NMR J-カップリング: 定義、スペクトルの見方など

experiments/nmr/j_coupling
2018/11/16 更新

  1. 概要: J-カップリングとは
  2. デカップリング について

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概要: J-カップリングとは

磁場の中にある 2 つの核スピン間の相互作用で,結合性電子の影響によるものを J-coupling という。プロトン NMR では,以下の関係にある 水素原子のシグナルの分裂 として観察される。


ビシナル vicinal プロトン

隣り合う炭素に結合しているプロトン。vicinal は「近所の,近接の」という意味である。-CH-CH-

ジェミナル geminal プロトン

同じ炭素に結合しているプロトン。一つの原子に同種原子が2つ結合した状態を geminal という。-CH2-

図は酢酸エチルの H-NMR スペクトルである (2)。プロトンに由来するピークが 3 つあり,右と左の 2 つが J-coupling によってそれぞれ 4 本と 3 本に分裂している。

構造式 H3C-COO-CH2CH3 を使って、これらの帰属を行ってみる。



H-NMR では,分裂で生じるピークの数はビシナル水素の数 + 1 になるという規則がある (n + 1 ルール)。ゆえに、

  1. 一番左のメチル基は,ビシナル水素がないのでピークは1本。よって中央のピーク。
  2. 中央の CH2 のビシナル水素数は,その隣のCH3から計算するので 3 + 1 = 4 である。したがって左のピークが相当する。
  3. 同様に,右のCH3のビシナル水素数は 2 であるため,これが右のピークになる。

また,J-coupling しているプロトン同士では,その分裂幅 (ピーク間の距離,単位は Hz )が同じになる (2)。この分裂幅のことを J-coupling 値という。


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デカップリング

デカップリング、COSY などの J-coupling に関係する話題についても、とりあえずこのページに記しておく。内容が増えたらさらに整理する。

  • 上記の酢酸エチルの 3 つのピークを、左から A, B, C として説明する。
  • NMR では、多くの核を同時に励起するため、複数の周波数を含むパルスシークエンスを使っている。これを応用すると、たとえば A のピークのみ励起しないというように、ピークの選択的な消去が可能 である。
  • ピーク A は、構造式では中央の CH2 に帰属され、CH3 によるピーク C とカップリングしている。
  • したがって、ピーク A を選択的に消去すると、ピーク C の形が変わる (カップリングの影響も全て消去される)。
  • この例では構造が既知であるが、構造未知の化合物のスペクトルを解析している場合、「近くにある官能基」がわかることになる。これは構造決定に大いに役立つ。

このページ にもホモデカップリングの例がある (3)。


COSY について

Correlation spectroscopy (COSY) は 2 次元 NMR 手法の一つであり、同種の核においてその関係を 2 次元でプロットする方法の総称である。

もっともよく使われるのは 1H-1H COSY である。各シグナルのカップリングの有無を一覧で表示することができる。つまり、上記のデカップリングを全てのピークに対して行うのと同等であると考えて良い。

プロゲステロンの 1H-1H COSY (5) を例に、1H-1H COSY のスペクトルを見てみよう。

2 つの辺に 1H spectra がある。これらのピークの交点は、正方形のプロットで対角線を作り出す。図では右上から左下に対角線が引かれている。これらを 対角ピーク diagonal peak というが、この対角ピークにあまり価値はない。

対角線から外れたところに、対角線に対して対称なピークがいくつか見られる。これらを 交差ピーク cross peaks という。交差ピークは、カップリングしているピークの間に出る。したがって、1 次元 NMR の多数のピークのうち、どれがカップリングしているかがわかることになる。


試料に複数の分子が混じっているとき、1H-1H COSY をとることで、どれが単一の分子に由来するピークなのかを調べることも可能になる。

以下は 1H-1H COSY のパルスシークエンスである (4)。COSY には COSY-90 および COSY-45 という 2 つのよく使われるパルスシークエンスがある。


COSY-45 は diagonal peaks が目立たず、ゆえに cross peaks がより見やすくなる。一方で、COSY-90 の方が全体的な感度は高くなる。

2 次元 NMR では、three dimensional-diffusion-ordered NMR spectroscopy (DOSY) も非常に有効な手法である。DOSY では、定量性は失うものの、混合物から特定の分子のスペクトルを抽出できるようになる (6)。


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References

  1. 田中 2009a. 核磁気共鳴(NMR)スペクトル講義資料. Pdf file.
  2. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 2-20-2014. Link.

実験書のページ に、その他の NMR 関係の本のレビューがあります。


  1. NMRにおけるH-H COSYスペクトル. Link: Last access 2018/11/15.
  2. By User:Nonoelmo - English Wikipedia, パブリック・ドメイン, Link.
  3. By User:Nonoelmo - English Wikipedia, CC 表示-継承 3.0, Link.
  4. 混合試料から各化合物のスペクトルを得る (DOSY 法).Link: Last access 2018/11/16.