リアルタイムPCR: 原理、プロトコール、データ解析など

UBC/experiments/rna/real-time

このページの最終更新日: 2024/02/14


まだ編集中ですが、とりあえず書いたところからアップしていきます。内容が増えてきたら整理します。

  1. 原理と概要
    • 絶対定量と相対定量
  2. プライマーの設計
    • 増幅効率の計算
  3. 融解曲線分析
  4. データ解析
  5. 図の書き方: Y 軸に何をプロットすべきか
  6. その他
    • 逆転写の効率
    • 言葉の問題: mRNA level か mRNA expression か

広告

原理と概要

更新予定。以下のページも参考にして下さい。論文にする際に記載することをまとめた ガイドライン論文 も。

絶対定量と相対定量

リアルタイム PCR には、mRNA の絶対量を算出する 絶対定量 absolute quantification と、特定の遺伝子に対する相対量で表す 相対定量 relative quantification がある。

相対定量において興味のある遺伝子 (標的遺伝子 target gene) 量の標準化に使われる遺伝子を内部標準遺伝子と呼び、どの遺伝子を標準とするかは相対定量リアルタイム PCR の重要な点の一つである (参考: 内部標準遺伝子のページ)。

絶対定量と相対定量には、以下のような違いがある。

  • 最初の組織量や RNA の抽出量が異なると、絶対定量では mRNA 量が大きくばらついてしまう。また、脂肪組織などそもそも mRNA の総量が違う組織での議論が難しい。
  • 相対定量ではこの心配はないが、内部標準遺伝子の mRNA 量が本当に均一であるのかという問題が生じる。

どちらが優れた方法というわけではなく、そのデータを使って何を言いたいのかをよく考え、定量法を決定すべきである。

プライマーの設計

> リアルタイム PCR のプライマーは、以下の条件を考慮して設計する (5)。

  • 増幅産物が短い (80 - 150 bp 程度、300 bp ぐらいまでは許容範囲)。
  • 標的 DNA 配列に安定してアニーリングできる。つまり Tm が適切。
  • PCR の反応効率が良い。プライマーダイマーなどができにくい。
  • 特異性が高い。非特異的な増幅産物ができない。
  • 増幅効率が 100% に近い。上記の諸条件を満たした結果として達成される。

以上がリアルタイム PCR プライマーの条件であるが、プライマー設計の際の一般的な注意点も載せておく (5)。

  • プライマーは 17 - 25 塩基。
  • GC 含量 40 - 60% 程度。T および C の連続、A および G の連続配列も避ける。
  • Forward, reversea primers の Tm 値を揃える。
  • BLAST で配列を確認する。普通の BLAST ではなく Primer-BLAST tool という専用のページが NCBI にある。
  • 3' 末端の塩基、T はダメ、G または C が望ましい。
  • cDNA を使って発現量を調べるときは、可能ならばイントロンを挟むように設計する。これによってコンタミしたゲノム DNA からの増幅を避けることができる。

増幅効率の計算

  1. 標的遺伝子を増幅可能な DNA の希釈系列を準備し、それぞれについてリアルタイム PCR をする。
    • 希釈系列は、たとえば Thermo のページ (6) では 2, 5 および 10 倍で、各 5 サンプルずつ。
  2. 相対 DNA 量と Ct 値をプロットし、直線で回帰する。R > 0.99 でなければならない。軸はどちらでも良いが、DNA 量は対数軸にプロットする。
  3. 増幅効率が 100% のとき、傾きは -3.322 になる。傾きの値と以下の式から、増幅効率を計算する。

増幅効率 = [10(-1/slope)] - 1

融解曲線分析

SYBR でリアルタイム PCR を行う場合には、目的の産物のみが増幅されていることを確認する必要がある。融解曲線分析 dissociation curve analysis or melting curve analysis はそのための方法で、PCR のあとに一定のプログラムを走らせることで行う。なお、増幅産物の アガロールゲル電気泳動 も有効である。

データ解析

Comparative Ct 法などについて更新予定。

図の書き方: Y 軸に何をプロットすべきか

Comparative Ct 法では、RNA 量の相対値のみが得られる。内部標準遺伝子 に対する相対値で表示する方法 (つまり、2-dCt をプロットする) と、特定のサンプルに対する相対値で表示する場合があり、後者の方が一般的なようである。

2-dCt をプロットする

文献 1 に例があるので、図を引用する。縦軸の値が β- actin に対する相対量で示されており、ゆえに小さな値になる。

ここで MIN6 を 1 として軸を書き換えると、次の項目にある「サンプル間の相対値で示す」方法になる。2-dCt をプロットする方が情報量が多くて良いと思うのだが、多くの論文はこの方法を使っていない。


Legend 抜粋 (1)

Comparison of the Expression of T1Rs and Gustducin in Islets and MIN6 cells. mRNA levels for T1R2, T1R3 and Gagust were measured by quantitative PCR in islets and MIN6 cells and expressed as relative to beta actin.


サンプル間の相対値で示す

例になる図がみつかったら追加する。

その他

逆転写の効率

リアルタイム PCR で測定できるのは、サンプル内に含まれる cDNA の量である。論文では、このデータが mRNA 量を表していると考え、mRNA expression または gene expression という言葉を使って議論されることが多い。しかし、この議論をする際には以下のような点を考慮する必要がある。

  • 逆転写の効率が一定とは限らない。mRNA が高次構造をとっていたら、その遺伝子だけ逆転写の効率が低いかもしれない。
  • 同様に、逆転写に oligo dT primer を使っている場合、プライマーが 3' 末端から遠いと、逆転写の効率が低いかもしれない。

以上のような問題は、random primer と oligo dT primer の混合物を使って逆転写することで、かなりの部分解決することができる。

cDNA は希釈すべきか

Thermo Fisher の Youtube がある。

  • PCR 阻害物質 の持ち込みを気にしているなら、問題にならないことが多い。逆転写の阻害の方が起こりやすい。cDNA を希釈するよりは、RNA をきれいにしておくべき。
  • ただし、逆転写 buffer の多量の持ち込みはリアルタイム PCR を阻害する。リアルタイム mixture の 20% 以上 cDNA を入れないこと (ただし、20% はかなりの量)。
  • 18S のような高発現の内部標準遺伝子の立ち上がりが早すぎて、threshold line がうまく引けなくなることがある。これは希釈するよい理由だが、ターゲット遺伝子の Ct が大きくなりすぎないように注意する必要がある。

mRNA level か expression か

Results の書き方のページに移動しました。下記のサイト内検索からどうぞ。

Western blot の W か大文字か小文字か というページにも、似たような言葉の使い方に関する考察があります。



広告

References

  1. Nakagawa et al. 2009a. Sweet taste receptor expressed in pancreatic b-cells activates the calcium and cyclic AMP signaling systems and stimulates insulin secretion. PLoS ONE 4, e5106.
  2. Bartelt et al. 2011a. Brown adipose tissue activity controls triglyceride clearance. Nat Med 2, 200-206.
  3. Livak and Schmittgen 2001a. Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2-ddct method. Methods 25, 402-408.
  4. Schmittgen and Livak 2008a. Analyzing real-time PCR data by the comparative CT method. Nat Protoc 3, 1101-1108.
  5. タカラバイオ, リアルタイム PCR 実践編 - プライマー設計ガイドライン.Link: Last access 2018/06/25.
  6. Qiagen: How do I determine the amplification efficiency of my qPCR assay? Link: Last access 2018/07/03.

Nakagawa et al. (2009a) is an open-access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution License, which permits unrestricted use, distribution, and reproduction in any medium, provided the original author and source are credited. Also see 学術雑誌の著作権に対する姿勢.

コメント欄

サーバー移転のため、コメント欄は一時閉鎖中です。サイドバーから「管理人への質問」へどうぞ。