気装置の開口部近傍での作業、設備保全および異常時対応である。B測定は「普段の室内平均」ではなく、最も悪い合理的な作業条件を選ぶことに価値がある。

B測定の選定手順

1. 化学物質の使用工程を時系列で書き出し、開放操作・投入・加温・攪拌・洗浄・廃液処理を抽出する。

2. 作業者、現場責任者、衛生管理者から、臭気、刺激感、粉じん飛散、ドラフトからの逆流等が起きる場面を聴取する。

3. 発散量、作業者の呼吸域への近さ、局所排気の有効性、作業頻度を総合して、最も高濃度が予想される条件を選定する。

4. 測定時には、作業手順、容器開放時間、ドラフトサッシ高さ、局所排気の稼働状態等を記録する。


B測定を「平均的な作業」で済ませると、高濃度ピークを見逃す。一方、実際には行われない非現実的な最悪条件を作ることも適切ではない。日常または定期的に実施される作業のうち、合理的に最大の発散が想定される条件を対象とする。

5. 管理濃度:作業環境評価の物差し

管理濃度は、作業環境測定の結果を評価するため、対象物質または作業の種類ごとに定められた基準値である。A測定の第1・第2評価値およびB測定値を管理濃度と比較し、単位作業場所の管理区分を決定する(5)。

管理濃度は、作業環境を改善・維持するための行政上の評価指標であり、個人ばく露の許容上限値そのものではない。したがって、管理濃度と、日本産業衛生学会の許容濃度、ACGIHのTLV、SDSに記載される職業ばく露限界値(OEL)は、同じ数値であっても目的・評価単位・時間基準が異なることがある。

管理濃度未満であることは、あらゆる個人ばく露や健康リスクがゼロであることを意味しない。管理濃度未設定物質、新規化学物質、皮膚吸収が問題となる物質、短時間の高濃度ばく露が起こり得る工程では、個人ばく露測定および化学物質リスクアセスメントを併用する必要がある。

指標 主な評価対象 主な用途
管理濃度 単位作業場所の作業環境 A測定・B測定の結果から管理区分を決定し、環境改善の必要性を判断する。
許容濃度・TLV・OEL 労働者の個人ばく露 8時間TWA、短時間ばく露、天井値等と比較し、個人または類似ばく露群のリスクを評価する。
生物学的モニタリング指標 体内取り込み 尿・血液等の指標を用い、吸入以外の経路も含めたばく露を補助的に評価する。

管理濃度が設定されていない物質は少なくない。その場合でも、SDS、GHS分類、毒性データ、物性、使用量、揮発性・粉じん性、作業時間、局所排気の有無を基にリスクアセスメントを行い、必要に応じて個人ばく露測定または独自の管理目標値を設定する。

6. 管理区分:第1・第2・第3管理区分

管理区分は、A測定の統計評価値およびB測定値を管理濃度と比較して決定する、単位作業場所の作業環境管理の判定である。第1管理区分は適切に管理されている状態、第2管理区分は改善の余地がある状態、第3管理区分は管理が適切でない状態を示す(5,6)。

管理区分 判定の要点 状態の解釈 基本対応
第1管理区分 第1評価値およびB測定値が、ともに管理濃度未満である。 ほとんどの場所で管理濃度を超えないと評価され、作業環境管理は適切と判断される。 現状維持、局所排気・ドラフトの定期点検、工程変更時の再評価を行う。
第2管理区分 第1には該当せず、第2評価値が管理濃度以下であり、かつB測定値が管理濃度の1.5倍以下である。 平均的な状態は許容範囲にあるが、局所的または一時的な高濃度があり、改善余地がある。 発散源、局所排気、作業方法、保管・清掃を点検し、優先順位を付けて改善する。
第3管理区分 第2評価値が管理濃度を超える、またはB測定値が管理濃度の1.5倍を超える。 作業環境管理が適切でないと判断される。継続的またはピーク時の高濃度ばく露が懸念される。 原因調査と環境改善を実施し、改善後に再測定・再評価を行う。改善までの間は必要な暫定措置を講じる。

第1管理区分の趣旨は、単に平均濃度が低いことではなく、統計的に見て単位作業場所のほとんど、概ね95%以上の場所で管理濃度を超えないと評価できることである(6)。このため、少数の高濃度点がある場合は、平均値だけが低くても第1管理区分とはならない。

判定の例

管理濃度をCとする。有機溶媒を使用する実験室で、A測定では室内の大部分が0.1C~0.4Cであっても、統計処理された第1評価値がC以上であれば第1管理区分にはならない。また、溶媒移し替え時のB測定値が1.7Cであれば、A測定が良好でもB測定値が1.5Cを超えるため第3管理区分となる。これは、室内平均ではなく、実際に高濃度が生じる作業を改善すべきことを意味する。

7. 研究室・実験室での実務対応

研究室では、少量多品種の試薬、頻繁な工程変更、研究者ごとの差が大きい操作、ドラフトの多目的使用、短時間の秤量・移し替え等により、作業環境が変動しやすい。管理区分を改善する際は、呼吸用保護具だけに依存せず、発散源対策、経路対策、作業管理の順に検討する。

優先順位 対策例 研究室での具体例
1. 発散源対策 代替、少量化、密閉化、自動化、密閉容器化 高揮発性溶媒を低揮発性溶媒へ代替する。試料を小分けし、開放時間を短縮する。粉体投入を密閉系へ移す。
2. 経路対策 局所排気、ドラフト、囲い式フード、全体換気、配置変更 秤量作業を専用の局所排気下へ移す。ドラフトのサッシ開口を最小化する。廃液容器を排気下に配置する。
3. 作業管理 手順標準化、教育、点検、清掃法の変更、使用時間の短縮 溶媒移し替えの手順を統一する。ドラフトの面風速・警報を定期点検する。乾式清掃を避けて適切な湿式清掃を行う。
4. 個人用保護具 適切な呼吸用保護具、保護手袋、保護眼鏡 環境改善が完了するまでの暫定措置として用いる。保護具は選定・フィット・交換・教育を含めて管理する。

第2・第3管理区分が出た場合の実務フロー

1. 報告書のA測定値、評価値、B測定値、採取位置、採取時の作業内容を確認する。

2. 高濃度地点・高濃度作業を現場で再現し、局所排気の捕捉、ドラフト運用、容器開放、廃液、清掃等の原因を特定する。

3. 保護具の追加のみで完結させず、発散源および換気の改善策を設計する。

4. 改善内容、実施日、担当者、設備点検結果を記録し、必要に応じて再測定で効果を検証する。

5. 高ばく露が継続する可能性がある場合は、産業医、衛生管理者、作業環境測定機関と連携し、個人ばく露測定および健康管理措置を検討する。


8. 個人ばく露測定との違い

作業環境測定と個人ばく露測定は混同されやすいが、評価対象が異なる。前者は作業場の空気環境を評価して環境改善を促すものであり、後者は作業者の呼吸域で実際にどの程度の濃度にさらされるかを評価するものである。個人サンプラーを用いる場合でも、そのデータを「場」の評価に使うか、「人」のばく露評価に使うかで位置づけが異なる(3,7)。

観点 作業環境測定 個人ばく露測定
評価対象 単位作業場所という「場」 作業者個人または類似ばく露群という「人」
主な測定法 定点のA測定・B測定。条件により個人サンプリング法によるC測定・D測定。 作業者の呼吸域に個人サンプラーを装着し、実作業中の濃度を測定する。
主な比較対象 管理濃度 許容濃度、TLV、OEL、8時間TWA、STEL、天井値等
主な活用 局所排気・全体換気・密閉化・工程改善・管理区分判定 作業別・個人別のリスク把握、保護具管理、健康管理、リスクアセスメント

例えば、実験室のA測定が良好でも、特定の研究者がドラフト外で粉体を秤量していれば、その研究者の呼吸域濃度は高い可能性がある。逆に、室内の一角で濃度が高くても、作業者がそこに近づかない場合は個人ばく露が相対的に低いことがある。ただし、いずれの場合も作業環境上の問題を放置してよいことにはならない。

9. 判定・改善のトラブルシューティング

状況 想定原因 確認・対策
A測定は低いがB測定が高い 短時間の開放操作、ドラフトの捕捉不良、粉体秤量、容器開封時のピーク発散 高濃度作業を動画・作業観察で分解する。局所排気の位置・風量・運用、容器の開放時間、作業者の立ち位置を見直す。
A測定で局所的に高い点がある 廃液容器、保管庫、ドラフト外作業、給排気の偏り、漏えい 測定点周辺の発散源を特定する。密閉、排気下への移設、保管方法の変更、空調・換気の確認を行う。
管理区分が毎回ばらつく 使用量・作業時間・季節・窓開閉・設備運転条件の変動、測定日の代表性不足 操業条件を定量記録する。高負荷日・通常日を区別し、測定計画と単位作業場所の設定を再検討する。
第1管理区分だが作業者に臭気・刺激感の訴えがある 短時間ピーク、管理濃度未設定物質、複合ばく露、皮膚・眼への刺激、換気の局所不良 訴えが出る工程を特定し、B測定または個人ばく露測定を追加する。SDS、物質の短時間基準、皮膚吸収性を確認する。
保護具を追加しても根本解決しない 発散源・換気の改善不足、保護具の選定不適合、フィット不良、交換時期不明 密閉化・局所排気を優先する。呼吸用保護具は暫定または補完対策として、選定・フィット・教育・保守を一体で実施する。

作業環境測定の報告書は、管理区分だけで終わらせず、測定地点図、各測定値、評価値、B測定の作業条件、前回からの変化、換気設備の点検記録と併せて保管・レビューする。これにより、工程変更や設備劣化によるリスクの早期検出が可能になる。

10. 参考文献

  1. 厚生労働省. 労働安全衛生法第65条に規定する作業環境測定に関する情報. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000094161.html
  2. 厚生労働省. 作業環境測定基準等の改正について(報告). A測定は一単位作業場所につき5以上、B測定は最も濃度が高くなる時間と作業位置で実施することを示す資料. https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001212760.pdf
  3. 厚生労働省. 個人サンプラー測定と作業環境測定の関係. 個人サンプラーを用いる場合も、評価対象・用途により作業環境測定と個人ばく露測定を区別する考え方を示す資料. https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000210054.pdf
  4. 厚生労働省. 個人サンプリング法による作業環境測定の拡大等について. https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001181576.pdf
  5. 厚生労働省. 作業環境評価基準(昭和63年労働省告示第79号). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74088000&dataType=0&pageNo=1
  6. 厚生労働省. 作業環境評価基準の適用について. 第1・第2・第3管理区分の解釈を示す通達. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2166&dataType=1&pageNo=1
  7. 厚生労働省. 個人ばく露測定に係る測定精度の担保等について. https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001154037.pdf

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